オキシタケヒコ『筺底のエルピス8-我らの戦い-』

『筺底のエルピス』『ねじまき少女』再読 - logical cypher scape2で書いた通り、4年ぶりの新刊
次巻の9巻が最終巻になることが予告されており、その前段階、戦いの準備をするところで、ある意味、物語的には一番盛り上がるところとも言える。
筆者が、脇役たちの話と言っていたとおり、主人公の出番は少なめだが出てこないわけではないし、外伝的な話というわけでもなく、物語としては真っ直ぐ進んでいる。


6巻の最後から7巻で、門部の寄生端末が月にいる異星知性体とつながってしまい、月の知性体が探し求めている白鬼がいることが知られてしまった。
7巻において、かろうじて、燈を取り戻し、地上の寄生端末3体を再び月から切り離すことには成功したが、月の知性体が次の手を打ってくるのは確実。
というわけで、ゲート組織はそれへの準備にとりかかったのだった、というのが今回の8巻となる。


結、叶とカナエ、ミケーラはマーシアンタクシー27号に乗車。
伊吹は奥多摩に1人残されることになると思いきや、新入りの訓練生が入ってくることになる。
圭が日本政府上層部と、マサさんと冬九郎が警察上層部と調整を行ったり
マーシアン7号車が搭乗するロケットの打ち上げ準備が進んだり
月の知性体をいかに欺くか。
新キャラとして、日本の影のフィクサー(その実は阿黍のパシリ)とか、新たなスリープレスとか


7巻で死んだ真白田の遺体を貴治埼が解剖し、その正体が明らかにされる(今、ましらが猿と変換されて、あっとなった……)。
ハヌマーンとか気になってたけど、情報が少なくてよく分からなかった奴ー
プレヒューマンSF!!


そして、外園隆とかパペッティアとか


カラスカラスカラスカラス


しかし何よりヒルデだよなあ。
4巻最後でさらっと恐ろしいこと抜かしていたけれど、あまりにさらっとすぎてよく分からなかった話も、ここで回収
でもって、新たなボス誕生泣ける


最後、燈の長口上によりこの巻は幕を閉じるが、月の知性体を煙に巻き、かつ門部の職員たちに歓声をあげさせるもので、これもまた感動的であった。
まず、エルピスシリーズって大体、落着したかと思ったら最後にさらなる展開が明かされて、「え、これ積みじゃん」って絶望させられて終わりパターンが多かったと思うのだが、この巻はむしろ、「もしかしたらいけるかも」って一縷の希望がさしたところで終わる形になっていて、ズル
それから、燈というのはこれまで、圭の妹としてその人間としてのキャラクターはしっかり描かれてきたが、門部当主となっているのは、単にその体質のためであって、成り行きで当主とさせられている存在でしかなかったし、当主としての能力も寄生端末もろもろによるものであった。
それがここにきて、人間としての燈の能力(屁理屈というひどい能力だが)が、月との知性体と戦う術の一つとなり、門部の人々にリーダーとして慕われる由になる様が描かれ、人による組織が人としてのリーダーをもつ瞬間であるし、8巻全体で描かれてきた、どんな状況になっても抗ってみせる人々というテーマをまとめる名口上ともなっていた。