佐藤翔『図書館を学問する』

図書館情報学でいったいどのような研究をしているのかを紹介している本
であるが、個人的には、高校・大学時代の友人の初の単著である。
ネット上では、min2-fly(みんつーふらい)というIDを使っているので、そちらの名前の方が分かる人には分かるかもしれない。


彼は元々かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)というブログを学生時代からやっていたわけだが、このブログ名と同じタイトルで雑誌連載をするようになり、その連載をまとめたものが本書となる。
友人がどこで働いているかとかはまあ知っていても、じゃあ具体的にどういう仕事しているのか、というのはよく知らないもとで、みんつーが図書館情報学をやっていることはそれこそ学生時代から知っているが、その中身のことはとんと知らなかった。
実は『筑波批評』に寄稿してもらったこともあるし、佐藤翔「ビジビリティの王国――人文社会系学術雑誌という秘境」『DHjpNo.4 オープンアクセスの時代』 - logical cypher scape2というのを読んだことがあるので、まるっきり知らないわけでもないけれど、やはり知らないことの方が圧倒的に多い。
というか、彼のブログタイトルである電子図書館とか、あるいは、大学図書館や学術出版(論文誌)とかについての研究をしているイメージがあったのだが、本書で取り上げられているのは公共図書館の話で、それこそ「へえ、こんなことやってるのか、全然知らんかった」という感じだった。


ただまあ、この本の内容をどう紹介するか、というと難しい。
というのも、自分も、住んでいる自治体の図書館ユーザーであり、また最近は『税金で買った本』を愛読しており、図書館に対する興味関心はないわけではないが、
しかし、本書を読んで自分が一番印象に残ったのは「そうか、みんつー車買ったのか」だったので、明らかに適切な対象読者ではないからだ。


本人による紹介記事のリンクをはっておこう

下の方の記事から、引用しておく。

ではこの本はなんなのかと言いますと、令和の時代に蘇ってきた「図書館学」の本です。それも図書館の実践に役立ちそうな知見を、現場の実践経験から”ではなく”、データの分析や実験などの科学的手法を用いてこねくり出そうという、20世紀前半以来の「図書館学」を、あえてこの時代に復権させようという目論見の本なのです。
それというのも、日々、新しいサービスや実践が世に現れ、現実の図書館が移り変わっていくのにあわせて学問も進歩している……のはよいのですが、その過程で見過ごされてきた基礎的な知見、「え、そこまだわかっていなかったの?!」「え、ここで止まってるの?!」という、いわば学問としての「取りこぼし」が、やたらといっぱいあるのではないかと思うのです。

まず「図書館の実践に役立ちそうな知見を」というところがポイントで、第一の想定読者は、図書館職員なのだろうと思う。
元となった連載が掲載されていた雑誌は『ライブラリー・リソース・ガイド』といい、どんな雑誌なのか全く知らないが、図書館業界誌なのだと思われるので、やはりそもそもの読者はそういう人たちだろう。
単なる図書館ユーザーとしては、図書館関係のトリビア集かなあ、という感じはする。
もうひとつのポイントが、後半の「「え、そこまだわかっていなかったの?!」「え、ここで止まってるの?!」という」あたりかと思うのだけど、この本の内容はほぼ全て、筆者がリアルタイムで進行している研究を取り上げている。
例えば「図書館情報学者の誰それは、こう言った」とか「図書館情報学には○○という概念があって、××の法則によって△△として説明される」とか言った話は、ほとんど出てこない。
基本的に「○○って気になりませんか? ちょうど、今、こういう研究しているところだったので、○○について調べてみました」みたいなノリがほとんどである。
そして「まだよく分かりませんね。これからも引き続き調べるんで、続報待っててね。俺たちの戦いはこれからだ」みたいな終わり方をしている章もまた多い。
個人的には、この本を読んでいる理由は、友人の仕事を知るためなので、「こんな仕事しているのか」という点で、こういう書かれ方は面白かった。
また、主にはデータ分析をしているので、データ分析のお仕事の記録としても読める。


ところで、「ですます」体の親しみやすい文体で書かれており、一般的には読みやすい文章だと思うが、友人目線でいうと、「お前いったい誰だ」感はあったなー
知り合いの書いた文章だと、その人が実際に喋ってるとこが想像できたりするけど、これはできなかったw

はじめに――なぜ「図書館を「学問」する」姿を本にするのか

第1章 図書館の本棚はいっぱいにならないのか
 1 捨てて怒られる図書館員あれば、捨てずに怒られる図書館員あり
 2 日本の図書館は、年間一千万冊くらい本を捨てている
 3 図書館が本でパンクする日はいつくるのか
 4 「現代あるいは、近未来除籍論」序論?

第2章 本棚のどこにあるかで本の使われ方は変わるのか
 1 職業研究者の第一歩、「科研費」と私
 2 図書“館”の強みは書架とブラウジングである
 3 新たな発見を促す本棚=目につく位置に「思いもしない」本がある本棚
 4 視線追尾装置、登場!
 5 書架は三段目までが七割(もしくは二段目までが八割)
 6 今後に向けて

第3章 図書館の本棚に書かれている数字はなんなのか
 1 「書架番号」、じゃまじゃない?
 2 VR実験の概要と結果
 3 われわれのVR実験はまだ始まったばかりだ!

第4章 なぜ図書館は月曜日に閉まっているのか
 1 ところで本当に月曜日に閉まっているの?
 2 月曜日に閉まっているのは、日曜日に開いているからである
 3 月曜日休館の妥当性

第5章 図書館を訪れる人は増えているのか、減っているのか
 1 大ざっぱにみると――日本全体は二〇一八年に久しぶりに減、都道府県立図書館は微減
 2 細かくみると――三分の二の図書館は微減傾向、三分の一は大幅増傾向

第6章 雨が降ると図書館に来る人は増えるのか、減るのか
 1 晴耕雨読にあこがれて
 2 天候と貸出冊数、ついでに曜日の関係

第7章 どんな図書館がよく使われているのか
 1 先行研究――実は一段落した研究?
 2 結果その1――三十年を経ても精度は健在
 3 結果その2――単純な全国展開は微妙?
 4 結果その3――貸出関数が使い物になる地域とならない地域の違いがわからない

第8章 人はどのタイミングで図書館を使うようになるのか
 1 新規登録者ってどんな人?
 2 新規登録者はそのまま定着するのか?

第9章 図書館を使っているのはどんな人々なのか
 1 世の中には七種類の図書館利用者がいる
 2 図書館利用者のクラスタリング――アメリカでの先行事例とNDL情報行動調査への適用
 3 俺たちのクラスタリングはまだ始まったばかりだ!
 4 終わると思った? もう少しだけ続きます――近年のクラスターの変化

第10章 図書館に税金を使うことは人々にどれくらい認められているのか
 1 背景――図書館の「インパクト」をどう測るか
 2 インパクト測定の一手法――仮想評価法
 3 NDL情報行動調査(二〇二〇年度)での支払い意思額の状況
 4 「千円以上払ってもいい」と思う人かどうかを予測する!……のは難しかった

第11章 子どもと行きたいのはどんな図書館か
 1 子どもがいる図書館情報学者あるある――案外、自分は子どもを図書館に連れていっていない
 2 「子どもの付き添い」で図書館に行く人の特徴
 3 子どもがいる人が図書館に行く街/行かない街/行きたくても行けない街
 4 子どもの有無と図書館に行った/行かなかった/行きたくても行けなかった
 5 自治体の特徴
 6 図書館の特徴

第12章 「あなた」はなぜ、図書館に行くのか
 1 図書館利用をモデル化したい
 2 データと分析手法――NDL情報行動調査のデータをロジスティック回帰にかける
 3 結果――囲碁・将棋が趣味の人は図書館を利用する!

第13章 人々は図書館のどんな写真をSNSで発信しているのか
 1 していない「Instagram」について堂々と語る方法
 2 「Instagram」×図書館――データ取得篇
 3 ハッシュタグ分析――本と図書館にはコーヒーがよく似合う
 4 固有名詞分析――いまフォトジェニックな図書館はここだ!
 5 画像分析――木のデスク・複数冊・子ども
 6 フォトジェニック坂は登り始めたばかり

第14章 図書館への就職希望者が増えるのはどんなときか
 1 何が図書館員の就職戦線を規定するのか
 2 就職内定率と司書資格取得者数の推移
 3 いまがチャンス!

おわりに

はじめに――なぜ「図書館を「学問」する」姿を本にするのか

図書館情報学には3つの起源があるとのこと
(1)図書館の専門職員(司書)を養成する図書館学校の実践的知(19世紀後半のアメリカ)
(2)より「科学的に」図書館に関して研究するアプローチ(1920年代にシカゴ大に図書館学の大学院設置)
(3)研究論文などの文献(あるいは情報一般)の整理・処理の研究(第二次大戦後)
本書は(2)の系譜だが、筆者自身はもともと(3)的な研究で学位をとっている。教員としては(1)でもある、と。

第1章 図書館の本棚はいっぱいにならないのか

東京ドーム何個分という喩えはイメージが湧かない! 筑波大のキャンパス何個分なら、イメージが湧く、とか言ってる
確かに湧くけどさー

第2章 本棚のどこにあるかで本の使われ方は変わるのか

アイトラッカー使った研究
図書館で本を探す際、本棚の下の方は見られていない。

第3章 図書館の本棚に書かれている数字はなんなのか

VR使った実験
図書館の模様替えを伴うような実験は、実際にやるのが大変なので、VR環境使ってやってみようという話

第4章 なぜ図書館は月曜日に閉まっているのか

 

第5章 図書館を訪れる人は増えているのか、減っているのか

 

第6章 雨が降ると図書館に来る人は増えるのか、減るのか

 

第7章 どんな図書館がよく使われているのか

貸出関数というものについて
説明変数から貸出回数を予測する式を貸出関数と呼ぶ
30年前だかの先行研究があって、それを再度やってみようという話
先行研究では、東京など大都市圏ではこの貸出関数がうまく使えたが、富山では使えなかったという結果になっていて、大都市では有効だが地方ではまた違う要因が絡んでいるのでは、とされていたらしいが
今回、さらに様々な地域で使ってみたら、地方でもわりと使い物になったり、都会でも使い物にならなかったりして、貸出関数の有効性が何に起因しているのか、まるで分からなくなってしまった、という結論で終わっている。

第8章 人はどのタイミングで図書館を使うようになるのか

 

第9章 図書館を使っているのはどんな人々なのか

 

第10章 図書館に税金を使うことは人々にどれくらい認められているのか

図書館の経済的インパクトをどのように想定するか
貸し出された本の金額? 周辺地域の施設への流入(いわゆる「経済効果」)? 利用者がかけたコスト(交通費とか)?
これ以外に、アンケート調査で「いくらなら払ってもいいか」と聞くというのがある、と
実際、あなたが払っている税金のうちいくらまでなら図書館にまわしてもいいか、という調査がなされていて、それのデータ分析をしている

第11章 子どもと行きたいのはどんな図書館か

車を買ったエピソードが書かれているのはこの章だったか

 

第12章 「あなた」はなぜ、図書館に行くのか

大きな研究テーマとして、「図書館の利用」があって、ここまで取り上げてきた研究もそれらにつながる
で、ここで、どどんとモデルが出てきて、どういう要因が図書館に利用につながるのか、というちょっと抽象的で壮大な話があったあと、再び具体的なデータ分析の話になる。
最後に、囲碁・将棋が趣味の人と料理が趣味の人は図書館を利用することが多い、というのが出てくるのだけど、これって、公民館と図書館で場所が同じだったりするのでは、とちょっと思った。

第13章 人々は図書館のどんな写真をSNSで発信しているのか

インスタ分析
ハッシュタグ図書館で投稿されているポストの分析
写真の分析とか、人工知能でできたらいいなあという夢を語りつつ、とりあえず分析の端緒ということで、無作為抽出した100枚を目視で確認して分類した、と書いてあって、あーそういう感じの作業やってんのかー、と。

第14章 図書館への就職希望者が増えるのはどんなときか

そうか、マッキーの「どんなときも」って『就職戦線異状なし』のテーマ曲だったんだ
曲はよく知ってるけど、映画は見たことなかったな。織田裕二
図書館への就職状況などの全国的なデータはなくて、筆者の勤務先である同志社大のデータで分析したとのこと
司書課程を受け持っている身として一応こういうことも意識しとかんとね、みたいなこと書いていて、いやー、みんつもー、そういう意味では「学校の先生」をやってんだなーと

おわりに

子どもの送り迎えしたり、一緒に寝たりしてるよーって話してて、そのタイムスケジュールとかにうんうんとうなずきつつ、子どもかわいいかわいいと書いており、そんなパパになったみんつーにはまだ一度も会ったことないので、それがまたなかなか