『日経サイエンス 2025年3月号』

実験で見えた 文法で変わる世界認識  C. ケネリー

オーストラリア・アボリジナルの言語ムリンパタ語研究から
ムリンパタ語には、(1)複統合的(2)語順が自由という特徴がある。
言語学には、アイトラッキングによる研究がある
例えば、女性が子どもにボールを手渡すイラストを見せてイラストを説明させる。主語が語頭にくる言語の話者は、主語になる対象=女性をまず見る。動詞から話す言語の話者は、女性と子どもを交互に見る。
では、ムリンパタ語はどうなったか。どちらとも異なっていて、非常に短い間(600ミリ秒)に全体を見渡して、その後、何かに注目し、その注目した要素から話し始める。
その他、言語と文化の関係、絶滅に瀕している言語のことなどの話がなされている。
タイトルからして、サピア=ウォーフ仮説を想起させるが、実際、冒頭でサピアが紹介されている。サピアはホピ族に時間を表す語彙などがなく時間概念を持たないとしたが、のちにホピ族にも時間の語彙があることが判明している、と。
しかし、この記事は途中で、ウォーフの発見は間違いだったが、おおまかな考えはあっていたのでは、というようなことも述べている。
言語の普遍性についての研究も、サンプルが偏っているという指摘も。
ただ、言語と世界認識の関係の話は、大雑把な話をするか厳密な話をするかで変わってくるのではないかと思う。この記事だと、その点について、あんまり具体的な話がなかったような気がする。
先のアイトラッキングを使った研究の話は、現象としては興味深いけれど、そこからどういう主張が導き出せるのか、その射程はあんまりよく分からないな、という印象。

クジラと会話できる日 AIで動物の言語を読み解く  L. パーシュリー

『Newton2025年3月号』でも紹介されていたThe Earth Species ProjectやCETIが出てくる


テクノロジーの発展で動物が発する鳴き声などのデータが増加。そのデータをAIに学習させる研究が増えている。クジラとか
また、AIが言語だけでなくマルチモーダルに対応するようになると、鳴き声と行動との組み合わせでのAI学習が行われる。動物のコミュニケーションは鳴き声だけでは成り立っていないので。動物の行動は、エソグラムという形で記録されていて、AIはこのエソグラムのデータを学習する。キンカチョウのメスが繁殖相手のオスを選ぶ理由についての研究
カクテルパーティ効果というのがあるけれど、単なる音声データの中から、ノイズ除去して特定の動物の鳴き声を抽出するのは難しい。
それを可能にしたのが、『Newton2025年3月号』でも紹介されていたThe Earth Species ProjectのAI
また、既に野生化では絶滅し、飼育環境だけで生き残っているハワイガラスについて、自然環境の時に録音されたデータとAIで比較させて、飼育環境での違いを調べている。野生と飼育とで生じた変化を調べる。
また、飼育された個体を野生に戻す時、なかなかうまく行かないことがあるが、こういう研究から野生へ戻すための方法が分かるかもしれない。
AIはパターン発見することは得意だが、そこから意味を解釈することはできるのか、という懐疑は動物学者側にはある。機械学習の癖みたいなのを研究者は分かった上で解釈する必要があるだろうというようなことが書かれていた。
意味理解の話に深くは踏み込んでいなかったが、AIで合成された鳴き声によって、動物とコミュニケーションをとってみる、という方法が今後なされていくだろう、という話になっている。
ESPの人も、動物とのチューリングテストには近いうちにパスできるだろう、みたいなコメントをしている。
しかし、これは密猟者に悪用されてしまうなどの危険がある。また、クジラの声は遠距離にまで届くわけで、クジラたちに偽情報を広めてしまう可能性があるというリスクもある。
最後に、コミュニケーションには、種を超えて共通の要素があるはずだ、という話がなされている(「悲しみ」などの感情を伝えることなど)

大気からCO2を取り除く 社会実装が難しい理由  A. ルーン

「直接空気回収」といって大気からCO2を除去する技術はあって、それを実用化しようとしている会社はあるらしいが、資金難でなかなか、というところらしい。
アメリカでは、CO2回収の優遇税制があり、これを利用したり、カーボンクレジットを利用したりで、この直接空気回収に参入しようとしてる企業はいるみたい。
ここらへんの経済制度的な話はあんまりよくわからないけど、経済的インセンティブがいろいろ出来てきているんだなというのと、しかし、これトランプ政権で今後一体どうなるんだ(どうなったんだ)という感じで読んでいた。
で、問題は、これに参入しようとしているのは、石油・化石燃料系の企業であって、要するに、直接空気回収すれば、化石燃料燃やしてもいいよね、という形になっていて、直接空気回収によるモラルハザードが懸念されている。
化石燃料をクリーンエネルギーに代替してもなお、目標を達成するのが困難とみられており、直接空気回収はそのために着目されている技術であり、これがあるから化石燃料燃やしてもいいわけではない。
空気回収プラントが作られている地域では、そのために、石油プラントが集まってきていて、もともと大気汚染がひどいのにもっとひどくなる、という懸念がされている。仮にCO2が回収できたとしても、他の汚染物質はでてくるわけなので。
また、そもそもこの技術が十分実用化できるかも定かではない。
コストが十分下がるのかどうか、試算が異なっているし、無駄なコストかけている可能性もある。

海にCO2を埋める 環境への影響は?  J. B. パルター

大気のCO2を回収するものとして、海洋がある。
これまでも海洋は多くのCO2を回収してきているが、海洋のCO2回収能力を上げることで、気候変動対策にならないか、というもの
直接空気回収と同様、クリーンエネルギーへの代替だけでは足りないので、さらに大気中のCO2を回収する必要があるという考えから。
いくつかの方法が考えられている。
まず、鉄散布による肥沃化
これは、1988年、海洋学者のマーチンによる「タンカー半分の鉄を与えよ、さらば氷河期をも作らん」という言葉が有名
また、コンブなどの大型藻類を大量に養殖する、という方法も。
生物的方法以外に、海洋アルカリ度強化や直接海洋回収といった化学的方法もある。
追加性、永続性、安全性、拡張性といった観点から、これらの方法は評価される。
追加性とは、海洋の回収能力が追加されているか、ということ。ある方法で回収能力があがっても、その影響で(他の藻類が死滅するなどして)他の回収能力が損なわれると、追加性はなくなる。
永続性は、その名の通りで、その効果が長続きするか。
安全性もその名の通りで、特に生物的な方法の場合、環境への影響が懸念されるし、その影響は予期できない
拡張性は、その方法が実用化できるかどうか、ということ。これは科学的な側面以外に社会的・経済的な側面からも考える必要がある。


こちらについては、こういう方法がありそうだけど、まだよく分からんからこれから研究するか、みたいな段階
この記事の筆者は海洋学者だが、最初にこの話題に触れた会議では、やはりモラルハザードの件が話題になったらしい。
まだ、有益なのか有害なのか分からないけど、だからこそ研究すべきだ、という感じで書かれていた。

数学でインフラを守る  M. スーリー

構造物のシミュレーションの話
有限要素法、というのが使われている。
1956年の論文で発表された方法
例えば、1枚の布を複数の三角形に分けて、その三角形(有限の要素)の組み合わせとして計算する。立体であれば、立方体とかに分ける。
現在では、偏微分方程式を解く方法の一つとして知られていて、ありとあらゆるもの(?)に応用されているらしい。
自分は、恐竜研究の文脈でこの有限要素法を知った。
この記事もそれほど読むつもりはなかったのだが、「有限要素法」の文字列が見えたので少し読んでみた。
有限要素法のための誤差推定をどうするかという話とか、AIの導入とかについても紹介されていた。

ADVANCES クマムシ超耐性化の起源/賢い“バカ歩き”

クマムシの化石から分岐年代を推定する研究で、3億年前に分岐したという説。ペルム紀の大量絶滅を生き抜いた、と。

  • 賢い“バカ歩き”

鳥は走るとき、必ず片足を地面に付ける、接地走法という走り方をするらしい。人間は両足から地面を離して走る。こちらの方がエネルギー効率がいいので、鳥の接地走法は謎だったらしいが、あるスピードを超えると接地の方が効率がよいことがわかった、とのこと。

nippon天文遺産 昭和23年金環日食観測地 礼文島起登臼(下)

『日経サイエンス 2025年1月特大号』 - logical cypher scape2の続き
大ニュースになって、松本清張がこれをモデルにした短編を書くくらい、世間的に注目を集めたとか。戦後すぐに、日米協力で科学観測が行われたということで、湯川秀樹ノーベル賞とならんで、日本が文化国家になったものとして受け取られたらしい。
実際に礼文島にいって、まずは観測拠点をつくるが、環境が厳しくてまず居住地を作るのが大変だった、と。あと、食事はずっとニシンで、帰ってきてから荷物あけたら魚臭かったとか。
太陽が通る線を正確に予測する必要があるが、3つの中心線予報あったらしい。
実際の観測により、中心線3の直上で観測、2020年頃に再検証されて、実際は中心線2と3の間だったとか、皆既食に近い金環食と言われていたが、実際には金環食に近い皆既食だったとかが分かっているらしい。
あと、なんか明治期の日本の測量がズレてて、日本のもってる地形図と欧米のもってる地形図で経度のズレが生じているらしいんだけど(鉛直線偏差)、解消されたのが2002年とからしい。