『日経サイエンス2025年2月特大号』『Newton2025年3月号』

日経サイエンス2025年2月特大号

大規模言語モデル「思考力」で進化  吉川和輝 協力:椎橋徹夫

o1はすごい、と。どうしてすごくなったかというと「思考」させている。GPTは反応速度が早かったが、o1は少し時間がかかる。
思考の連鎖
ステップを分解するようなプロンプトを出すと、回答の精度が高くなるのが知られていたが、それをAI自身にやらせている。
推論スケーリングという考えを導入。長く時間をかけて思考するということ。AIが「システム2」を持つことに相当
AIの発展をLLMが牽引していくという見方が確立され、o1以後、AGIやASIの出現時期を具体的に予測する言説も増えている、と。
オープンAIには、AGIへのロードマップがある。レベル5まであって、今はレベル2
AIエージェント(自律)もLLMで実現する研究が進められている。
アメリカはマンハッタン計画のような官民一体での開発を進めようとしている。それが閉じているのに対して、中国はオープンにすることで対抗している。

科学研究を加速する基盤モデル  出村政彬 協力:泰地真弘人(理研)

理研の泰地真弘人へのインタビュー記事
泰地は、長くシミュレーションについて研究していたが、今は、科学研究基盤モデルの開発を行っている。
シミュレーションと機械学習の違いについて
前者は演繹的だが、後者は帰納的。前者は、事前に計算式なりが必要になるが、後者はそういうのがなくてもできる。
LLMを言語だけでなく、画像などにも拡張させたのが、基盤モデル
基盤モデルは「マルチモーダル」であり、色々な種類の情報を学習させることができて、細胞レベルとか器官レベルとかがある生物学に有効
基盤モデルによる研究は、デジタルツインを作ることを目標としている。
基盤モデルによる予測(帰納的予測)は信頼できるのか、というインタビュアーの問いに対して、従来の演繹型の理論や計算と組み合わせることも可能だ、という答え
これまで蓄積されてきた科学理論を「知識グラフ」という形にして、基盤モデルの中に組み込むこともできる。
論文読ませて、そのテキストデータから知識グラフを作って、食わせるみたいなことができるらしい。
今後の科学について、泰地は、これまで様々なデータが公開されて、それを研究者が利用してきたが、今後、それが基盤モデルへ変わるのではないか、と。
データやら理論やらを基盤モデルが全部学習しているので、そこから研究者は情報を引き出す、とか。
また、これまで、研究代表者がいてそこに複数の研究者が集まって、という単位で研究が行われていたが、こういう単位も変わっていくのではないか、とか。

研究できるAIは科学をどう変えるか?  高木志郎/丸山隆一

2024年8月にSakana AIが発表した「AI Scientist」について
これは、課題に対して自分でプログラムを組んで実験を行い、適宜修正を行い、最終結果を論文にまとめ、さらにその査読まで行う、というAI
研究初心者レベルくらいには達している、という。
近年、AI for Scienceという言葉が生まれてきている。さらにその中には、科学者の道具としてのAIと、科学するAIという2つの考えに分けられる。
この2つの考えは、自律性の度合いの違いとも言える。
理研の高橋恒一は、科学AIについて、6段階の自律性レベルを提案している。
AIが自律的に論文を書くようになったとして、それは論文誌や学会で認められるのか。
現状、完全にAIが書いた論文は認められていない。
ただ、AIが出力したものを、人間の研究者が利用して論文を書くことは十分考えられる。
AIが実際に科学研究の場に入ってくるに応じて、人間の科学者の役割は、アイデアを発想することより結果を判断することに変わりつつあるのではないか。
また、発表者も査読者もどちらもAIである学会、AI-AIカンファレンスというアイデアも提案されている。
メタサイエンス

日本の「HAKUTO-R」月へリベンジ  林 公代

レジリエンスの概要紹介
ispaceはレジリエンス以後もミッションを予定しており、ミッション3では、Apex1.0という大型ランダーを使用予定。燃料を節約する軌道ではなく、より短い期間で月まで行ける軌道を使う。また、経産省の予算も獲得している。
また、JAXAでは、SLIMのピンポイント着陸技術の民間への移転も考えているとのこと。JAXAは研究開発期間なので、同じことを繰り返しやらないが、技術の定着には繰り返し実施が必要、と。

米有人探査計画の高い壁  S. スコールズ

アルテミス計画について
必ずしも順調とはいえない、しかも、かつてアポロ計画でやったことがあるにも関わらず、というところで、アポロと比較している。
まず、予算の額が全然違う。当時、NASAは連邦予算の4%(!)もらっていたらしい。
それから、アポロと違ってアルテミスは国際連携プロジェクトなので、その点の調整でも時間と手間がかかる。
あと、アルテミス計画は、元を辿ればブッシュ政権時代のコンステレーション計画が、政権交代の度に計画変更しながら続けられたものだが、当初から、スペースシャトルの技術を流用するというものになっている。これは、スペースシャトルにかかわる雇用の継続という政治的思惑によるものだが、過去の技術の継ぎ接ぎとなって、効率が悪いことになっている。
アポロ時代との違いとして、安全面の向上もある。
アポロは、冷戦下の競争で、多少のリスクをおしても構わないという状況であった。また、宇宙飛行士が英雄的存在であった当時と異なり、今は宇宙飛行士も普通の職業になりつつある。今、死亡事故が起きればアルテミス計画の継続は困難になるが、アポロ1号の死亡事故はアポロ計画を止めることはなかった。それから、当時はそもそも技術的に分からなかったリスク要因が、今は事前に分かるようになっていて、それを防ぐ手立てを講じることになっている。
本記事は、今は競争の時代ではないのだから、急ぐ必要はない、という結論でしめられている。
まあ個人的にはそういう考えに賛同するけれど、実際のところ、中国との競争になってきている面は無視できないし、場合によっては、イーロン・マスクがアルテミス計画に介入してくる可能性もあるし、ゆっくりやればいい、と鷹揚に構えていられる状況でもない気がする。
ただ面白いなと思った話は、アポロの時の世論は賛否両論で拮抗していたのが、アルテミスは実は反対はほとんどない、という

すべての種を守れるか  R.クンジグ

アメリカの野生動物保護の歴史について
約50年前、テネシー川流域開発公社(TVA)がダムを建設していた際、スネールダーターという小さな魚の保護のため訴訟が行われた。
これは「絶滅危惧種保護法」に基づくものだったが、この法案が成立した際には、誰もこんな小さな魚のためにダム建設が止められるようになるとは思っていなかったようだが、完成間近で見直しが行われることになり、この法律の影響範囲というが知られるようになった。
以来、アメリカでは、絶滅にさらされているどんな生物種も守られるべきだという考えと、そんなバカなという考えで分裂している、という
本記事では、その後のアメリカの動物保護政策について紹介されていて、近年では、アメとムチ、特にアメが重要視されていることなどが取り上げられている。

うるう秒は時流遅れ?  M. フィシェッティ

月との潮汐摩擦によって地球の自転は少しずつ遅れており、それと原子時計との間に生じるズレを調整するために、閏秒がある
が、実は、自転の加速も観測されている。地球の形状は楕円体状だが、球形に近付くことで自転が加速している。これによる閏秒が不要な期間が長くなった。
一方、極地の氷が融解すると、その分の水が低緯度の海洋にきて、自転が減速する可能性もある。
閏秒の調整は、手間がかかるし、それが原因とみられるトラブルも生じてるが、上記のように、閏秒の要不要は結構よく分からない、不安定なところがある。
そして、そもそもその微妙なズレは気にすべきものなのか、という問題もある。
自転によって定義された「日」をどれくらい尊重するか、という問題で、コンピュータネットワークにとってはどうでもいい、という話もある
というわけで、閏秒について、もっとよい方法が提案されるまでいったん対応を停止するという方向になっているらしい。

認知症の刑事被告人をどう裁くか  J. ワプナー

アメリカの話だが、医療詐欺で起訴されたうちの1人(医者)がアルツハイマーであることを理由に、訴追免除とするかどうか、という事例があって、この事例紹介を軸にしながら、書かれた記事
アルツハイマーを始めとする老人の認知症の扱いが、刑事訴訟の仕組みに組み込まれていなかった、と。
認知症の中には、自分が他人にどう見られているのかという能力が失われて、犯罪行為を誘発するようなタイプがある。
認知症になっている老人の割合、訴追された老人の割合などから、認知症で犯罪犯して訴追されている人たちはそれなりの割合でいるだろう、と。
上述の事例は、紆余曲折がありながらも(詐病と判定されたりもしたので)、最終的に釈放に至っている(ただ、娘は定期的に老人施設でちゃんと規則守っているか確認してそれを司法当局に報告している)のだけど、そうなっていないパターンも多そう、と。
精神疾患における基準を準用するということで、上述の事例もそれが適用されているのだけど、認知症はどんどん悪化していくというのが厄介(仮に犯行時点で責任能力があったとしても、裁判時ではどうか。そして、鑑定は鑑定時点のことしか言えない。遡ってどうだったかは分からない)。
少年裁判所のような量刑基準の異なる裁判所を作る必要があるのでは、という議論もあるらしい
そもそも、更生を目的としている懲役刑、認知能力が衰えていく一方の(つまり更生が期待できない)者に科することが適当なのかどうか、という問題もある。

サイエンス考古学 氷の収穫,真っ盛り

150年前の記事から。ハドソンリバーで氷が収穫された、と。150年前だと氷は自然のを取ってきて売ってたんだなあ、と。

ADVANCES老化の大波は2回来る/火星旅行を阻む結石

44歳と60歳、前者ではアルコールやカフェインの分解能力が落ちて、後者は免疫能力が落ちるなど
ただし、この研究は特定地域、特定年代の生まれでの研究なので、一般化できるほどデータが揃っていない。このため、年齢の数字はあんまり意味ないとも
宇宙飛行士は結石ができやすいらしい。腎臓は低重力と放射線にやられる。 

Newton2025年3月号

同月または1月ずれで、日経サイエンスとNewton同じ特集やりがち
今回は、どちらも、AI分野からノーベル賞2賞の受賞があったことを話の枕としている。
とはいえ、内容はだいぶ違っていて、『Newton』は広汎な分野から事例紹介をしている。知らなかったものも結構あって、充実した特集だった。

AI科学革命
  • タンパク質

これは、AlphaFoldの話。複合体の予測まで可能になったver.3の話までしている。

  • マテリアル 

2023年、ディープマインドが発表したGNoME
新材料の構造を予測し、いくつかは実際に作られた
GNN(グラフニューラルネットワーク)を用いている

  • がん

2019年、理研の研究。がんの病理画像を学習させて診断させたところ、熟練の医者よりも的中率が高かった。医者とAIが手を組むとさらにあがる。見ているところが、人間とAIでは違うから。

  • ロボット

ロボットの動作のコントロールにもAI
2024年、フィジカル・インテリジェンス社のπ0は、洗濯物をたたむ等の動作が可能に

2022年、ディープマインドが、AIにプラズマ制御

  • 合成生物学

2024年、スタンフォード大は、EvoというAIでDNAの配列予測
これは、Transformerをさらに進歩させたハイエナという技術が使われている。Transformerは計算量が膨大で、ハイエナはこれを効率化させたもの。これで読み込める単語数が数10万倍とかになっている。
DNA配列は、普通の文字列より関係している場所が遠く離れてそうだから大変そうだなと思ったが……
さらにEvoが予測した、実在しない細菌のDNA配列を実際に合成という研究もすすめられている

  • 天気

2023年、ディープマインドのGraphCast
スパコンのシミュレーションよりも早い
2024年、ニューラルGCM
GCMというのは全球気候モデルの略称で、地球全体の気候予測をする数理モデル。これとAIを組み合わせたのがニューラルGCM。GCMが不得手とする小規模な予測をAIが補完する
また、囲み記事によると、テキサス大では、中国の地震でAIによる地震予知の研究を行っていたりするらしい。

  • 動物

2024年、The Earth Species Project(動物とのコミュニケーションを目指すNPO)によるNatureLM-audioは、動物以外による音と動物の発した声とを聞き分ける。何々と何々の鳴き声がしますと、複数種の鳴き声を聞き分けたり、個体数も聞き分けることができる。
2024年にはフロリダ大が、ヤギの表情から痛みを感じるか判断するAIが発表されていて、これは乳児や、コミュニケーションの難しくなった高齢者への応用も期待されている。
2020年には、クジラのコミュニケーションをAIで、というCETIというプロジェクトも。

  • 考古学

ディープマインドの碑文解読AI、Ithaca
また、山形大のナスカの地上絵探索

2021年に国立天文台が、GANを用いて、すばるのデータからノイズを除去して ダークマター地図を作成

  • 橋本幸士インタビュー

橋本は、AIや機械学習を用いた物理学研究を行っている。
物理学の研究で、スパコン用いて積分を大量に行う場合、それをどこで切り分けるかというのが計算速度にかかわる。AIはその積分の切り分けを探すのが得意。
また、ニューラルネットはどのような関数にも近似するという特徴を持つ。万能近似定理として80年代から知られていたが、最近になって実現。物理学者にとってAIは”万能近似定理マシン”で、最近だと波動関数の計算に使われている。超伝導になることは知られているがその仕組みが分からなかった素材について、その波動関数をAI使って調べた事例とか。
逆にAIに物理学が用いられる事例として、拡散モデルがある。拡散方程式を用いている。
この拡散方程式は量子力学ともかかわっていて、生成AIを量子力学を用いて制御するという研究もある、と。
今後の科学研究についても触れられていて、Sakana AIの「AI Scientist」にも言及があるが、橋本は研究が自動化される可能性が高い分野として数学をあげる。すでに証明支援系というのが数学研究に用いられているとか。数学も囲碁や将棋のようになるのではないか、というのが橋本の見立て。

死因を見極める法医学

タイトル通り、法医学の記事で、色々紹介されていて興味深いが、ちょっと省略
面白かったのは、死因の特定には解剖が必要であり、AIで代替することは難しい、という意見で記事がしめられていたことだった。