『SFマガジン2024年12月号』

ガブリエル・ガルシア=マルケス『百年の孤独』(鼓直・訳) - logical cypher scape2に続いて、今度はラテンアメリカSF

ラテンアメリカSF特集 監修=鯨井久志

「ぺラルゴニア――〈空想人類学ジャーナル〉への手紙」シオドラ・ゴス/鈴木 潤訳

アメリカの高校生3人組が、架空の国を作る遊びをしていたところ、その国が現実になったという話
タイトルにある通り、〈空想人類学ジャーナル〉という学術誌に対して、彼ら3人が出した手紙という形式で綴られている。3人のうち1人が主導して手紙を書いているのだが、残りの2人が手紙の中でツッコミを入れている、という形になっている。
頭のいい(読書量が多い)高校生たちがSFっぽい遊びをしているうちに、というので『サマー/タイム/トラベラー』を想起した。ただ、あれよりもカラっとしている感じがある。
主人公マディソンは、歴史とロマンスが好きな白人の女の子、彼女の幼なじみであるデイヴィドソンはアフリカ系アメリカンでミリオタ、もう1人のフリアはハイスクールから2人と仲良くなった女の子で、彼女はアルゼンチン系の混血で、カトリックなのが2人とは異なっている。デイヴィドソンとフリアは、TRPG好きというところから親しくなったという。
デイヴィドソンが地図を書き、マディソンは王家の歴史とそれにまつわるロマンスや革命史を紡ぎ、フリアは古代から中世の歴史を編纂する。その架空の国は、次第に輪郭がはっきりしていって、スペインとフランスの国境地帯、海岸沿いに「ペラルゴニア」という架空の国があるという設定が膨らんでいく。
マディソンはフェイスブックに、フリアはインスタグラムに、それっぽい画像などをアップしていく(実在する観光地の写真を加工したり)。「そしてデイヴィッドソンはレディットで何かしました。(...)正直、わたしはそれがなんなのかさえわかりません。[きみがオタクじゃないからさ。――デイヴィッド]」とかw
彼らはペラルゴニアについてのWikipedia記事も作成する。
その後、ペラルゴニアは実在するようになり、大学教授であるフリアの父親が招聘されるも、ペラルゴニアでは内戦が起きてしまう。


注釈の中で、ゴンダル(エミリー・ブロンテによる架空の国)やルリタニアについて言及があった。エミリー・ブロンテがそういうことしていたとか全然知らなかった


作者のシオドラ・ゴスはハンガリーアメリカ人で、英語圏の作品だと思うのだが、ボルヘスオマージュということでの本特集への選出らしい?

「うつし世を逃れ」ガブリエラ・ダミアン・ミラベーテ/井上 知訳

こちらは、インディオ女性貴族のための修道院を舞台にした異端審問の話
修道女ソル・アガタが、クリオーリョ修道女のソル・マリアから、怪しげな機械を作っており、聴罪司祭とよからぬ関係をもっているという罪状で、訴えを起こされる。
関係者の証言が続く形式で、ソル・アガタが、実は石けんに音声を記録する蓄音機らしきものを作っていたということが次第に明らかになっていく。それも、失われていくインディオの言語を保存するために。
メキシコの作家の作品で、スペイン語からの翻訳。

特集解説 鯨井久志

「日本SF読者は海外奇想文学を無意識にSFと思い込んで読み進めてきた」という、『日本SFの臨界点 中井紀夫』における伴名練による解説が引用されている。
この本、積んでいたので、あとで読もうと思った。

ラテンアメリカ文学ブックガイド

蛙坂須美/蟹味噌啜り太郎/かもリバー/鯨井久志/坂永雄一/白川 眞/谷林 守/友田とん/伴名 練/牧 眞司
長編、短編、アンソロジーの順でレビューされている。
気になった作品は以下
『緑の家』
難しそうだと思って敬遠してきたのだが、このレビューを読むと読めそうな気がしてきた。
『モレルの発明』
後述の寺尾インタビューでも言及されている。1940年と、この中で紹介されている中では一番古い作品。ミステリであり、SFであり、メタフィクションであるとの由
『めくるめく世界』
これは以前から気になっている
『コスタグアナ秘史』
架空の国「コスタグアナ」についての作品だが、そもそも「クタグアナ」は、コンラッドが『ノストローモ』の舞台とした作品なので、まずコンラッドから読まないといけなさそう。ググったら、新訳準備中という話が出てきた
アメリカ大陸のナチ文学』
これも以前から気になっている。短編集だったのか
『美しい水死人』
アンソロジー。レビュー内でめちゃ絶賛されている。

寺尾隆吉インタビュー 聞き手・構成◎鯨井久志

ラプラタ幻想文学魔術的リアリズムの違いから。
前者の代表作品が『モレルの発明』
アルゼンチンでは日本文学が結構受容されている。ボルヘスが編んだアンソロジーに芥川の短編が収録されているのだが、日本で普通に読めるのと違うバージョンなので、寺尾は最初、ボルヘスが作った架空の作品かと思ったというエピソードが。
鯨井も、もし芥川とボルヘスが会うことがあったら気が合ったのではないか、とか。
独裁者小説アンソロジーを作ろうという動きが、67~68年頃にフエンテスやバルガス=リョサらにあって、この企画は実現しないけれど、そこから『族長の秋』ができたらしい
現代スペイン語圏の動向について、日本ではスパニッシュ・ホラーというのが注目されているが、現地では必ずしもホラーブームが起きているわけではないとか。

児玉まりあ文学集成 出張版 三島芳治

マンガ
百年の孤独』パロディ

多様性と若手作家の台頭 最新スペイン語圏SF動向 井上 知

「輪廻の車輪」韓松/鯨井久志訳

摩尼車SF
チベット寺院で雨宿りした女性が、夜に不思議な音を耳にする。僧侶たちによると、摩尼車の中に不可思議な力を持っているものがあるのだという。
科学者である女性の父親は、静電気のせいだろうと一蹴するが、現地に調査に赴いて、驚かされる。
摩尼車の中には宇宙が……!
さらっと書かれているが、女性の家は火星にあるようなので、未来を舞台にしていることが分かるが、そこらへんはほとんど詳しくは書かれていない。

「時間移民」劉 慈欣/大森 望訳

冷凍睡眠により、未来方向へ移民するという話
未来世界が非常に大きく変わっている(山がなくなって、地面も全て結晶のような構造で覆われているとか)

『マン・カインド』刊行記念 藤井太洋インタビュー 聞き手・構成◎編集部

『マン・カインド』にまつわるあれこれも興味深かったが、最後に、次回作の構想として宇宙開発SF(太陽系内の宇宙島)を考えているというのが気になった。

書評

奥泉光の新刊でてんじゃんー

長山靖生「SFのある文学誌」

この連載記事、普段は読んでいない(内容的に気になりつつあまりにも途中からなので読むのを躊躇することが多い)のだが、今回は読んでみた。
夢野久作と大正期童話運動。
夢野久作については全然知らないものの、後者については以前筒井清忠編『大正史講義』【文化篇】 - logical cypher scape2で読んで少し知っていたので、興味を惹かれたため。それに、夢野久作と童話、という組み合わせも意外感があって気になった。
探偵小説に出会う前、九州日報で童話を書いていたらしい。
天皇主義者なのだが、天皇制のもとでのアナキズムみたいな社会を考えていたとか。
「善」ではなく「無垢」を称揚する価値観
天皇や自然について、素朴のありのままで、にこにこしているだけの存在。そういう天皇のもとでの、アナキズム的なユートピア
大正期、雑誌「新青年」によって探偵小説ブームが巻き起こり、夢野もまたそのブームの一翼を担うようになっていく。創作童話と探偵小説、一見全く異なるようにも見えるが、「別の世界」を描く幻視の文学としては両方とも同じだったのだろう、と

秋山文野「宇宙開発 半歩先の未来」

秋山さんの連載あったのか。第3回目
スペースXについて。マスクはどうやって社員をひっぱっていったのか。
「ここでは失敗は選択肢だ」
という言葉をよく使っているが、これは実は、映画『アポロ13』での「失敗は選択肢ではない」というセリフから来ている。このセリフ自体は創作だが、NASAが広報に用いているらしい。