『科学』2024年10月号
「光合成進化の謎に迫る驚異の細菌の培養――革新的な共同研究を通じた予期せぬ発見」ジャックソン マコト ツジ・福井学
酸素を使う光合成には、光合成反応中心1と光合成反応中心2という2つの回路が使われるが、酸素を使わない細菌はどちらか片方しか使わない。しかし、それぞれの細菌の系統関係が非常に離れているので、どうやってこの2つが合流したのかがよく分かっていない
筆者を含む研究グループが発見した細菌は、反応中心1を使うが、反応中心2を使う細菌と系統的には近いことから、この謎を解明する手掛かりになるかもしれない、と。
この記事自体は、研究グループの良好な雰囲気とか、培養にいたるまで時間がかかった経緯とかが書かれている。
「言語研究者,ユーラシアを彷徨う3 ライバルは幕府隠密――ウルチャ語の調査」風間伸次郎
これは、連載記事の第3回目
タイトルが気になったので読んでみた。
ウルチャ語はロシア極東で話されているツングース系の言語。ウイルタ語とかと近い。
フィールドワークして、近縁の語との分岐の順序を調べたとかそういう話
タイトルにある「幕府隠密」というのは、間宮林蔵のこと。こんなところまで来た日本人は今まで自分のほかにいただろうか、いや間宮林蔵がいた、くらいの話。
ちょっと面白かったのは、ウイルタだかナナイだかで、苗字に「クイ」を含む人たちがいて、「クイ」はアイヌの意味で、アイヌにルーツのある人たち。
で、日本で蝦夷という言葉があるけれど、古くは「カイ」と読んでいたらしく、この「クイ」とつながってんじゃねーの、と。
「ゲームAI研究の歴史と展望」伊藤毅志
10月号の特集はゲームAI
特集冒頭の論文がこれで、チェスを指す「トルコ人」の話を枕に、シャノンの論文から始まって、チェス、将棋、囲碁でいかにAIが人間を上回っていったのかが手短にまとめられている。
チェスライクなゲームで人間を越えるAIを作ろうという研究はすでに下火
今後の研究として、(1)AIでは困難と思われていたゲームでの研究(2)人間を楽しませるAIの研究の2方向に分かれている、と
(1)については、人狼とかカーリングとか
(2)については、実況解説とか。AIの局面判断が人間には理解できないことがあるけれど、人間にも分かるように解説できるようにするとか。
このゲーム特集には、他に以下の3本がある
「デジタルゲームの人工知能」三宅陽一郎
「データサイエンティストはカーリングをどう見るか?」桝井文人
「人間らしいゲームAI,人間と協力できるゲームAI」池田心
三宅さんはまあ分かるとして、なんでカーリング? と目次見ただけではよく分からなかったのだけど、上述の(1)にあたる研究が桝井論文、(2)にあたる研究が池田論文という位置づけのようだ
『科学』2024年6月号
「太陽系外惑星の多様な世界」成田憲保
系外惑星の分布図(半径と公転周期)で、公転周期の短くて大きな惑星(ホットジュピター)と、海王星よりも小さいサイズの惑星が多いのが分かる。
発見数についてはケプラーによる貢献が非常に大きい。
次いで、TESSとK2ミッション(ケプラーの拡張ミッション)
海王星サイズが少ない(「熱い海王星砂漠」)
公転周期が100日以上の惑星は発見数が少ないが、これはトランジット法では発見が難しいため。この領域は、今後、グレース・ローマン宇宙望遠鏡によるマイクロレンズ法での観測が期待されている。
最近注目されているのは、サブ・ネプチューン
太陽系には存在しないサイズの惑星で、同じサイズでも、氷・ガス惑星か岩石惑星かどちらの組成もありうる。大気の観測によってどちらの組成かが分かる。
JWSTで大気組成観測が始まっているが、今後、ESAからArielという衛星の打ち上げが予定されている。
【特集】最新望遠鏡で探る初期宇宙
- 「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡――プロジェクトの現場から」江上英一
アリゾナ大で、JWSTの近赤外線カメラの開発チームの一員だった筆者による経験談
JWSTは、折り畳んだ状態で打ち上げて展開されていったが、傍目からはスムーズに進んだように見えたかもしれないけれど、実際は細かいエラーは色々出てたとか。
当時、コロナのために、全部オンラインで共有されていて、筆者はサイエンス側の人なので直接は関わっていないが、状況は全部見れていたらしい。展開の途中でセーフモードに入ることが何度かあって、その度にエンジニアチームが解決に追われているところを見ていた、と。
JWSTはいくつもの鏡をうまく調整して1つの鏡のようにするけれど、筆者がかかわった近赤外カメラは、それを調節するためにも使うもので、近赤外カメラがうまく動かないとJWSTの観測自体が上手くいかない、という代物らしい。
JWSTを利用するためのプロポーザルは世界中から来ていて、採択率10数パーセントとからしいのだけど、日本人による研究の採択成績は結構いいよ、ということも書いてあった。
- 「初期宇宙の酸素・窒素・炭素観測――宇宙の元素合成史と天体進化の謎に迫る」中島王彦・磯部優樹
宇宙に、酸素はいつ頃からあったか、という
JWSTの観測でかなり古くからあったのが分かってきたぞ、とか
【特集2】サンプルリターン――太陽系探査ミッション
- 「サンプルリターン探査のこれまでとこれから」橘 省吾
この特集の各論文の紹介
- 「火星の月の砂を持ち帰る――火星衛星サンプルリターン計画MMX」藤谷 渉
フォボスとダイモスの形成について、捕獲説と衝突説のどっちが正しいか調べるための計画なんだけど、どっちが正しいかは、サンプルリターンじゃなくてリモートセンシングで分かるんじゃないの? という質問に対しては、その通りだという。しかし、いつ、どのような小天体が(捕獲されたまたは衝突したのか)ということを調べるためには、サンプルリターンが必要、と。
筆者は、そのための分析項目を洗い出しているところ、ということらしい。
サンプルリターンは、リモートセンシングと相互に補完し合う関係、というの、説明されると、なるほど、確かにと思ったけど、今まで意識したことなかった
(リモートセンシングしてサンプル採取場所を探すというのは分かるとして、サンプルを調べることでリモートセンシングで調べたことの裏がとれる、と)
- 「OSIRIS-RExミッションと持ち帰られたベヌーの石」ハロルド・コノリー・ジュニア/橘 省吾〈監訳〉
これはタイトル通り
何となく知ってる話かなーと流し読みしてしまった。
- 「サンプルリターン探査技術の現在地と未来」津田雄一
はやぶさ2を例にしながら、サンプルリターンについて技術面から語る。
サンプルリターンは、究極の探査(行って戻ってくるので、通俗的な「宇宙船」のイメージに一番近い探査形態であろう、また、宇宙飛行に必要な技術が全部必要という意味で)
技術的な難しさ(1)
軌道エネルギーについて
加速が、地球出発、目標天体到達、目標天体出発、地球到着で最低4回必要
持って帰れる質量とロケット全体の質量比が大変
はやぶさ2は、行き先が小天体で重力井戸が浅いので、イオンエンジンの加速で離着陸が可能だった(少ない燃料で離着陸できるので質量比がよくなる)
地球到着については、大気圏でのブレーキを利用した、と
技術的な難しさ(2)
片道だと、機器の信頼性が並行でよいのが、直列になる。
つまり、ちゃんと順番通りに動いてくれないとミッションがうまくいかない。
エンジニアリングとは、仕様通りに動かすようにすること
しかし、目的地は未知の天体なので、仕様が定まらない
そういう場合を、筆者は未踏峰エンジニアリングと呼ぶ。マン・マシンの臨機応変な対応が必要となる
今後のサンプルリターン
まず、はやぶさ2は一段式であったが、
MMXは、目標天体の重力が大きくなるので、多段式となる
さらに、筆者が現在注力している「次世代小天体サンプルリターン」は親機-子機方式となる。
子機で繰り返し着陸するなども考えられる。子機で挑戦的なミッションをしても、着陸のリスクが親機に及ばないのがメリット。
また、様々な種類の天体に使用できるのも魅力、と
- 「リターンサンプルキュレーションの役割とその未来」臼井寛裕
ここでいうキュレーションは、博物館や美術館におけるキュレーションと同じ意味
もともと別天体について研究する試料として隕石があり、隕石は博物館が所蔵・管理していた(南極で大量に隕石が採集されるようになり、日本では南極の隕石は博物館ではなく極地研)。そして、サンプルリターンがなされるようになり、宇宙機関がその任を負うようになった、と。
NASAのジョンソン宇宙センターが、キュレーションのパイオニアでノウハウなどが蓄積されている。
JAXAがキュレーションを行うようになったのは、はやぶさからなので歴史は浅いが、独自の技術も持っている、と。
真空状態のキュレーション設備の中は、従来、可視光しか使えなかったが、近赤外線の観測装置を導入。リモートセンシングの校正にも用いることができるようになった。
今後のスローガンは「広げて、つなげる」
キュレーションでできることを広げるとともに、例えば、これまであまり接点のなかった探査機チームと研究チームをつなげるなどの役割を担う、と
- 「はやぶさ2はいかにして着陸を成功させたか」菊地翔太
はやぶさ2は60cmの精度で着陸した
実際に行ってみたら、着陸できる場所が限られていて、当初の想定よりもずっと厳しい精度で着陸する必要が出てきた。
はやぶさで使ったターゲットマーカー方式をさらに応用したピンポイントタッチダウン方式
ターゲットマーカー方式は、ターゲットマーカーを落としてそれ目指して着陸する
しかしこれだと、ターゲットマーカーを落とす時の誤差に左右される
ターゲットマーカーを落とした後、再度上昇して、ターゲットマーカーと目的地点とのズレを計測してから、着陸するというもの
ターゲットマーカー自体は、見えなくなってしまうので難易度が高い
コンピュータシミュレーションを10万回やって、うまくいくことを確認して実施した、と。
- 「繋ぐ はやぶさ2サンプル採取に突き進んだ人々と関わって」坂本佳奈子
裏方仕事についてのコラム
筆者は、もともと、開発のアルバイトではやぶさ2計画に参加。いちど、民間企業に就職したが、JAXAに転職して本格的にはやぶさ2に関わったという経歴
タイトルに「繋ぐ」とあるが、研究と企業の間の調整だったり、プロジェクト内のチーム間の調整だったりとかをしていたらしい。
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