『kaze no tanbun 移動図書館の子供たち 』

西崎憲の編集によるムック本シリーズ「kaze no tanbun」
「特別ではない一日」「移動図書館の子供たち」「夕暮れの草の冠」の全3巻なのだが、収録されている作家のメンツを見比べて、3巻中2巻目という中途半端さながら「移動図書館の子供たち」を手に取ってみた。
手にとった理由をもう少し遡ると、藤野可織の作品の初出とかを見ていると、同じく西崎憲の『たべるのがおそい』だったり、未収録作品が『kaze no tanbun』に載っていたりするのに気付いたからというのがある。西崎憲のこれらのムックは以前から少し気になっていたけれど、それがわりと決定打となった。
さて、作家が編集をつとめる文芸誌ないし短編小説アンソロジーかと思っていたのだが、正確には、短編小説ではなく〈短文〉アンソロジーとのことであった。
〈短文〉とは何かということについては、本はどこから作るのか――kaze no tanbun 製作記2|kaze no tanbun|noteを参照のこと。
エッセイ的な文章もあるが、広い意味で短編小説ということでいいかと思う。詩もあるが。


面白かったのは、伴名錬「墓師」、西崎憲「胡椒の舟」、藤野可織「人から聞いた白の話3つ」、水原涼「小罎」、乘金顕斗「ケンちゃん」、木下古栗「扶養」、柳原孝敦「高倉の書庫/砂の図書館」、松永美穂「亡命シミュレーション、もしくは国境を越える子どもたち」

古谷田奈月「羽音」

学生時代に音楽を通じて知り合ったB

宮内悠介「最後の役」

考え事をしているときに麻雀の役をつぶやいてしまう癖

我妻俊樹「ダダダ」

かつて住んでいたダダダに再訪したアナとファナ
本になった、かつての同級生のカンカン

斎藤真理子「あの本のどこかに、大事なことが書いてあったはず」

伴名練「墓師たち」

椅子の形をした墓の話、墓を飼っている人たちの話、目を塞いで墓を作る話、生まれる前に作られる墓の話

木下古栗「扶養」

ケーキ屋で居合わせた女優に「英気を養ってくれませんか」といわれる

大前粟生「呪い21選──特大荷物スペースつき座席」

新幹線のひと

水原涼「小罎」

父親の仕事で住むことになった村にある湿地には、かつての戦争で亡くなった兵士が
おそらく、ベトナムが舞台?

星野智幸「おぼえ屋ふねす続々々々々」

全て記憶することができる、「ふねす」という名前の子供たちに本を覚えさせる
この記憶の話って、円城塔の「良い夜で待っている」っぽいなと思ったけど、さらにその元ネタがボルヘスの「記憶の人、フネス」だった。
あと、ここまで読んできて初めて、「あ、これ、「移動図書館の子供たち」テーマで書かれている作品だ」と思った。思い返してみると、「ダダダ」もそうだったかもしれない。

柳原孝敦「高倉の書庫/砂の図書館」

冒頭、「島尾ミホ加計呂麻島での少女時代を回想して」という文から始まるのだが、最近、島尾敏夫のWikipediaを読んでいたので、なんかタイムリーだった。
なお、島尾ミホの話ではなくて、島に住んでいた「僕」の少年時代の話で、毎月3冊ずつ、学研の中学生向けの文学シリーズが届いていた話

勝山海百合「チョコラテ・ベルガ」

彫鈕の師匠のもとに住み込みで暮らす黄紅

乘金顕斗「ケンちゃん」

若手俳優須永健のパトカー乗り回し事件と
小中学校が一緒だったケンちゃんが小学生の頃に、移動図書館あじさい号を勝手に走らせた、と思い出すサトルの話

斎藤真理子「はんかちをもたずにでんしゃにのる」

藤野可織「人から聞いた白の話3つ」

白いシャツ、白い本、白い木々
真っ白なシャツを特製の洗剤で洗っていた木村さん
田舎の図書館は本が真っ白

西崎憲「胡椒の舟」

東都で暮らす私と恋人は、デートで本の話をする
そして、世界では風鳴がなくなっているという。風鳴がなくなり、世界は静かに、いやあらゆるものの音が聞こえるようになった。
東都というが、さらにローカルな地名は(月島とか)は東京のままで、しかし、この東京とは少し違う世界。
風鳴というのは、地球が自転する時の音で、外にいると声では話ができないほどの音

松永美穂「亡命シミュレーション、もしくは国境を越える子どもたち」

ゼーガースという、ユダヤ人作家で、ナチスの時代に家族で亡命をした人の話をしながら、自分だったら果たして亡命できるだろうかと考え、亡命の夢を見るようになる

円城塔「固体状態」

「水は氷ると体積の増える珍しい物質である。/すなわち、氷は水に浮かぶことだろう」
「金色は色ではない」
「大陸は移動する」