河合信和『ヒトの進化七〇〇万年史』

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そのタイトル通り、700万年のヒト(ホミニン)の進化史についての本だが、記述の主軸はむしろ発見・研究の方にある
誰がどこでどのように発見したのかという観点から進んでいく感じ
そのため、若干構成の難しさがある。
章わけ自体は、人類史の年代順に進む。ただ、章の中では、発見場所や研究グループごとの記述になっていることが多く、そして同じ場所から別の年代の種が発見されている場合、それもまとめて記載されている(なので、例えば「ホモ属については後の章で詳しく述べるが、ここではホモ属の化石も発見されており〜」みたいなところが時々ある)。
あと、これは化石標本扱っている学問だと致しかたない話だが、標本番号がもうとにかくやたらと出てくる。
と、慣れないと若干の読みにくさはあるが、面白く読めた。


古人類学(に限らず古生物学ではよくある話かもしれないが)、属名がなかなか安定していないのがあって大変だなという感じ。
というか、研究者の間の対立がそこに反映されててなかなか大変。
ある標本について、発見者は慎重を期して種名を特定していなかったところ、別の研究者が新種認定してくるとか
同じ種なのだけど、研究者によって呼び方が違う奴がいる。例えば、ホモ・エルガスターという種があるのだが、アフリカ型ホモ・エレクトスとする説もある。あるいは、ホモ・ハビリスについて、アウストラロピテクス属だとする説もあるらしい。


あと、リーキー家という学者一家がすごい
東アフリカのオルドヴァイで、1959年に頑丈型猿人のパラントロプスを発見したリーキー夫妻から始まり、親子三代に渡って東アフリカで古人類学研究をしている。


第1章 ラミダスと最古の三種―七〇〇万〜四四〇万年前
第2章 アファール猿人―三九〇万〜二九〇万年前
第3章 東アフリカの展開―四二〇万〜一五〇万年前
第4章 南アフリカでの進化―三六〇万?〜一〇〇万年前
第5章 ホモ属の登場と出アフリカ―二六〇万〜二〇万年前
第6章 現生人類の出現とネアンデルタールの絶滅―四〇万〜二・八万年前
第7章 最近まで生き残っていた二種の人類―一〇〇万?〜一・七万年前

第1章 ラミダスと最古の三種―七〇〇万〜四四〇万年前

サヘラントロプス・チャデンシス、オロリン・ツゲネンシス、アルディピテクス・カダッバ
そして、アルディピテクス・ラミダス


サヘラントロプスはその種小名から分かる通りチャドから発見されており、東アフリカ発祥説を覆した


オロリンは、発見者のエピソードが印象に残る。
「お行儀のよくない」研究者で、他人のフィールドで発掘を行い、雑誌掲載前に大々的に記者会見で発表。当時、最古と考えられていたラミダスをさらに遡り、人類最古を更新した。
ところで、実はそれより少し前に、やはりラミダスより古い人類であるカダッバを発見していたグループがいるのだが、ネイチャー投稿中で掲載を待っている間に、先に発表されで話題を取られた形になったらしい
オロリンが本当に新属なのか、また本当にホミニンなのか批判もあるらしいが、標本が少ないせいで、決定打がないらしい

第2章 アファール猿人―三九〇万〜二九〇万年前

かの有名な「ルーシー」の話
アファール猿人は、セラムという幼児の標本も見つかっているらしい。
ところで、ルーシーは、ジョハンソンという研究者が、ハダールで発見したのだが、ハダールで発見されたのがアファール猿人1種なのか、それとも2種が混ざっていたのかで、リーキー家との対立があるらしい
アファール猿人としてまとめられている標本は、かなり多様性があるとか

第3章 東アフリカの展開―四二〇万〜一五〇万年前

リーキー家次男リチャード・リーキーが開いたフィールド、ケニアトゥルカナ湖での発見について
トゥルカナ湖東岸

(1)パラントロプスのオスとメス発見
(2)パラントロプスとホモ・エレクトスの共存実証
(3)ホモ・ルドルフェンシスの発見
(4)脳の小さなホモ・ハビリス発見

トゥルカナ湖西岸

(1)最古の頑丈型猿人エチオピクス発見
(2)完全なるホモ・エレクトス骨格「トゥルカナ・ボーイ」
(3)アウストラロピテクス・アナメンシス
(4)ケニアントロプス・プラチオプス

それから、ホモ・ルドルフェンシスをケニアントロプスに変更している。実はこのルドルフェンシス、元の標本はリーキー家が発見していたのだが、ホモ・ハビリスっぽいが年代があわないので種名を特定していなかったところ、全然別の研究者に新種設定されてしまったというものである。
リーキー家が名前を一部取り戻した、という顛末なのだが、ケニアントロプス属はアファレンシスなのでは、という疑義が出ていて安泰ではないらしい。

第4章 南アフリカでの進化―三六〇万?〜一〇〇万年前

ダートやブルームによる南アフリカでの発掘・研究
セディバや「リトル・フット」なと

第5章 ホモ属の登場と出アフリカ―二六〇万〜二〇万年前

第6章 現生人類の出現とネアンデルタールの絶滅―四〇万〜二・八万年前

ネアンデルタールとサピエンスと交雑について、ペーボによるDNA解析の話まで載っているが、どちらかといえば、それぞれの石器文明から影響関係があったようだという研究の話にページが割かれている印象

第7章 最近まで生き残っていた二種の人類―一〇〇万?〜一・七万年前

主にフロレシエンシスの話だが、デニソワ人の話も。