飛浩隆『自生の夢』

飛浩隆の2006年から2015年に発表された作品を集めた短編集
7本中4本がアリス・ウォンシリーズとでもいうか、世界観や登場人物が同じ作品となっている。
半分くらいは、初出時に読んでいたが、単発で読むよりこうしてまとめられたものとして読む方が分かりやすかった気がする。

海の指

以前も読んでいたが、だいぶ忘れていた
メロドラマだったのか
情報の海に演奏される、様々な文化の建物がごちゃごちゃに具現化しているなど雰囲気はやはり、廃園の天使とか零號琴とかと通底するものはある

星窓 remixed version

収録作の中で最も古い
remixedというのは、過去の短編の要素を混ぜているかららしい。
夏休みに友人たちと星間旅行をする予定だった少年が、突然それをキャンセルし、なにも見えない「星窓」を買う。その星窓には何かが封じ込められており、存在しない少年の姉が訪れる。
他の飛作品とは雰囲気が違う感じもする。
話のオチはよく分からなかった

#銀の匙

ここから4作品は全てアリス・ウォンが出てくる。「自生の夢」のスピンオフでもある。
アリス・ウォンの誕生時のエピソードを、アリスの兄の視点から描く。
Cassyという書記エージェントや検索エンジュGoedelやGEBなど、このシリーズの世界設定の説明がなされている話でもある。

曠野にて

まだ幼いながらも才能を既に発揮していたアリスと、克哉が、曠野にてバトルする話
Cassyを駆使して物語を作り、その文章が構造物となって、陣取りゲームをしている
ここで克哉が書いていた話の設定を流用して「海の指」が書かれたとのこと
読みながら「海の指って作中作だったのか?!」となった(実際には設定は食い違っており、作中作というわけではない)

自生の夢

忌字禍という存在を倒すため、シリアルキラー間宮潤堂が呼び出される話
といっても間宮は既に死んでおり、彼の残した大量の著作などをCassyが検索することで、彼を再現しようとする試み
読むものと読まれるものとの関係が逆転する


様々な作品への参照がなされているが、伊藤計劃円城塔を意識して書かれているのは、何も知らずに読んでいても察せられた。
しかし、巻末の伴名練の解説を読んで、そういうレベルの話ではなく、作者と伊藤計劃との対話そのものともいうべき作品だと知った。


とまあ、それは置いておいても、この作品のSF設定とそこから紡ぎ出されてくる情景は魅力的


最後にアリスが述べた、忌字禍の脳油
その正体はよく分からなかったが、「はるかな響き」の「あの響き」と通底するものだろうか
言葉から逃れていくものを言葉でなんとか囲い込もうとし、それでもなお逃げられる

野生の詩藻

アリス亡き後、野生化したポエティカル・ビーストを、アリスの兄と克哉で捕まえる話
ポエティカル・ビーストって何だよという話だが、詩が構造物となりビーストととなる、というのが、#銀の匙から読んでいってると、ストンと理解できる

はるかな響き

『サイエンス・イマジネーション』にも収録された作品だが、巻末ノートによると、大きく改稿したとのことで、ざっと読み比べてみたら、骨の女の設定まわりが変更されていた。こちらの方が分かりやすくなっているように思う。
2001年宇宙の旅』の冒頭、サルがモノリスに出会うシーンと、ラスト、スターチャイルドのシーンが使われている。