Shaun Nichols ”Imagining and Believing: The Promise of a Single Code"

philpapers.org

Journal of Aesthetics and Art Criticism 掲載で、中身もフィクションの美学に関わる内容だが、筆者の専門は心の哲学のようだ。
ティーブン・スティッチと共同研究しており、この論文自体は単著だが、スティッチとの共同研究に基づいている。
ウィキペディアによれば、スティッチの指導のもと博士号を取得しており、心の理論に関わるような共同研究を行い、2003年に共著を出している。なお、この論文は2004年。
Shaun Nichols - Wikipedia
Stephen Stich - Wikipedia



フィクションの哲学の主流において、想像と信念は区別されているが、ここでは、想像と信念のシングルコード理論というものが紹介されている。
想像と信念は、機能は違うが、同じコードで書かれており、同じ内容を持つというもので、フィクションの哲学で論じられているいくつかのパズルについて、説明を与えられるというもの。

1.FICTION AND IMAGINATION
2. PUZZLES IN FICTION
i. Emotions and Fiction
ii. Emotion and Iteration
iii. Fictional Names
iv. Tacit Pretense
v. Imaginative Resistance
3. CONCLUSION

1.FICTION AND IMAGINATION

最初に、Leslieの実験が紹介される。
子どもに対して、空のコップを2つ用意し、片方をひっくり返して見せる。そして、満タンのコップと空のコップを指すように言うと、ひっくり返したコップを空、そうでない方を満タンという。
これは、コップに入っているふりと、コップが空になっているふりをしている。
が、もちろん両方ともコップは空なので、コップは空だという信念も有する。
ふり表象の内容と信念表象の内容が同じ
この2つは機能によって区別されるが、内容は同じとなることがある
これを、筆者とスティッチは信念と想像は「同じコード」だという(シングルコード理論)
同じコードで書かれているので、同じ認知システムで同じように処理される。
例えば、推論システムへの入出力と処理は、信念も想像も同じように行われる。
この説は、もともと「ふり」を説明するために作られたが、フィクションに対しても適用できる。
また、推論システムだけではなく、感情システムなども同様に働く。

2. PUZZLES IN FICTION

i. Emotions and Fiction

いわゆるフィクションのパラドックス
シングルコード理論の説明はシンプル。感情システムは、想像でも信念でも同じように働くので。

ii. Emotion and Iteration

例えば、作中でモンスターに追っかけられているシーンではらはらしていたのが、実は夢オチだったとなって、ホッとする。
とはいえで、夢だったこともフィクションの中の出来事で、どっちもフィクションなのに、反応が変わるのは奇妙なのでは、という問題
これも、シングルコード理論の場合、信念と想像でパラレル
実際に起きたと信じていたことが夢だったとわかれば、反応が変わる
同様に、(作中で)実際に起きたと想像していたことが(作中で)夢だったとわかれば、反応が変わるのだ、と
ところで、この問題、ウォルトンのMimesis As Make-beliveに載っていたらしく、覚えてなかったので確認してみた
心理的参加なしの鑑賞の節に書かれていた。ここは、装飾的な表象の話とかがなされているところで、二階のメイクビリーブでの参加は実際の参加にはなっていない、みたいな話をしていた

iii. Fictional Names

フィクション名に関するパズルについても、シングルコード理論から説明できる、という話はちょっと驚き。
ただし、フィクション名に関する意味論を与えることが目的ではなく、フィクション名が固有名と同じものだという直観があることについての説明が目的だとしている。
フィクション名は、一意の個体を指示しているように思える、記述に合致することが十分条件ではない、記述に合致することが必要条件ですらない、という点から、記述ではなく固有名とパラレルなものであるような直観がある。
フィクション名も固有名も同じコードで、推論システムにインプットされると、このシステムがどちらも同じように処理する。だから、フィクション名と固有名がパラレルだという直観を持つのだ、と。

iv. Tacit Pretense

ギャッツビーは、首を切られたら死ぬとか、髪の毛は1憶本よりは少ないとか、作中には明示されていないし、読者も明示的に想像はしていないけれど、暗黙的にはそうだと知っている内容について
カリーは、傾向性とかに訴えて説明しようとしているらしい?
Lycanによる暗黙の信念tacit beliefという用語を用いて、暗黙の信念と信じる傾向性being disposed to believeとを区別する。

v. Imaginative Resistance

想像的抵抗について
Moranは、道徳や感情的要素によって抵抗されているとしたが、想像的抵抗は、道徳や感情の関わらない、例えば数学でも起きる(2≠2は想像しがたい)
我々の推論システムがこれに抵抗するから。

3. CONCLUSION

シングルコード理論、色々広く説明できるでしょ、と
ただ、想像と信念には違いもあるわけで、それはまた別の個所で説明できるようにしたい、とも。