Craig Derksen & Darren Hudson Hick "On Canon"

https://contempaesthetics.org/newvolume/pages/article.php?articleID=832
James Harold "The Value of Fictional Worlds (or Why 'The Lord of the Rings' is Worth Reading)" - logical cypher scape2でカノンという言葉が出てきたが、ここでいうカノンというのは、西欧文学作品などにおけるいわゆるクラシック(古典)としてのカノン、のことではなくて、派生作品などの多い作品におけるいわゆる「正史」とか「公式設定」とか
シャーロック・ホームズシリーズにおいて、このカノンという言い方が使われるようになり、この論文では他にスターウォーズなど映画作品の例が多く紹介されている。
ポピュラー・カルチャー研究やファン研究と美学をあわせた研究という感じか
Published on March 27, 2018.

1. The truths of fiction
2. Holmes and canon
3. What is canon?
4. How canon works

1. The truths of fiction

デヴィッド・ルイスの論文にでてくる、虚構的真理がcarry overするという話
例えば、『緋色の研究』でホームズは熟達したヴァイオリニストであるというのが出てくるが、だとすれば「株式仲買店員」においてもやはりホームズは熟達したヴァイオリニストだろうし、「ギリシア語通訳」でシャーロックの兄であるマイクロフトが出てくるけれど、『緋色のけんきゅ』でもシャーロックの兄はマイクロフトである。
ところで、これらの例のあとに「A Scandal of No Importance」という作品が例として出される。実はこれ、ホームズもののファンフィクションで、どうもホームズとワトソンとのBLものらしい。で、これは1897年を舞台にしているのだけど、これを踏まえると、1903年の出来事を描いた「白面の兵士」でのホームズの発言が奇妙なものになるらしい。
で、これに対して「あなたはこう言うだろう。「A Scandal of No Importance」はファンフィクションだ! ドイルが書いたホームズとは別人だ。それはカノンじゃない、と」と書かれていて、まあ要するに、カノンとそうでないものとがあるよね、という導入に使われている

2. Holmes and canon

ホームズというのは、カノンについてシリアスな議論がなされるようになった最初の大衆文学
ドイルによって書かれて54編の短編と4編の長篇がカノンとされている
こうしたホームズのカノン研究を行った初期の1人が、ロナルド・ノックス
ノックスは「最後の事件」以後の作品は、カノンに含めず外典扱いしているらしい
理由は、ホームズのキャラクターの一貫性がなくなっているから
ノックス自身が聖職者であるため、聖書のカノン研究の基準がそこには使われている、と。
ここでポイントとなっているのは、人物の人格の一貫性などであって、誰が書いたかではない、ということ。


これのいわば逆の例として、スターウォーズが挙げられる。
新三部作は、ルーカスが作ったわけじゃないけど、スターウォーズのカノンではないという人は少ないだろう、と。


キャラクターの存在論はカノンの考察に洞察を与えるかもしれないってことで、トマソンの分析が軽く紹介される
ここで、トマソンは、キャラクタの同一性について必要条件は与えているけど、十分条件は与えられていない、と。で、トマソン十分条件っぽいものとして、性質の集合をあげているけど、それだけでは同じってことにならないのでは、ということを指摘して終わっている。
ここでは、ある作品がカノンなら、やはりカノンである他の作品と同一のキャラクターが描かれている、という形でカノンの特徴づけを行っていて、ちょっと面白いのだが、キャラクターの同一性条件とカノンの定義みたいな話は、ここでちらっとされているだけで、これ以降でてこない。

3. What is canon?

ここでは、法的な権利者・著作権者とカノンのオーソリティの関係について述べている
現代において、正統な続編が何かとかをコントールしているのは、確かに法的な権利者
でも、それとカノンって必ずしも一致しないのではないかと。
(Highlanderという映画が、続編作られるたびに、前の話がなかったことになってパラレルワールドになっていくという例が紹介されている。続編は法的にはオーソライズされているけれど、カノンとしてはどうなの的な例として。ところで、英語には、retconという「後付け設定」を意味する単語があるんですね)
そもそも、著作権以前に作られた作品やキャラクター(ロビン・フッドやサンタクロース)にとってカノンとは、みたいなことにも触れて、著作権とカノンのオーソリティは必然的な結びつきではないと述べている。
スターウォーズにおける「ハンが先に撃った」(これ、何のことかと思ったらウィキペディアにちゃんと項目があった。ハンが先に撃った - Wikipedia)。
1997年の特別編で、オリジナル版と場面が差し替えられているものがあって、これがファンの不興を買ったというもの。どうも、ルーカスの意図としては特別編の方がより正しいらしいのだけど。
T.クックとかヘンリー・ジェンキンスとかが言及されていて、ファンとカノンの関係というものがここで出てくる。

4. How canon works

この節はいくつかのことが書かれているが、節全体として何を言いたかったのか、いまいちよく分からんし、カノンのこと考えるのって重要なんだ、と言って終わっているだけのようにも見える。
まず、カノンの範囲について少し広げていて、作品・物語だけでなく、例えばマーベルのオフィシャル・ハンドブックとか、J.K.ローリングも小説以外に設定集みたいなものを出しているみたいで、そういうのもカノンの一種として受け入れられている、と。


虚構的真理と解釈という2つのアプローチがあるけど、解釈の方にもカノニカルなものとそうでないものがある(なんか、ディズニーによる「スターウォーズはこういう物語だ」みたいな解釈はカノニカルじゃない、というようなことが書かれている)
カノンかどうか、というのは解釈にも影響を与える、と(ここで再び「A Scandal of No Importance」に言及があって、これがカノンかどうかでホームズの感情についての解釈が全然変わる、と)。
ここらへんの話面白そうだなと思うので、1,2段落程度しか書いていなくて、あんまり大したことが書かれていない印象
最後に、こういう意味でのカノンについてってあんまり研究されてきてないけど、哲学者にとっても作り手にとってもファンにとっても、もっと気にかけるべきだ、みたいなこと書いて終わっている。