『鋼鉄の雨』

北朝鮮でクーデター勃発、北の工作員オム・チョルウと南の官僚クァク・チョルウ、2人のチョウルは第2次朝鮮戦争を防ぐことができるのか、というポリティカル・アクションムービー
2017年の韓国映画で、Netflix独占配信作品。原作は同名のウェブコミックらしい。
今月のSFマガジンで紹介されているのを見て知り、せっかくNetflix入ってるし、ちょっと見てみるかと思って視聴
南北統一の問題を扱った韓国映画としては『JSA』や『トンマッコルへようこそ』を見たことがあるが、さらに踏み込んでポリティカルな作品だった

SFマガジン 2018年 10 月号

SFマガジン 2018年 10 月号


あらすじ
病気により一線をはなれた工作員であるオムのところに、任務がもたらされる。クーデターを計画している首謀者の暗殺だ。
ところが、知らされた場所に来てみると、委員長(将軍様)の訪れた工業団地の開所式に、MLRSが降り注ぐ。
タイトルの鋼鉄の雨、というのは、このMLRSの異名らしい。
分離された子爆弾が雨のように降り注ぐ。集まっていた女性たちが瞬く間に死んでいく。
そして、委員長もまた、瀕死の状態になっていた。オムはとっさに委員長をバンに乗せ、韓国との国境へと向かう。国境をあけさせた中国の外交団に紛れて韓国内へと逃れる。
近くの病院に忍び込み、産婦人科医に無理矢理手術をさせ、すると、北の工作員からの攻撃を受け、などといったことを経るうちに、色々なめぐりあわせで、大統領府外交安保首席であるクァクと出会うことになる。
まずは、クーデターの成立を阻止すべく、委員長の命を守ることで2人の協力関係が少しずつ始まる。
しかし、北朝鮮側は、韓国への宣戦布告を行い、にわかに第二次朝鮮戦争への秒読みが始まっていく。
アメリカから提案される平壌への核攻撃の打診
北のクーデター軍も、核攻撃の準備を進め始める
オムは、クーデターを指揮し、自分に任務を与えた男への攻撃のため、再度北へと戻る


北の工作員と南の官僚、という相容れない組み合わせが、友情を築き上げていくというバディもの
オムは、工作員として優秀であるが病気であることを隠している。北には妻と娘が1人いて、娘がK-POPに興味を持っていることを叱りつけていたりする。
クァクは、オムとは対称的に小太りの男で、別れた妻と娘と息子がいる。オムにハンバーガーを食べさせようとしたり、オムの娘が話していたK-POP(クァクの娘も聞いている)を車内で一緒に聞いたりする。


『鋼鉄の雨』は韓国版『シン・ゴジラ』か? 韓国映画に通底する“未完の近代”としての自画像|Real Sound|リアルサウンド 映画部
この記事で、『シン・ゴジラ』と比較されているが、確かに『シン・ゴジラ』を想起させるところのある作品である。
東アジアの中で、アメリカからいかに自立できるのか、という点が似ている。
シン・ゴジラ』では、ゴジラを倒すにあたって、当初アメリカの協力を仰ぐわけだが、アメリカの通常攻撃は効かず、アメリカは核攻撃を発案する。日本側では、このアメリカの核攻撃案を受け入れる者たちと、これとは別の対策へと邁進する者たちとに分かれ、最終的に後者が成功する。そして、日本国内にはゴジラという、災厄であると同時に貴重な資源ともなりうる存在が残される。
『鋼鉄の雨』では、北朝鮮からの宣戦布告に対して、韓国政府はアメリカに協力を要請。アメリカは平壌への核攻撃を提案する。韓国政府は、この提案を基本的に受け入れるのだが、この物語はちょうど大統領選が終わったばかりという時期を舞台としており、政府の中には、現大統領と新大統領が登場する。現大統領はアメリカの攻撃案を受け入れるのだが、南北融和を謳って当選した新大統領はこれに反対するのである(もっともまだ現大統領の任期内なので、新大統領はオブザーバー的にいるだけで、まだ実権はない)。
『鋼鉄の雨』は、『シン・ゴジラ』とは違って、別の意向でアメリカによる核攻撃はストップする。北朝鮮日本海に核をぶっぱなしたことにより、日本が北朝鮮を刺激しないようにアメリカに要請したのである。「米韓同盟より米日同盟の方が大事なんですか」とか、なかなかきわどいセリフが出てきたりする。
韓国側は、オムの協力をもとに、韓国軍の手により北朝鮮クーデター軍の首謀者を攻撃することになる。
そして、最終的に北朝鮮との間の手打ちとして、委員長の身柄と北の核兵器を交換する。南北両方が核を持つことにより、南北の平和的共存を目指そうというところで終わるのである。
つまり、どちらの作品も、アメリカに協力を要請するも、アメリカは結局アメリカの論理で動くので、必ずしも絶対に助けてくれる味方というわけではなく、ある程度、自立できるための「力」を手にするところで終わるということになる。主人公のクァクは、物語の冒頭から韓国核武装論を唱えていたりする。


クァクは、安全保障担当の人間なので、中国国家安全部の韓国駐在官やCIAの韓国駐在官とも接触を保っている
アメリカとの関係は既に述べた通りだが、中国との関係も、事態の中には組み込まれていく。
中国国家安全部の人が、実は民族的には朝鮮系だったりとか、そこらへんがちょい複雑だったりする。
朝鮮戦争が起きると北朝鮮から難民が押し寄せるから中国的には戦争させたくない、とか、韓国人は貧しいものを同胞として見てないだろ、とか)


オムが連れてきた委員長の治療を急遽するはめになった産婦人科医は、「河を渡れば北朝鮮だと聞いてはいたけど、実感はなかった」とこぼす
また、戒厳令のしかれたソウルが描かれるが、一般人の生活は特に変わることなく営まれていることも描かれたりする
朝鮮半島の危機を「リアル」に描く作品であるが、一方で、韓国において必ずしも北の危機が「リアル」に実感されているわけでもないということも描かれている。


アクションシーン、わりと多めで
メスを投げて工作員を倒したり、カーチェイスしながら銃撃戦したりと色々あるが、
委員長の入院する病院を突き止めた北のクーデター側が、病院に襲撃してくるところがやはりアクション的には山か
北の現場指揮官らしき男が、スーツ姿で無表情のいかにもな男で、オムと、拳銃もったままこぶしで打ち合うガンカタ的アクションを見せてくれる。


韓国版『人狼』がさらに楽しみになったところはある
あれは既に南北統一がなった未来の朝鮮半島が舞台なんだったけか