『シェイプ・オブ・ウォーター』

デル・トロ監督最新作は、話すことのできない女性と半魚人の話である、という情報だけ知ったあとは、なるべく情報を入れずに(意図的に見ないようにしていた部分もあるが、あまりチェックしてる時間もなかったというのもある)行った。
なので実は、アカデミー賞のことも把握していなかった(世に疎いにもほどがある)*1
また、TLで見に行っている人たちの顔ぶれというのも、「このあたりの人たちが見て面白いって言ってるっぽいな、なるほど」という感じで
さらに、最初行こうとしていた映画館は1日に1回の上映になっていた。
なので、新宿に見に行ったら、結構でかいスクリーンが満席で、なおかつ客層がわりと普通なことに「あれ?」ってなってしまっていた(劇場に見に行く映画、アニメせよ実写にせよ大抵がオタクっぽい映画なので)w
で、途中から「なるほど、これラブストーリーなのか」ということに気づいたのだった
帰りにポスター見たら、確かに「愛の物語」って書いてあった。


1960年代初頭のボルチモア
宇宙科学研究所で掃除人として働くイライザは、幼い頃に声帯を切られ、声を失っている。職場の同僚のゼルダや隣人のジャイルズと親しくしている。
ある日、研究所にアマゾンから連れてこられたという半魚人がやってくる。
警備を担当する軍人のストリックランドと、研究者であるホフステトラー博士も。
イライザと半魚人は次第に心を通わせていくが、ストリックランドらによって殺され解剖される予定であることを知り、彼女は半魚人を研究所から連れ出すことを計画する。


舞台が60年代なので当たり前なんだけど、60年代の家具、雑貨、インテリアという感じでその空気感自体がわりとよかった


色々と伏線やら意味やらが張り巡らされているのだろうなあと思わせる作品だった。
やはり、食卓でイライザがYou'll never knowを歌う(そして想像上のステージに立つ)シーンが印象に残った
ジェイルズとともにテレビでよく見ていたショーの世界
それから、浴室を水で満たして下に水漏れするシーンも。
浴室を水で満たして、水中で抱き合うというのももちろんよくて、その後、2人の抱擁をジェイルズが絵に描いているというのもよいんだけど
下の映画館に水漏れしていて、建物の断面図みたいなシーンが出てくるのも好き
あれ、映画の冒頭出てくるけど、カメラが下に下がっていって、床下と劇場が写って、イライザの部屋が映画館の上にあるというのが分かるシーン。
それと同じカメラの動きが、水漏れのシーンでもう一度繰り返される。
見ている時は特に意識していなかったのだけど、あの映画館って閑古鳥の鳴くようになった劇場で、テレビと対比されているのかなーとあとになって思った。
古いものと新しいものという対比。アマゾンと宇宙、絵画と写真、そして映画とテレビ。だとすると、イライザとジャイルズは基本的に古いものの方の立場にたっているけれど、映画とテレビとでは、テレビの方をより好んでいるというのも、ちょっと面白い。
半漁人は明らかに映画に圧倒されていたシーンがあるけれど。
一方で、アマゾンと宇宙、絵画と写真であれば、前者がファンタジー、後者が現実という対比だと思うけど、映画とテレビはどちらもファンタジーの世界に属するものだろう。ジャイルズが好んでみる番組は、必ず歌謡ショーみたいな奴で、ニュース番組はチャンネルを変えてしまう。
その上で、『パンズ・ラビリンス』と同様、その区分が曖昧になるということを描いてもいる。
映画の世界もテレビショーの世界も、画面の向こう、メディアによって媒介された世界、あるいはジェイルズが描く家族団欒も、絵というメディアの向こうの世界。半漁人も最初は、水槽の窓というスクリーンの向こうにいる。
しかし、イライザと半漁人は、窓越し、画面越しではなく直接ふれ合うようになる。
いわば、ファンタジーが現実へと漏出していると言えると思うが、その極致である浴室でのセックスシーンにおいて、その浴室の水が映画館に漏れ出しているという点で、「ファンタジー」と「現実」とが互いにぐるぐると絡まり合っている。
あと、同じシーンで、イライザのハイヒールが脱げるという描写がある。
イライザは、靴をたくさん持っていて、毎晩出かける前に靴を磨いている(清掃の仕事は夜なので夜出かけて朝に帰ってくる)。また、ショーウインドウの中のハイヒールに見とれているシーンもあって、イライザにとって靴は憧れの対象なのだろう。
それが脱げても気にしない、というところにイライザの変化があらわれているのだろう。


それから、何か意味があるんだろうけど、あまり読みとれなかったものの、気になったものとしては、ストリックランドの指がある。
映画の最初の方で、半魚人に薬指と小指をかみちぎられる。
イライザがそれを拾い、病院で縫い合わされる。
その後ずっとストリックランドは手に包帯を巻いたままの状態なのだが、いよいよ元帥から「あと36時間以内」と告げられたのち、自宅の玄関先に停めた車の中で指をちぎろうとする。
それ以降のシーンでは、指が黒く変色し、匂いはじめる。
そして、ゼルダの家にやってくると、ゼルダの名前(ゼルダじゃない方の名前)のもとになった聖書の話を引き合いにだして、2本の柱がどうのこうのと言って、指をほんとにちぎってしまう。
指だけが黒い肌になっていることとゼルダが黒人であることに何か関係がありそうだなと思うのだけど、よくわからない
あとあの指が、何かストリックランドのストッパー的なものだったのではないかとも思うのだけど、よくわからない。


猫食べられて平気にしてるのすごい


いくつかコミカルなシーンもあった。
ホフステトラー博士は実はソ連のスパイなのだけど、同志と接触するとき、いつも工事現場みたいなところで待ち合わせさせられて、よくわからない合言葉を言わされる。でも、この合言葉は別にそんなに意味あるわけじゃなくて、形式的にやってるだけっぽくて、博士はいつも合言葉を言い終わる前に相手の車に乗り込んでる
それからまあ、ジャイルズが擬装クリーニング車を、ストリックランドのキャデラックにぶつけてしまうシーンは、ちょっと笑った


半魚人が何故宇宙科学研究所に連れてこられたかというと、この半魚人は、水陸どちらでも呼吸できる肺を持っているので、有人宇宙飛行に応用しようみたいな話をしていたかと思う
ただ、60年代初頭だと、もう当然ながらガガーリンもシェパードも飛んでるんだよな
今ググってみたところ、人類初の宇宙遊泳は65年らしいので、それ目指して米ソで競争していた頃なのか?


参考
ことばは肉となる〜『シェイプ・オブ・ウォーター』におけるすべての言語と聖遺物(ネタバレあり) - Commentarius Saevus

*1:ところで、予告編で流れてた『ウィンストン・チャーチル』、チャーチル役がゲイリー・オールドマンなの全然信じられないんだけど