大平英樹「予測的符号化・内受容感覚・感情」

予測コーディング理論を感情もふくめて脳の統一モデルとして考える論文
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ems/3/1/3_ES3-0002/_pdf
predictive codingに関連したいくつかの疑問 - 蒼龍のタワゴト-評論、哲学、認知科学-で紹介されていた。
予測コーディング理論については、以前神経科学関係の勉強 - logical cypher scapeでちょちょっと概要を眺めた。

この 予測誤差の和は,これもヘルムホルツの熱力学理論 になぞらえて,「自由エネルギー(free energy)」と 呼ばれている(Friston, 2010; Friston, Kilner, & Harrison, 2006)。

生体は,この両 方の手段をダイナミックに用いることにより,全体と して予測誤差を縮小するように振る舞うと想定され, これが脳の唯一の原理であるとして「自由エネルギー 原理」と呼ばれる

自由エネルギーってそういうことなのか


解剖学的な話もしていて、脳の中に顆粒皮質と無顆粒皮質というのがあって、顆粒皮質で予測が形成され、無顆粒皮質に送られそこで予測誤差を計算している、と考えられているらしい。
このあたりもオプトジェネティクスを使ったマウスの実験などが行われているらしい


EPICモデルとよばれるモデルは、外受容感覚や固有感覚だけでなく、内臓や血管などについての内受容感覚が島皮質というところでつくられ、感情を生み出している、と

EPICモデルでは,こうした内受容感覚を基盤とし て脳に表象された知覚が感情(affect)の本質だと考 える。感情は,我々が経験するすべての事象に常に随 伴しており,我々が生きている限り,最小から最大の レベルまで連続的に変化しながら常に生じている。ま た感情は,知覚,認知,運動などと呼ばれる他の精神 機能と区別することはできず,それらの精神機能とか なりの程度オーバーラップしている。

EPICモデルは,情動の末梢起源説(James, 1884) やソマティック・マーカー説(Damasio, 1994)など と共通する,身体の働きと脳におけるその表象を重視 する感情理論であると言える。ただし,それらの先行 する理論が脳と身体の具体的な働きについては大雑把 な質的説明しか与えなかったのに対して,EPICモデ ルの利点は具体的な処理のメカニズムを表現し,そ の動きを検討できる可能性を持つことである。

なお、ここでは感情(affect)と情動(emotion)とを区別していて、脳で生じている神経的な過程と、それを人間が快−不快などの軸で分類し、喜びや怒りなどのカテゴリーで分節されたものとして経験されるものとにわけている。
そのうえで、前者は自然物(natural kind)であり、後者はそうではないとしている。
Natural kindなので「自然物」ではなく「自然種」だろうか
感情や情動は自然種なのか、というのはジェシー・プリンツ『はらわたが煮えくりかえる』(源河亨訳) - logical cypher scapeでも触れらていたけど
まあ、喜怒哀楽などの分節自体は、あまり実在してなさそうではあるが


ところで、マイケル・ワイスバーグ『科学とモデル――シミュレーションの哲学入門』(松王政浩 訳) - logical cypher scapeを読み終わった後だったので、「あ、これもモデルだよなー」と思ったけど、何モデルなんだろう
図4なんかは、具象モデルなんだろうなー
あと、この論文には書いてないだけど、数理モデルとか数値計算モデルとかもあったりするのだろう


モデルといえば、同時期に更科功『絶滅の人類史―なぜ「私たち」が生き延びたのか』 - logical cypher scapeも読んでいたけれど、こちらにはあまりモデルとなってそうなものはなかった
でも、島嶼化とかは数値計算モデルになってそう


話をこの論文に戻すと

運動野は運動のためだけにあるのではなく, その重要な機能のひとつは,感覚を成立させるために 予測を提供することなのである8 。
8 こうした知見から,視覚野,聴覚野,体性感覚野,運動野, などのように大脳皮質を機能と対応させて区分する従来の考え方 を再考し,予測と予測後差の観点から再概念化すべきであるとも 論じられている(Feldman-Barrett, 2017)。

引用の中の「8」は注番号
このあたりを読んで、「おお!」って思った。
2018年にこういうこというのもなんだけど、「今、脳の時代来てるな!」と思った。
予測コーディング理論がうまくすすむと、脳の理解が大きくすすむのかもしれない。
今まで脳の話って、結局仕組みがよくわかってなくて、解剖学的な話だなあという印象が強かったんだけど(機器の進化によって、分解能は高くなり、それによって分かることも増えてはいたけれど)、素人の感想としては、それががらっと変わるような印象を受ける