スティーヴ・エリクソン『彷徨う日々』(越川芳明訳)

エリクソンのデビュー作
1970年代のロサンジェルスを舞台にしたローレンとミシェルの恋愛と、1900年代のパリを舞台にしたアドルフ・サールの映画製作の物語
エリクソンは、かなり前にスティーブ・エリクソン『黒い時計の旅』 - logical cypher scape2エリクソン『Xのアーチ』 - logical cypher scape2とを読んだきりで、もうちょい読みたいと思っていたのだけど、久しぶりに読めた。
こういう話と一言で説明するのが難しいけど、砂嵐のロサンジェルス、凍り付くパリ、霧のヴェネツィアと、それぞれ舞台となる都市が異様な風景になる様子や、謎の映画監督アドルフ・サールを巡る物語が面白い

彷徨う日々

彷徨う日々


ローレンは、ジェイソンと結婚し、ジュールズという子供もできたが、自転車選手のジェイソンは各地を転戦し家にほとんど帰らず、ジュールズの出産のときにもいなかった。
同じアパートの下の階に住む謎の男ミシェル。記憶喪失で二つの名前を持つ彼。
ロサンジェルスは、砂嵐に度々あうようになり、停電などが相次ぐようになる。ある日、ひときわひどい嵐が街を襲い、ミシェルが雇われ店長をしているバーには普段来ないような客が押し寄せる。停電による暗闇、暴徒と化した客、建物を覆いつくすような砂の中、ローレンとミシェルは愛し合う。


19世紀の最後の日、パリ。アドルフ・サールは捨て子として娼婦に拾われる。娼館の中でこっそりと隠されながら育てられたアドルフ。同じ娼館には、アドルフにとって妹同然のジャニーヌがいた(彼自身はジャニーヌを本当の妹と思っていた)。ジャニーヌが、娼館の主の息子に奪われると、アドルフは娼館を出る。
戦争に従軍し戻って来たアドルフは、映画と出会い、大手映画スタジオで働き始める。彼は『マラーの死』という企画を抱え、どうにか新興のスタジオで制作にこぎつける。彼はワンマン監督ぶりを発揮しながら、こだわりの映画制作を行うが、それがゆえに出資者からのブーイングを受ける。
一度は止まりそうになった映画制作だが、出資者向けの試写会に来ていたグリフィスがこれを褒めたため、一気に世間の注目を浴びるようになる。
その後、『マラーの死』は、世間からの期待と失望を受けながら、未完の大作として伝説と化していくわけだが、その背景には、アドルフがヒロイン役として連れてきたジャニーヌとの関係があった


時代はふたたび1970年代へ
売れない画家であった父親の作品が『マラーの死』に使われていたことを知ったグレハム・フレッチャーは、父ではなく、忘れられた巨匠アドルフ・サールこそが天才であったのだと気付き、各地に散逸した本作のフィルムを集め始める。
そして、パリで隠遁生活をしていたアドルフ・サール本人のもとへとたどり着く。
ラストシーンである、マラーが殺されるシーンをおさめたフィルムだけが一向に発見できない。


パリを訪れたミシェルとローレンは、セーヌ河に浮かぶ船に暮らす老人と出会う
パリは猛烈な寒さに見舞われ、セーヌは凍り付いてしまう。あちこちで焚火が焚かれ、ついには焚火のための放火まで行われる。


ローレンは、ジェイソンに別れを告げるため、ジェイソンのいるヴェネツィアへと、老人の船で向かう
ミシェルは、そのあとを列車で追う。列車は同じ区間を繰り返し繰り返し走り、一向に辿り着かない。
ヴェネツィアでは、ひと冬の間、ジェイソンがずっとローレンを待っている。
いよいよローレンがやってきたヴェネツィアは、霧に覆われ、自転車レースで走り始めた選手たちは霧の中、誰にも見つからず延々と走り続ける。
最終的に、ローレンとジェイソンはよりを戻す


とまあ、あらすじだけざっと書くとわりとよく分からないが
アドルフとミシェルは祖父と孫の関係で、ジャニーヌを映したフィルムを介して繋がっている。
また、亡くなった子供を巡って、目玉の浮かび上がる謎の壜が、ジャニーヌからローレンの手に渡るという繋がりもある
やはり、アドルフの生い立ちから始まって『マラーの死』制作を巡る物語や、グレハムが探し出して、無理矢理完成させてしまう(?)くだりが面白い