倉田剛『現代存在論講義2 物質的対象・種・虚構』

倉田剛『現代存在論講義1 ファンダメンタルズ』 - logical cypher scapeの続刊
1巻が総論だとしたら、2巻は各論と述べられており、サブタイトルにある通り、「中間サイズの物質的対象」(構成や通時的同一性の話)、「種」、「可能世界」、「虚構的対象」がそれぞれ論じられている*1
こちらの巻でも、講義を聞いているユイちゃんとミノルくん(2人ともめちゃくちゃ頭がいい)の会話が時々差し挟まれている。

現代存在論講義II 物質的対象・種・虚構

現代存在論講義II 物質的対象・種・虚構

序 文
I巻のおさらい
II巻の内容について

第一講義 中間サイズの物質的対象
 1 物質的構成の問題
  1.1 二つの相反する直観
  1.2 粘土の塊と像
  1.3 ニヒリズムあるいは消去主義について
  1.4 像と粘土の塊との非同一性を擁護する
  1.5 構成関係の定義

 2 通時的同一性の問題─変化と同一性
  2.1 同一性とライプニッツの法則
  2.2 四次元主義
   Box 1 四次元主義と物質的構成の問題
  2.3 三次元主義
  2.4 通時的同一性の条件あるいは存続条件について

まとめ

第二講義 種に関する実在論
 1 種に関する実在論
  1.1 種についての直観
  1.2 普遍者としての種
   Box 2 種の個体説について
  1.3 性質と種(その一)─偶然的述定と本質的述定
  1.4 性質と種(その二)─述語の共有
  1.5 性質と種(その三)─タイプ的対象としての種
   Box 3 種の例化を表現する“is”は冗長ではない

 2 種と同一性
  2.1 数え上げ可能性
  2.2 種と同一性基準

 3 種と法則的一般化
  3.1 法則的言明
  3.2 種と規範性
   Box 4 HPC説と「自然種の一般理論」

 4 付録─種的論理について

まとめ

第三講義 可能世界と虚構主義
 1 様相概念と可能世界
  1.1 様相概念─可能性と必然性
  1.2 可能世界─様相文が真であるとはいかなることか
  1.3 付録─可能世界意味論の基本的アイディア

 2 様相の形而上学
  2.1 可能世界への量化と現実主義的実在論
  2.2 ルイス型実在論

 3 虚構主義
  3.1 反実在論としての様相虚構主義
  3.2 フィクションにおける「真理」とのアナロジー
  3.3 背景とメタ理論的考察
  3.4 虚構主義への反論1
  3.5 虚構主義への反論2

まとめ

第四講義 虚構的対象
 1 基本的構図
  1.1 実在論非実在論か
  1.2 虚構と真理
  1.3 記述の理論

 2 現代の実在論的理論
  2.1 マイノング主義(その1)─〈ある〉と〈存在する〉との区分
  2.2 マイノング主義(その2)─述定の区分および不完全性
   Box 5 非コミットメント型マイノング主義
  2.3 理論的対象説
   Box 6 虚構的対象についての虚構主義
  2.4 人工物説

まとめ

結語にかえて──イージー・アプローチと実践的制約

読書案内
あとがき

第一講義 中間サイズの物質的対象

物質的構成の問題から
像と粘土の塊が同一と考える同一性論か、塊が像を構成するという構成関係は同一性ではないと考える構成論か
最初の方から、本質的性質には、内在的性質だけでなく、関係的性質(作者、鑑賞者、使用者、芸術実践・経済実践といった行為との関係を含意する性質)も含む立場から構成論を考えるとか、同一性基準は種に相対的とか出てきて、面白い
同一性の問題
三次元主義と四次元主義について

第二講義 種に関する実在論

「種」と「性質」の区別(述語の共有があるか否か(「レオは肉食である。」と「ライオンは肉食である。」と種の場合述語は共有される)、本質的述程と偶然的述程)
種を普遍的実体ととらえるかタイプととらえるか
種の例化を表現するisは冗長ではないとか
同一性基準が種に相対的、という話は、こちらでより詳しくある
あと、種的論理の話が面白かった
一階述語論理に、種をあらわす記号や例化をあらわす論理定項を導入したもので、ロウが提案している

第三講義 可能世界と虚構主義

可能世界については入門書がすでに多く出ているということで、本書では、日本語の入門書では扱われることの少ない「虚構主義」について紹介する、ということなのだが、前提としてやはり可能世界についての解説がなされていて、それも結構、わかりやすくて、到達可能性とか付値関数とか説明されていてよかった。改めて勉強になった。
特に、可能世界の集合のモデルを、実際にいくつか作ってどうなるか確かめてみるというのをやっていて、到達可能性関係の中から、反射的な関係を一つ取り除いたときに、□P→Pが妥当にならないモデルがあって、□を「必然である」と解釈すると、このモデルはあまりよくないのだけど、「義務である」と解釈する義務論理にはこのモデルが使えるよねという話がされていて、「なるほどなるほど」という感じだった。
虚構主義について
カルデロンによれば、虚構主義は、フィールドの『数抜きの科学』とファン・フラーセン『科学的世界像』を背景としている、と
有用性や経験的十全性が満たされれば、その理論を承認することが可能で、存在論的コミットメントまでは要しない、という立場
虚構主義への反論(1)
虚構主義は、「ルイス型実在論というフィクションによれば〜」という虚構オペレーターを使うわけだけれど、この場合、ルイス型実在論というのは時間的存在で、つまり、ルイスの実在論の成立以前はどうだったのか、というところが問題になる、という反論
虚構主義への反論(2)
もともと対応者理論に向けて使われた「態度問題」という形の反論
分析における右辺と左辺に対して、同じだけの関心が向けられるようには思えないことから、右辺と左辺は同じ事実になっておらず、分析になっていないという反論
む、難しい……
(言ってることはわかるが妥当なのかどうかにわかに納得できない)

第四講義 虚構的対象

虚構的対象の実在論である、マイノング主義、理論的対象説、人工物説が紹介される
マイノング主義について
例化とエンコードの区別
現代のマイノング主義の区別→存在様態型マイノング主義と非コミットメント型マイノング主義
前者は、存在の多義性を認める。つまり、「ある」と「存在する」を区別する(=存在量化子(∃)と存在述語(E!)の区別)。しかし、これはまだ弱い存在論的コミットメントを含んでいるという疑義がある。
後者は、量化と存在論的コミットメントを完全に切り離す。対象の領域と、その中のごく一部である存在の領域。この立場の代表がプリーストの非存在主義
理論的対象説
1970年代後半にヴァン・インワーゲンによって提唱された説
文学批評における理論的対象であるという説
文学批評が「理論」であるという前提があり、筆者はこの前提に対して肯定的だが、これへの反論として八木沢によるものがあるというのが紹介されている。
虚構的対象について虚構主義として、虚構オペレータ説とウォルトンのごっこ遊びゲーム説が紹介されている(後者は名前のみ)。
人工物説
トマソンらによる人工物説(原点としては、73年のクリプキ講義の中に見られるとか。ちなみにこの講義、2013年にようやく公刊されたらしい)
この、人工物というのは、時間的な起源を有する抽象物という新しい考え方で、虚構的対象以外にも用いることができる。
虚構的対象は「創造される」という日常的な直観をそのまま採用できる(マイノング主義や理論的対象説では、「発見される」としかいえない)
あと、存在依存の話がいくつか。

結語にかえて──イージー・アプローチと実践的制約

トマソンによるイージー・アプローチの話(イージー・アプローチについては、第1巻でもやはり一番最後に言及があった)
作者による、指示のふり・記述のふりが虚構的対象の創造になる、という考え方
この考えには反対もある
筆者は、この問題をどのように考えるかという点で、D.デイヴィスが芸術存在論について述べた「実践的制約」という考え方をあげる。
芸術作品についての存在論は、実際の作者や批評家など芸術にかかわる人たちの実践に沿ったものであるかどうかで試されるというもの
芸術にかかわる存在論は「記述的存在論」であって「修正的存在論」ではない、というのが筆者の立場

*1:サブタイトルに「可能世界」はないが、本書では「可能世界と虚構主義」という形で論じられているので、サブタイトルでは「虚構」にまとめられているのだと思う