理化学研究所脳科学総合研究センター編『つながる脳科学』(一部)

神経科学関係の勉強 - logical cypher scapeで、神経科学関係をざっと漁ろうと思ったので、これの一部だけ読んだ。
オプトジェネティクス(光遺伝学)の登場率が高い。画期的な方法だったようだ。

第1章 記憶をつなげる脳  
理化学研究所脳科学総合研究センター センター長 利根川進
第2章 脳と時空間のつながり 
システム神経生理学研究チーム チームリーダー 藤澤茂義
第3章 ニューロンをつなぐ情報伝達
シナプス可塑性・回路制御研究チーム チームリーダー 合田裕紀子
第4章 外界とつながる脳
知覚神経回路機構研究チーム チームリーダー 風間北斗
第5章 数理モデルでつなげる脳の仕組み
神経適応理論研究チーム チームリーダー 豊泉太郎
第6章 脳と感情をつなげる神経回路
記憶神経回路研究チーム チームリーダー Joshua Johansen
第7章 脳研究をつなげる最新技術
細胞機能探索技術開発チーム チームリーダー 宮脇敦史
第8章 脳の病の治療につなげる
精神疾患動態研究チーム チームリーダー 加藤忠史
第9章 親子のつながりをつくる脳
親和性社会行動研究チーム チームリーダー 黒田公美

第1章 記憶をつなげる脳

以前、『日経サイエンス2017年11月号』『Newton2017年11月号』『ナショナルジオグラフィック2017年10月号』 - logical cypher scapeでも記憶の話を読んだので。
キム・スタンリー・ロビンスン『ブルー・マーズ』上下 - logical cypher scape(96年に書かれたSF小説)では、記憶のメカニズムは23世紀まで全く謎で、ペンローズの量子脳仮説が解明の鍵になってたけど、さすがにそういうこともなく、記憶についてはもう少し早くにかなり明らかになってくるのではないか、という感じがする。
エングラムセオリー
記憶とは脳内の変化=痕跡(エングラム)であるという考え
エングラムを保持するニューロン群=エングラムセルの発見
オプトジェネティクスを使って、マウスの記憶を操作する実験

  • オプトジェネティクス(光遺伝学)

2000年 カール・ダイセロスによって開発された手法
チャンネルロドプシンを発現させる
チャンネルロドプシン=光に反応してイオンチャンネルとして機能する
光を当てるだけで膜電位を変えられる=好きなタイミングでニューロンの活動をオンオフできる
100分の1秒から20分の1秒という速さで反応する
この章では、記憶の操作がアルツハイマーうつ病の治療に使えるのではないかという話でしめられている

第4章 外界とつながる脳

ショウジョウバエの嗅覚を例にした、知覚メカニズムの数理モデル化の研究
二光子励起顕微鏡を用いて、脳内の糸球体の活動をイメージングする。その際、生きているハエに麻酔をかけ(ただし効果は30秒)プレートに固定して脳を露出させ生理食塩水で満たす。そのプレートを顕微鏡下に設置する、めちゃくちゃ手先の器用さを要求される実験方法が出てくる(「私たち研究室のメンバーは、手先の器用さでは脳外科医にも負けない自信があります。」)。
固定はしているけれど、ある程度は動くことはできるので、羽ばたきにあわせて周囲の見た目が動く空間を準備して、そこに匂い刺激を与える。
それぞれの匂い刺激に反応する糸球体の活動を入力、ハエの接近・回避行動(つまり匂いに対する選好)を出力として、それを説明する数理モデルを考える
各糸球体からの反応を重みづけ加算して出力するというモデル
知覚の相対性をうまく予測できるモデルとなった

第5章 数理モデルでつなげる脳の仕組み

主に学習について

  • 臨界期についての研究

臨界期が始まるタイミングについて、学習信号が内的に由来する発火から外的に由来する発火への切り替えによっておこるというモデルで説明

  • ヘブ則の安定化

ヘブ則=シナプスが学習していくときの基本法
→ヘブ則だけだと暴走する
時間的にスケールの異なる可塑性の法則と組み合わせることで安定させる
2種類の可塑性が、実際にシナプスに実装されている仕組み→まだはっきりわかっていないが、レセプターの密度とレセプター自体の体積ではないか

  • 情報伝達効率最大化

多数の入力に対して出力側が小さい場合、情報の抽出が起きる。この際、まとまって同じ情報を伝えてくる集団に対して選択的に応答するという学習が見られる
この学習則を人工知能研究に応用したところ、独立成分分析のできる神経回路ができていた
独立成分分析は、混ざり合った信号の中から一つ一つをより分ける
パーティ会場の中で特定の相手の声を分離して聞き分けるなど
このアルゴリズムが脳内に実装されているかは謎だった。