『ブレードランナー2049』

『メッセージ』 - logical cypher scapeドゥニ・ヴィルヌーヴ監督による、『ブレードランナー』続編
『メッセージ』の映像・音響に魅力を感じていたので、本作でも、引き続き同様の方向での映像・音響を鑑賞することができて満足。
ちなみに、自分は『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』も読んだし、前作である『ブレードランナー』も見たはずなのだが、ほとんど内容を覚えておらず、そういう状態で見に行った。


以下、ネタバレこみで、思いついたところから感想をがりがりと書いていく。

映像・音響

映像というか画面の美としては、グルスキーっぽい感じがあるように思えたシーンがいくつかあった。
代表的なものとしては、冒頭の、予告編にも使われている、円形に並んでいる太陽光発電の空撮ショット(映っているモノよりも先にその幾何学的模様に目がいく点)
孤児院のところも、ちょっとグルスキーっぽいと言えないこともないか。
映像としては、まあとにかく雨のシーンがひたすら多い。
一番最初のシーン、主人公の捜査官Kは、上司から「嵐が来る前に戻って」と言われるのだが、本署に戻る前に嵐が来てしまう。
それ以降、ロサンゼルスのシーンは基本的に雨だったはず。
ロサンゼルスであるはずだが雨ではないところは、アナ博士の研究所で、あそこだけ雪が降りしきっている。
ロサンゼルスって雪降るのか、というのはともかくとして
この映画は、雪の中死んでいくKのシーンで終わるのだが、あそこを見ていて、ジョイが雨に打たれて喜ぶシーンが思い返された。
ジョイはホログラムなので実際に雨に触れているわけではないのだけど、なんか干渉が生じているっぽい描写が見られる。ジョイは最終的に、本来プログラムである彼女としてはありえない「死すべき存在」となるわけだが、そこへ踏み出す第一歩として、あの雨のシーンはあったはず。
それに、死に行くKに降りしきる雪というのが、対応しているのではないかと思った。
雨や雪は、画面にちらつきを与えるが、ウォレス社の室内は波打つような照明で照らされていることが多くて、雨、雪、ウォレス社の照明というのが、同様の映像的効果をもっているのかなと思った。
それから、Kがレプリカントレジスタンス集団に助けられたシーンは、たき火の火の粉が舞っていたけれど、あれが街のネオンに入れ替わっていくのとかもきれいだったかと。
他に印象的だったのは、夜の海という暗闇の中での、エアカーのデッドヒートとか。
それから、ラスベスガスでのKとデッカードが撃ち合うシーンは、ホログラムで時々浮かびあがるプレスリーの音声とあいまって、ハラハラ感があった。プレスリーなどの音声と銃声とが、交互にランダムに突然鳴るので。
音楽は『メッセージ』とは違う人が作っているようだけど、使われ方としては似ているというか。暗いぶぉぉぉんとした感じの音が、でかい音で迫ってくる感じw

あらすじ

前作は、主人公が自分は人間だと思ってたけど、もしかして実はレプリカント(アンドロイド)だったのかとなる話だったとして、今作は、主人公が自分はレプリカントだけど実は魂をもった特別な存在だったのかとなる話だった
物語としてはわりと分かりやすくシンプルなものだったと思う。本物と偽物という対はでてくるものの、本物と偽物の違いが分からなくなっていくーという話ではなく。
めちゃくちゃざっくりまとめちゃうと、結局自分は特別な存在ではなかったけれど、大義のために死ぬがことできるみたいな話ではあった。

余談

偽物の記憶というと、Kが自分に植え付けられた過去の記憶を語るシーンがある。
映画と全く関係ないのだけれど、あのシーンを見ていて、「自分が子どもであった」という感覚というのは不思議なものだよなということを思ったりしていた。
「自分が子どもだった」ということは、「自分には右手がある」と同様に、自分にとって非常に確かな出来事であるように思える一方で、この年齢にもなると子どもの頃の思い出とか薄くなるばかりで、非常に遠く実体感の欠けるものになっている。
今現在の感覚というものが自分にとってはもっとも実体感があるけれど、時間の経過に伴ってこの時点で感じたこととかほとんどは忘却の彼方に消えていくわけで。
昨日の自分、一昨日の自分……といったところでは連続性・自己同一性を感じるのは容易なんだけど、単純にそれを積み重ねただけのはずの20年前の自分になると、その連続性が急にあやふやに感じられるというか。
うーん、というか、仮に忘れてしまったとしても、それが本の内容とか「どこに何があったか」とかなら、もう一度それを見直すことで思い出せるけど、過去についてはもう一度それを見直すことができないというのは、なんか変だよな、という感覚がある。
本編とはまるで関係ない話だけど、見ていてふと思ったことだったのでメモっておく。

キャラクターについて

女性の描き方がどうのこうの、という点はよく分からないけれど、
女性の登場人物が多く、さらにそれが規則的に配置されているような感じがした。
主人公のKに対して、マダムと呼ばれる上司、ホログラムのジョイ、ウォレス社の秘書レプリカントであるラブ、レジスタンスに属するマリエット及びそのボスたる女レプリカントがいる。
ジョイとラブは、Kに対して水平的、マダムとレジスタンスは垂直的
また、ジョイとマダムが友好的、ラブとレジスタンスが敵対的
という感じで、4象限に配置できそうな気がする。
ジョイは非常に分かりやすい。Kの恋人役であり、Kのことを全面的に肯定し、行動を共にしようとする存在。
ラブは、途中までは「子どもを捜す」という点で利害が一致していたのでKの味方もしているけれど、基本的にはKを妨害してくる存在ではある。
(いずれにせよ、秘書であると同時に兵士でもある女性なのだが、そういえば、近接戦アクションをするだけでなく、空爆の指示をしたりして遠距離戦もできるんだよなあ)
マダムは、味方というか、既存の社会秩序の側にいて、その中にKを位置づけてやる庇護者的な存在ではある。Kがテストにひっかかったときも48時間の猶予を与えているし。マダムが個人的にKに対してどういう感情を抱いているのかはよく分からないが。
西田さんが

直属の上司であり高位の役職の人間が、あの世界では2級3級市民、いや、奴隷であるレプリカントに、まるで立場が対等であるかのように色目を使うところ、あのシーンも気持ち悪かった。
https://twitter.com/iCharlotteblue/status/930415798983843840

という指摘はしていた。
「上司→主人公→ホログラムっていう構造」とも
あと、Kから見るとラブは敵対者だけど、K→ジョイという関係と同じように、ウォレス→ラブとなっていて、ジョイが従属する女であるように、ラブも従属する女ではある。
レジスタンスは別に敵じゃないじゃんといえばその通りなんだけど、ジョイとの対比がある存在ではある。
ジョイがKのことを「特別な存在」だと肯定してくれる恋人だとすれば、レジスタンスはKに対して「お前は特別ではない」という現実を突きつける存在である。
レジスタンスのボスはもちろん、ジョイの肉体の代わりになることで、ジョイには肉体がないということを否応なく突きつけるマリエットも同様だろう。
ところであの、マリエットの肉体の上にジョイの映像を同期させてセックスするの、ああいうAR風俗とか将来ありえるのではないかと思わせるものがあった。あの、ちゃんとは同期できていないあたりが、現実のつらさでもありエロさでもある。


ヴィルヌーヴが描く女性像については、2016年のツイートだけ、以下のようなものがRTされていたのを見かけた。

ヴィルヌーヴの描く女性が母か娘かなど個としての存在感に欠けているのは、正に彼が女性を自分たち男性とは違う上位の存在と認識しているからで、じゃあ何を根拠にそう思っているかって、物凄くシンプルでだからこそアレなのですが、つまり男性と違い女性は子供を産んで母になれる存在だからだと。
https://twitter.com/GregariousGoGo/status/721318864512888833

ヴィルヌーヴのアレな所は、男性は母性によって救いがたい存在になり、しかしこの後で救われるにしろ更に救いがたい存在になるにしろそれもまた母性によってであるという強固な思いがあり(実際は男性側の自己憐憫マッチポンプ)、彼の作る作品において女性はそのダシに使われるしかないからと。
https://twitter.com/GregariousGoGo/status/721323121672720388

(なお、以上のツイートは連続ツイートの一部である)


さて、この構図に入ってこないが、重要な女性キャラクターは、もちろんアナ博士である。
彼女についていうと、Kが自分の記憶を確かめてもらいにいくシーンで、博士が顕微鏡みたいなものを覗いている際に、その後ろにガラスに映ったKの姿があるというツーショットがあって、見ている最中は「いい構図だなー」くらいに思っていたのだけど、あれは要するに、Kは博士の身代わり的存在にすぎないということを象徴していたんかなーと。
ある人の背後にもう1人別の人が立っている、という構図のツーショットが他にもあって
ウォレス社に連れてこられたデッカードの前にレイチェル(の姿をしたレプリカント)が現れるシーン。デッカードの後ろにラブ、レイチェルの後ろにウォレス、という構図だったような気がする。
「安定感のある構図の絵だなー」と思った記憶があるんだけど、どういう意味があるのかとかは今のところ特に考えていない。

悪役

ブレードランナー 2049(2017),クライマックスはやはり出産のモチーフと読むのが筋が通ると思う
なんで水辺なのか(水位上昇により堤防で都市が囲まれている設定は,そこで突然前景化される)→羊水
なぜわざわざ狭いところで沈め合いをするか→レプリカントの真の「子」はどちらかの争い
https://twitter.com/pubkugyo/status/934785244137267200

あの水没しつつある車の中でのアクションシーン
上の引用と全然関係ないんだけど、
K演じるゴズリングが、前作について悪役とヒーローの違いが揺るがされる作品だ的なことを『pen』のインタビューで言ってたけど、あのシーン、物語的には別にヒーローと悪役がひっくり返るわけではないけど、絵面的にはKが悪役っぽく見えるなあと思ったりはした。
出産のモチーフという指摘は、なるほど確かに。
上に引用したヴィルヌーヴの女性観もそうだけれど、生殖・繁殖というのが重視された物語ではある。魂は製造では得られないが生殖からは得られるという
そういえば、なんか見ていて『トゥモロー・ワールド』 - logical cypher scapeを思い出したりしていたのってそのせいだろうか。

ジョイかわいいよジョイ

なんといっても、ジョイがかわいすぎた
ジョイというのはウォレス社の製品で、ホログラムで投影されるAIで、恋人のように振る舞う。
まさしく、男性の欲望によって客体化された女性をそのまま具現化したような奴なので、「かわいいかわいい」ってはしゃぐのもアレなのは分かっているんだけど、かわいいのだから仕方なくないですか

ブレードランナー、ラブたんの服がおしゃれなのに対して、ジョイちゃんの服がほんのりダサいとこが多分萌えポインツなのと、その萌えポインツって欧米でもそうなのか!!!!!!!!って思った。
https://twitter.com/alchmistonpuku/status/934928193496084481

ってあって、なるほど確かに服も男受けしそうなところのチョイスだったかもなーと。
人形のように目が大きいという形容がそのままあてはまるのだけど、演じているアナ・デ・アルマスはキューバ出身らしい。
キューバ人女性にチャイナドレス着せてるって

デッカードと犬

そういえば、ラスベガスに引きこもっているデッカードは犬を連れている。
ザ・悪趣味みたいな石像とザ・豪奢みたいな建物が完全に廃墟として朽ちている中で、犬を連れた老人が『宝島』の引用をして現れるというの、押井守感ない?
SFに犬がいると押井守を想起してしまわざるをえないというか何というか
電気羊を飼いたがってたんだよな(上述したとおり原作ちゃんと内容覚えてないです)と思うと、犬飼ってたり、動物の木彫り作ってたりするのもなかなか味わい深いというか何というか

見ている最中あんまり気にしてなかったけど、レプリカントって骨あるんだな。メカトロニクスではなくてもっとバイオ寄りの技術で作られているんだな。
骨に製造番号刻まれているのは、巨神兵っぽい(東亜工廠)

多言語的状況

やはり自分は日本人だし、『ブレードランナー』というと日本語や日本文化が謎に入っている未来のLA描写で有名なので、本作でも、よく日本語が見えたり聞こえたりしてくるのだけど
一方で、看板の表示としてはハングルも結構あったなと思う
それから、非英語話者としては、Kの木馬の鑑定をしているアフリカ系のおじいさんが出てくる。あれ、何語だったのか分からなかったけど。
もう一箇所、非英語話者が出てくるところあった気がするけど、忘れた。
マリエットのこと勝手にロシア人(ないし東欧系)だと思いながら見てたけど、演じているマッケンジー・デイヴィスはカナダ出身の人だった。

それにつけても、SONYがちょいちょい目立つ。コロンビアピクチャーズだからか。

他に見かけた他の人の感想

あと,ラストについては“デッカードに自分の作った記憶を見せるステライン博士”が“ハリソン・フォードに自分の映画を見せるヴィルヌーヴ”に見えちゃうね,という暴露的解釈をしたけど,いちおう,作った記憶だからって無価値ではないよ,ディックはビビりすぎだよ,という主張としては一貫しているかな
https://twitter.com/pubkugyo/status/934785911673339905

最終的に訪れるのは穏やかな境地で、心へ浸みるような余韻を与える。
“ブレードランナー 2049” - three million cheers.

その他

公式サイトで前日譚に位置づけられる短編が3本(3本とも監督は別の人で、うち1つは渡辺信一郎が監督しているアニメ作品)見られるが、自分は、本編を見に行った後に見た。
大停電の話とかラスベガスが放射線で人が住めなくなっているとかは、アニメの奴を見るとまあ分かるかな、という感じ。


どうでもいい話なんだけど
スタッフロール見てたら、Mario **** “Pikachu”という人がいた(****の部分は普通のファミリーネームだったけど、何だったか忘れた)