宇野朴人『ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン』12

ラ・サイア・アルデラミン、キオカ、カトヴァーナの三者会談を描く12巻
物語としては、三者会談というよりは、そこに入り込んだ科学者アナライ・カーンが精霊の謎を解こうとするという形で進み、精霊の秘密が明かされる。
一方で、構図としては、イクタの戦うべき敵や対立図式がより明確化していったといえるかもしれない

これまで、常怠常勝の智将イクタ・ソロークvs不眠の輝将ジャン・アルキネクスという構図があったが、むしろ、倒すべきはジャンよりも、そのさらに上位にいるキオカの執政官アリオ・キャクレイであることがよりはっきりしてきた感じ。元々、そいつが敵だろというのはあったけれど。
思想的な対立がはっきりしてきたというか。
「全ての英雄は過労で死ぬ」ゆえに英雄を作らないシステムこそが必要だと考えるイクタと、むしろ英雄を絶えず作りつづけることをこそ自らの生きる目的としているアリオと。
望みが叶わない悲劇と望みが叶う悲劇、という対比もまた面白い。
望みが叶うとそこで英雄ではなくなってしまう(からつまらない)というの、物語が延々と続くことを求める消費者みたいで。
ジャンがイクタに自分の過去を語ることと、イクタからのアドバイスに従い、ミアラの本音をジャンが聞くことで、ジャンとイクタとの間の対立が少しずつ氷解していくので、やはりイクタvsジャンではなくなっていく


教皇が、イクタのシャミーユに対する態度を見て「教育しているのね」と述べるシーンがあるが、あれはあとで、アリオが自分の行為を(洗脳ではなく)「教育」と呼んでいたことを考えると、「アリオにかけられた洗脳を解いてあげているのね」という意味だったことがわかるんだけど、この若干遠回しなの、アルデラミンにしては珍しい気がする
シャミーユとイクタの関係を妹弟子の子が説明するのとか、ちょっと前の巻忘れてた身としてはありがたいけど、そんなに詳しく説明しなくてもいいから、と思うシーンでもあり


さて、精霊の秘密についての情報開示だが
やっぱり過去にあった超文明の遺物でしたという話なんだけど、23世紀の日本が普通に出てくるとは思わなかった
カトヴァーナもやはりインドだったらしい
タイトルにある「ねじ巻き」や「アルデラミン」についても伏線回収
精霊を開発した日本人女性科学者の物語もやはり、英雄が英雄的な生ではなく個人としての幸福を選ぶ、という本作全体のテーマを反復したものとなっている
SFとしては、まあこれは本作に限った問題ではなく一般論的な話なんだけど、23世紀にARグラスとPDA使ってんのかなーという。というか、ARグラスとPDAという単語のチョイスがちょっと謎で、PDAじゃなくてタブレットでよかったのではなかろうか、と。
SFって、どうしたって時代と共に描写が古くさくなってしまうことから逃れられないので、「200年後にこのテクノロジーはもうないでしょ」と思っても、それを出すこと自体は仕方ないとして、そうだとすると、ガジェットや用語にどれくらいSF的フェチっぽさを出せるかがセンスかなーと思うんだけど、そうすると、ARとPDAは個人的にはちょっと、となる。
その後に、なんちゃら機関っていう謎の超テクノロジーエンジンが出てくるし。
一方で、カタストロフ以後の人類について遺伝子編集がなされていて、女性の妊娠期間が短くなっている、という設定はSF的に面白いところだなーと思った。
カタストロフ以後の人類が改造されているというのは、例えば『ナウシカ』を想起させる、伝統にのっとった設定だと思うけど、具体的にどのように改造されたのかという点で、女性の妊娠期間をいじったというのが、現代的だな、と。
作中において、女性軍人が多い理由として、この改造があげられている。
ああ、あと、イクタがもっとも気にするのが、魂の記録技術について。なるほど、こうやってSF設定とヤトリとを絡めるのか。