『ロード・オブ・ウォー』

ヨルムンガンド』のアニメを見ていた頃に、元ネタらしいと聞いて、見てみたいなあと思いつつ気づけば5年が過ぎ、なんとかプライムさんのおかげでようやっと見れたw
ニコラス・ケイジ演じる武器商人の話
一発の銃弾が工場で造られ実際に銃から発射されるまでを銃弾視点で映していくOP映像から始まり、テンポよく進んでいく。


現代における悪というのはこういう感じなのだろうか。
いわゆる悪って、これぞ極悪人というタイプもいれば、狂信者タイプもいれば、いわゆるアイヒマンタイプもいるのだと思うけれど、
ニコラス・ケイジ演じるユーリはそのどれでもない。
彼は武器商人としての才能があった、というタイプ。
悪をなそうと思って悪をなしているわけではないし、何らかの政治的・宗教的確信を抱いているわけではないし、命令や状況に従っただけの凡庸な人間というわけでもない。
自分の才覚がどこにあるのか気づき、それを活かした結果が、戦争・紛争につながっていた。
でも、自分から戦争・紛争を起こそうとしているわけじゃないから、自分は悪くないだろうと思っているけど、はたから見たら、お前が武器売ったせいだろう、と。
彼自身も、戦争・紛争・人殺しが悪であることはおそらく分かっていて、その点では完全に倫理観が麻痺しているわけれではないのだけれど、武器を売ること自体が悪だという感覚は薄くて、その点に関しては倫理観が麻痺しているように見える。ただ、部分的に麻痺していること自体が、彼の武器商人としての才能なんだろうと思わせる。


物語やキャラクター、設定などは『ヨルムンガンド』とは全然違うが、いくつかのシチュエーションなどについては、「あ、ここを元にしてあのシーンにしたのかな」と思わせる部分もあった。まあ、武器商人という同じものをテーマにしているので、参考文献などが同じだったということなのかもしれない。
そういう意味でいうと、シュピーゲルシリーズなんかも見ていて思い出すところはある(っていうか、主にダイヤが)


主人公のユーリは、子どもの頃に、家族とアメリカへと亡命してきたウクライナ
いまだ冷戦が続く80年代、武器商人になることを決意し、弟を相棒にして兵器の売買を始めるようになる。
この頃の大物武器商人は、政治的な背景をもって、どこに売るかということを決めており、ユーリは「素人」と相手にされないが、ユーリは安くさばいて高く売るという原則に忠実に、グレーな売買をしていく。
いくつもの名義のパスポートを所持し、賄賂を駆使し、違法スレスレの輸出入を行う。
そのうちに、インターポールの捜査官にも追われるようになる。
この捜査官は、ユーリから「法の番人」と揶揄され、ちょっとジャベールっぽいw 彼は絶対に法律に従うから、ユーリも法の抜け穴をうまくくぐって、「合法」という証拠をそろえる。
あるとき、マフィアと取引したときに、支払いをコカインで行われてしまう。
ここが今まで相棒だった弟とユーリとの分かれ目になってしまうのだが、弟はコカイン中毒になってしまって、結局施設に入らざるをえなくなってしまう。
この弟、本当はシェフになりたかったのだが、ユーリから誘われてしぶしぶ始めてしまう。チョロい感じの人なので、始めたらわりとノリノリ(?)なところがあったのだが、おそらく良心の呵責や戦場のストレスがあったのだと思う。無実の人が殺されているところを見て憤るシーンなどがある。一方、ユーリはそういうところは見て見ないようにすませる。
ユーリは、コカインを始め麻薬にも手を出しているのだが、全然、依存症にはならない。
ところで、後半、アフリカで「ブラウン・ブラウン」というコカインと火薬を混ぜたものを勧められるシーンがあるのだが、「あんたの火薬だからな」と笑顔で勧められるというブラック・ユーモアなシーンがあったりする。


ユーリは、初恋の人でもあるが高嶺の花であった同郷の美人モデルを、自らもそれなりに金持ちになってきたときに、策をこらすることで、結婚までこぎつける
妻はユーリが何か怪しいことをしていると気づきつつも、何もいわず、ユーリは家族には内緒で武器商人を続けていく。
ソ連崩壊の際には、異様なまでに喜び、妻も両親もちょっと引いている。
むろん、ウクライナ人にとってソ連崩壊は喜ばしいニュースではあるだろうが、ユーリにとっては、安く買える武器がざくざく出てきたという意味での喜びなので。
叔父が軍人だったのでこれ幸いにと、買い付けに向かう。
かつて、ユーリのことを「素人」だと相手にしなかったかつての大物武器商人が、ソ連崩壊ではユーリに後れを取る。
その後、ユーリはアフリカに武器を卸すようになり、リベリアの独裁者大統領とその息子とも取引をするようになる。
リアルにヒャッハーな世界で、スーツ姿で商売の話するユーリという絵図には、独特の異様さがある。


もう一度武器商人へと引き戻した弟が、結局、良心の呵責をおさえきれず、死ぬことになってしまったり、
インターポール捜査官から夫の仕事についていよいよ知ってしまった妻が、彼のセーフハウスを暴いたり、
と、ユーリは次第に追い詰められていき、ついに逮捕の日が来てしまうのだが。