『BLAME! THE ANTHOLOGY』

弐瓶勉の傑作SFマンガ『BLAME!』が小説になった! なんだそれは!
小説とマンガの違いを感じさせるところもあり(例えば、登場する珪素生物の雰囲気の違い)、しかしそれでもBLAME!BLAME!だなと感じさせるところもあり。

BLAME! THE ANTHOLOGY (ハヤカワ文庫JA)

BLAME! THE ANTHOLOGY (ハヤカワ文庫JA)

九岡 望「はぐれ者のブルー」

鈍丸という電基漁師とアグラという珪素生物の話
鈍丸は、命の危険を顧みず青い塗料を探そうとするため、集落では「間抜け」と呼ばれている。アグラは、珪素生物の中であらゆることに疑問をもつため精神的畸形と判断され、放逐され単体で行動している。
筆者のあとがきによると、劇場版での設定に寄せているらしい。
原作よりも、BLAME!をまだあまりよく知らない人にとっては入りやすい世界観・物語ではないかなと思った。

小川一水「破綻円盤 ―Disc Crash―」

九岡の作品が、珪素生物と人間という本来なら相容れない者同士が、どちらもはぐれ者であったがために一時的にタッグを組むという話だった。
こちらでは、珪素生物のルーラベルチと統治局の代理構成体ボイドが営む宿屋が出てくる!
もっともこちらは、バグってしまった代理構成体を珪素生物が利用しているという感じだが(片利共生っぽい)
そこに、検温者である夷澱が訪れる。
ここでも人間と珪素生物の間の、ほのかな紐帯があらわれる。
九岡のも小川のも、珪素生物としては異端の存在を出すことで、原作では人類の敵対者として描かれてきた珪素生物の、人間っぽい(?)面を描いているようだった。
建設者をうまく利用して街を作っていくというのも面白い(蚤ども(フリーズ)といった種族も)のだけど、夷澱が、この階層都市についての推理を働かせ、外部を目指すというのが物語の中心となっていく。
著者のあとがきにもあるとおり、都市の探索こそが主眼である原作とは、アプローチの仕方が違うけれども、こういうアプローチもできるのだなという感じ。

野崎まど「乱暴な安全装置 -涙の接続者支援箱-」

原油の川が流れている集落があって、原油なので火事が起きやすいので、対火機構という火消しがいる
町外れで発見された子ども、ぶよぶよの肉塊(神経灇)に変化していたその両親
食客的な男ニウ-レスキがその謎を解明するたびに放棄された工場跡へ向かう。
と、面白い話なんだけど、これってBLAME!かと思いながら読み進めていると、しかし、最後のシーンが見事にBLAME!
ダフィネルリンベガの如く、珪素生物が審査の緩いところをうまくハックしてネットスフィアに接続しようと試みてたっていう話なんだけど、そこに突然のセーフガードで「ええ?!」ってなるものの、まさに弐瓶作品の風景という感じがする。

酉島伝法「堕天の塔」

月を発掘するために、代理構成体としてネットスフィからダウンロードされた作業員たち。
ところが、ある時、超構造体に穿たれた穴に作業塔ごと落下してしまう。
ひたすら落下し続けるという、まるで『アリス』のウサギの穴のような展開の中、階層都市の風景やネットスフィアへ戻れなくなった代理構成体の心情、そして、時空隙を用いた時間SFが繰り広げられていく。

飛 浩隆「射線」

霧亥がいなくなってから1000年以上後の出来事をはるかなタイムスケールで描く。
空間的に大きなスケールを描いた原作に対して、空間的なスケールもさることながら時間的なスケールでの大きさも示す点で、マンガと小説のメディアの違いを感じないでもないが、それ以上にこの作品の、人間のいない風景がすごい
がれきでできた巨人が延々と歩いているだとか
虹を編む「レース編み機」となっている、レール上を運行する都市だとか
BLAME!の世界観と、飛浩隆の世界観が見事に融合しているというか。
人間とは離れて勝手に動いているものたちというのは、BLAME!っぽい
一方でそれらのSF的な解釈(?)というか描き方というかは、BLAME!っぽいというよりは飛浩隆っぽい。
統治局でもセーフガードでも珪素生物でもない、環境調和機連合知性体というものが出てくるが、これがなんとも飛浩隆的。というのも、皮膚としての知性だから。またBLAME!の原作では説明されていなかった空所をうまく埋める設定ともなっている。環境調和機というのはまあエアコンの遠い子孫で、スマートハウスのすごく進歩したもの。
階層都市そのものの形を変えてしまっていくというのもなかなか
霧亥の他にも同様の使者がいて、これらをまとめて連合体が「雨かんむり」と呼んでいるというネーミング好き
最後に霧亥が再帰してきて物語的にもきれいにオチがつけられて、本アンソロジーの終幕を飾っている。