ニック・レーン『生命、エネルギー、進化』

生命の起源とはどのようなものだったか、真核生物はどのように誕生したのか(何故20億年も真核生物は生まれなかったのか)、という大きく分けて2つの問いを、エネルギー代謝という観点から説き明かしていく本。


あらゆる生物にとって共通の要素とは何か。
DNAによる遺伝子、というのはよくある答えであり、もちろん正しいのだが、本書ではもう一つの要素に着目する。
すなわち、ATPである。
ATPを作り出す仕組みには、あらゆる生物に共通する部分があるという。
そこから生命の起源を考えていく。
分子生物学の進展により、生物を情報という観点から考えることが主流になりつつあるが、筆者はエネルギーの観点から考える(生命とは負のエントロピーを食べるという定義を思い起こせば、この観点は新しいものというよりも、むしろ古くからあるものだともいえる)。
生命とは、エネルギーが安定状態へと移り変わっていく途中で少しその流れを押しとどめているような場所である。
そう考えれば、非生命的な現象と生命的な現象とはシームレスとなる。
そして、生命の起源を考える際に、熱力学的な条件から可能性を絞り込んでいくことができる。
アルカリ性の熱水噴出孔で生じた環境が生命へと転じたのだというシナリオが論じられていく。
このあたりは高井研『生命はなぜ生まれたのか――地球生物の起源の謎に迫る』 - logical cypher scapeと似ているところがあったが、どちらにも、マイケル・ラッセルという研究者がキーパーソンとして出てくる。
単に熱水噴出孔というだけでなく、いわゆるブラックスモーカーではない、アルカリ熱水噴出孔というのが大事らしい。


生命の起源というと、原始のスープかパンスペルミアかわからないが、化学進化の果てに自己複製する有機物と膜を持った有機物とが生まれてきて、それが組み合わさって生物になった、というようなシナリオが一般的かと思う。
が、こちらはそうではなく、自然環境の中で、酸化還元反応によるエネルギーと有機物のもととなる前駆物質とが供給され続けるような場所が生じ、その環境を膜で包むと生命になった、というものとなっている。
第3章と第4章のあたりは、筆者の興奮も伝わってくる感じで、読んでいてもとても面白い。


地球の生物は、大きく3つのドメインにわけられる。
すなわち、細菌、古細菌、真核生物である。細菌と古細菌はあわせて原核生物とも呼ばれている。
原核生物と真核生物とのあいだには大きな隔絶がある。
中間種となるような生物が全然見当たらないのである。
筆者は、非常にまれな、しかし理論的に起こりえないわけではない、とある細菌と古細菌との共生が真核生物を生んだと考える。
それこそミトコンドリアの起源であり、また、原核生物にはなくて真核生物にはある様々な機能や仕組みがこの時に生じたのだとする。それは例えば、有性生殖や寿命だったりするわけだが、イントロンやエネルギーの観点から論じられる。


本書の後半部、真核生物がいかに稀なる生き物か、という問題は今までちゃんと知らなかったところでもあり、色々な話題が出てくるし、テクニカルなところもあるので、把握しきれていない感じもあるのだが、読んでいる最中は「なるほどー」と思わせるところが多くて、やはり面白かった。
有性生殖による遺伝子の組み換えが生じたことで、自然選択の「目に留まりやすくなる」とか、おおーって感じだったし。
ミトコンドリアアポトーシス有性生殖と死の関係なども面白い話。
個人的にはむしろ、細菌や古細菌といった微生物の方に興味が。森元良太・田中泉吏『生物学の哲学入門』 - logical cypher scapeでも、微生物において種の概念を適用させるのが難しいという話があったけど、さらに系統樹を作るのもかなり難しいようで。
イントロンという言葉が出てきたのもちょっと驚いた。
以前、エピジェネティクスの本を読んだときは、そういう一緒くたにしたような言い方を今はもうあまりしないような感じだったから。ただ、ニック・レーンは、非コード領域がいろいろな働きをすることは認めつつも、DNAの多くは「ジャンク」だと述べている。


筆者によれば、生命自体は、地球以外の環境で生まれていても不思議ではないと考えているようだが、一方で、真核生物のような複雑な生命体が生じる可能性は低い、とみているようだ。
これは、地球の進化史において、真核生物が一度しか生まれていないという事実に負っているところが大きい。眼とか翼とかは複数回生じているのにも関わらず。
細菌や古細菌における内部共生が真核生物を生んだが、内部共生自体が稀な現象らしい。全くないわけではなくて、現存する中にも内部共生している菌はいないわけではないようだが、数が限られている、と。
そして、内部共生によって真核生物が一気に現れた、と(逆に言うと、細菌をいくら自然選択にかけてても真核生物は生じてこない)。


この本、まあそれなりに難しいところもある本だし、ボリュームもそれなりにあるのだけど、どうもビル・ゲイツが絶賛したとかで、わりとヒットしているらしい。
『サピエンス全史』もビル・ゲイツ効果でヒットしていたっぽいし、なんというか、いつの間にかビル・ゲイツってそういうポジションになってたのねって、この本とは全く関係ないけれど*1

生命、エネルギー、進化

生命、エネルギー、進化

はじめに――なぜ生命は今こうなっているのか?
第 I 部 問題
 1 生命とはなにか?
  生命最初の20億年小史
  遺伝子と環境に関わる問題
  生物学の中心にあるブラックホール
  複雑さへの失われたステップ
  間違った疑問
 2 生とはなにか?
  エネルギー、エントロピー、構造
  生命のエネルギーのメカニズムは不思議と狭い可能性に絞られている
  生物学の中心的な謎
  生命は結局のところ電子
  生命は結局のところプロトン
第 II 部 生命の起源
 3 生命の起源におけるエネルギー
  細胞の作り方
  熱水孔は流通反応装置
  アルカリ性であることの重要性
  プロトン・パワー
 4 細胞の出現
  LUCAへ向かう岩だらけの険路
  膜の透過率の問題
  なぜ細菌と古細菌は根本的に違うのか
第 III 部 複雑さ
 5 複雑な細胞の起源
  キメラという複雑さの起源
  なぜ細菌はいまだに細菌なのか
  1遺伝子あたりのエネルギー
  真核生物はどうやって制約から抜け出したのか
  ミトコンドリア―― 複雑さへ導く鍵
 6 有性生殖と、死の起源
  遺伝子の構造の秘密
  イントロンと、核の起源
  有性生殖の起源
  ふたつの性
  不死の生殖細胞、死を免れぬ体

第 IV 部 予言
 7 力と栄光
  種の起源
  性決定とホールデーンの規則
  死の閾値
  フリーラジカル老化説
エピローグ──深海より

第 I 部 問題

1 生命とはなにか?

情報(遺伝子)と環境だけでなく、細胞やその物理的構造による制約も考えた方がよい
情報だけだと制約がなく、地球以外の生命を考える場合にも予測がたてられない。

「生きている惑星」と生きている細胞との違いは、定義の問題にすぎない、と私は主張しよう。そこに明確な境界線はない。地球化学的現象から生化学的現象は継ぎ目なく生み出される。


また、ここでは大酸化現象が注目される。
酸素濃度の上昇が動物を産み出したと考えられる。酸素が制約を解き放ったのだ、と。
そうだとすると、単純に考えると、「多系統放散」が起こると考えられる。
あらゆる細菌が真核生物へと進化していったのではないか、と。
しかし、別の可能性もある。「単系統放散」である。
マーギュリスは、ミトコンドリア葉緑体についての細胞内共生説で有名だが、その後、自説を推し進め、それ以外の細胞内小器官についても細菌同士の共生から生まれたと考える「連続細胞内共生説」を唱えた。もしこの説が正しければ、多系統放散が起こっているはずである。
1980年代、カヴァリエ=スミスは、アーケゾアという生物が、ミトコンドリアを獲得する前に原始真核生物だと考えた。
だが、どちらも正しくなかった。
真核生物は非常に多様だが、よく似ており(それは細胞の構造だけでなく分子レベルでも)、多系統放散ではなく単系統放散であった。
また、アーケゾアは、十分複雑な真核生物から派生した種であることが今ではわかっており、原核生物と真核生物のあいだの中間種も見つかっていない。
中間種が見つからないことは『種の起源』でも予測されており、筆者はむしろ、真核生物への進化が何度も生じていないことをより注視する。
分子レベルにおける、細菌と古細菌とのあいだの違いは、細菌と真核生物とのあいだの違いと同じくらいに違うが、形態レベルでは見分けがつかない。
細菌と古細菌には、真核生物へと進化できない制約があり、真核生物においてのみその制約が解かれている。
この真核生物の起源の問題は、第3部において論じられる。

2 生とはなにか?

生(live)とはなにかということを、環境とのかかわりで考える。つまり、環境とのエントロピーのやりとりである。


生命のエネルギーに関して二つの特徴がある
(1)あらゆるエネルギーが酸化還元反応からえられること
(2)ATP合成に、化学反応ではなくプロトン勾配という手段を使っていること
プロトン勾配は、地球上の生命に普遍的にみられるが、当初、プロトン勾配についての説が提唱された際、直観に反すると言われていた。
ミトコンドリアの水素伝達系についての解説がなされている。
呼吸鎖複合体のあいだを電子が移動して、プロトン(水素イオン)が内膜の外へと汲み出される。膜の内外で、プロトン濃度差が生まれ、これは150~200ミリボルト(筆者は、もしATP分子サイズに小さくなって感じるとしたら稲妻に匹敵する電界の強さだという)の電気化学ポテンシャルが生じる。
これをプロトン駆動力と呼び、これがATP合成酵素を回転させ、ATPが合成される。
ATP合成酵素は、3ドメインに共通して見出される。
本書では、ATP合成酵素を「DNAの二重らせんに匹敵するほど生命にとって象徴的なもの」と位置付ける。
このプロトン駆動力の理論は、ピーター・ミッチェルによって「化学浸透圧説」として提唱された。


何故酸化還元反応なのか
生命というのは、水素のようなものから二酸化炭素へと電子を運んでいる。そうした移動はすべて酸化還元反応
ここで注釈として、なぜ炭素なのかということにも軽く触れられている。4つの結合が作れる点が炭素のよさとして挙げられており、ケイ素にはできないこととしている。ケイ素生物というのはSFでよく出てくるせいか、アストロバイオロジー系の本でもよく言及されるのだが、たいていケイ素生物が生まれる可能性は低いとされることが多く、本書でも同じw
酸化還元反応のよいところ
電子供与体と受容体との組み合わせが多様
反応が遅いことによってこの多様性が生まれている
反応速度が遅いので、強制的に反応させると爆発的なエネルギーを生むものがそのまま残っている。生命は、この速度論的障壁を利用することで存在している。
電子供与体と受容体の多くは水溶性で化学的に安定→熱力学的に反応性の高い環境を細胞内に持ち込める
それゆえに、酸化還元反応は、他のエネルギー(熱エネルギー、力学エネルギー、紫外線や稲妻など)よりも生命にとって有用
環境が変わっても、OSは共通で違うものを利用できる
宇宙のどこでも酸化還元反応は生命にとって重要なはず


何故、プロトン勾配なのか。
酸化還元反応において、プロトン勾配でなければならない理由はない
しかし、DNA複製メカニズム、細胞壁、発酵の経路、細胞膜も細菌と古細菌では異なっているのに、化学浸透共役だけは、共通

第 II 部 生命の起源

3 生命の起源におけるエネルギー

生命の起源について
ミラー・ユーリの実験が嚆矢。ワトソン・クリックの二重らせん論文と同じ年に公表されたが、当時、DNAの構造はあまり関心がもたれなかったが、ミラーは『タイム』誌の表紙を飾った。
さて、これ以来のオーソドックスな生命の起源についてのシナリオは、原始スープの中でRNAワールドが生まれ、複製子が次第に進化し代謝がコード化されていった、というものだろう。
これに対して、二つの問題点を指摘する。
一つは、エネルギー不足。当初言われていたような稲妻では、回数が足りない(1平方キロあたり毎秒4回の稲妻が必要)。
もう一つは、濃度不足。このためには、海水が凍るか蒸発するか干上がっているかする必要があるが、細胞の安定した状況からは程遠いと筆者は棄却している(個人的には、なるほど、水たまり説とかある理由がわかったという感じだったが)。


情報がなくても構造はできる。
エネルギーがあれば、いわゆる「散逸構造」が生じる。
一定のエネルギーが流れ、そこに安定した構造が生じ、そこに前駆体が供給されれば、そこから複製が生じていく、というのが本書のシナリオだ。
水中での複製には、有機物の炭素とATPのようなものの供給が必要
生体膜は、やはり濃度の問題。何らかの閾値をこえると、脂肪酸は自然に袋を形成する。
反応が進むには老廃物が除去される必要がある(原始スープはどちらも一緒に溶けているのでこれを阻む)*2
さらに、触媒(金属硫化物など)も必要となる
このような条件がそろっている環境はどこか。
熱水噴出孔である。


熱水噴出孔というと、ブラックスモーカーが想起される
現在みられるブラックスモーカーを中心とした生態系が、生命の起源の環境と目されることがあるが、実は、現在のブラックスモーカーの生態系では酸素を利用しており、間接的には光合成に依存している。
ヴェヒスターズホイザーによる、鉄硫黄(FeS)が有機分子合成の触媒となったという説がある。
FeSは優れた触媒だが、一酸化炭素を使う必要があり、ブラックスモーカーから一酸化炭素はほとんど出ていない。
ブラックスモーカーは熱すぎるという問題もある。
また、不安定で数十年で崩れてしまうという問題もある。


アルカリ熱水噴出孔
マイク・ラッセルが、1990年代初頭において理論を展開し、存在を予言。2000年に実際に発見され、ロスト・シティと名付けられた。
アルカリ熱水噴出孔は、水とマグマの相互作用ではなく、マントルに由来するカンラン石による穏やかな反応によって生じる。60~90℃ほど。
チムニーはなく、細孔が多数あいている。この迷路を熱水がしみわたっていく。
何千年、何十万年も持続する。
熱泳動によって、濃度を高め、有機分子の相互作用を促す。
しかし、現在のアルカリ熱水噴出孔で生命は生まれてこない


当時と現在の違い:酸素がない、CO2濃度が高い
酸素がなかったころ→鉄が海に溶存→熱水噴出孔の壁に鉄鉱物が付着
「高いCO2濃度、弱酸性の海、アルカリ流体、FeSをもつ熱水孔の薄い壁構造の組み合わせこそが重要」
熱力学によれば、CO2は水素(H2)と反応してメタン(CH4)を生成する
しかし、反応速度論により、そんなことは生じない。H2とCO2は互いに活性がない。CO2に電子が二つ加わるとギ酸イオンができ、さらに電子が二つ加わるとホルムアルデヒド、さらにふたつでメタノール、さらにふたつ加わると完全に還元されてメタンとなる。
生命は、メタンではなく、ホルムアルデヒドメタノールの混交物におおよそ相当
つまり、生命は、反応速度の第一の障壁は乗り越えつつ、メタンになる障壁は乗り越えてはいけない。
H2がCO2を還元できない理由は、還元電位の差にある。
しかし、分子の還元電位は、pH=プロトン濃度(水素イオン濃度)に依存
アルカリ熱水噴出孔の迷路の壁を挟んで、プロトン濃度が異なる(海水は酸性、噴出するのはアルカリ性
そして、壁のFeSが電子を移動させる。
実際に装置を作って実験で検証ができる。


岩石(カンラン石)と水とCO2
これが生命に必要なリストで、宇宙にはありふれており、岩石惑星の系外惑星でも見つかっている。

4 細胞の出現

細菌は水平遺伝を行っているため、遺伝的にキメラである。
遺伝子による系統樹は、遺伝子一つにつき一つの系統樹となり、遺伝子ごとに異なる。
複数の遺伝子で系統樹を作ると、系統樹が一致しない。
このため、どの細菌や古細菌がより共通祖先に近いのかがわからない。


炭素を固定する経路は6つある(例えばカルヴィン回路)。
この中で、一つだけ細菌と古細菌に共通する経路がある=アセチルCoA経路
古細菌ではメタン生成菌、細菌では酢酸生成菌
アセチルCoAと同等で無生物的なものとして、チオエステル結合がある


天然のプロトン勾配を利用して生まれた生命は、しかしそれだけだと問題がある。
現在の生命と違って、リークしやすい膜を使うのが効率的であり、またそれ以上に進化しないという問題である(能動的にプロトンをくみ出す必要がないから)。
これに対して、筆者は、対向輸送体により進化が促されたという仮説を提示している。
対向輸送体は、ナトリウムイオンと水素イオン(プロトン)を交換する
プロトンを動力としたナトリウムポンプ
プロトンを通しやすい膜でもナトリウムは通しにくく、ナトリウムを組みだし、濃度勾配を作ることができる。
メタン生成菌のATP合成酵素は、ナトリウムイオンとプロトンを区別しないので、ナトリウムイオンの汲み出しには意味がある。
また、これにより細胞内は低ナトリウム濃度となる。高ナトリウム濃度のはずの海で生まれた生命が、なぜ低ナトリウム濃度に最適化したのかの説明になる。
この対向輸送体の働きは、プロトンを汲みだすことにもわずかなメリットを生じさせ、リークしにくい膜を改良させるメリットを生む。
この能動輸送を独立に進化させた二つのグループが、それぞれ細菌と古細菌とに分化した、というのが筆者の主張である。
細菌と古細菌の共通点と相違点をこれで両方説明できるとしている。

第 III 部 複雑さ

5 複雑な細胞の起源

真核生物には、原核生物由来の遺伝子が3分の1あるが、その起源が多数のグループに分かれる
これは、多数のグループとの共生があったということか?
そうではなく、一度だけ共生があり、その後、原核生物の方で遺伝子の水平移動があっていくつものグループに散ってしまったと考える。
発酵は呼吸よりあとにあらわれた。


「1遺伝子あたりのエネルギー」
真核生物のエネルギーを1遺伝子あたりで計算すると、原核生物の20万倍
細菌がサイズを大きくすると、膜の表面積の拡大にあわせてATPの合成量は増えるが、体積も増えてコストもあがる。巨大細菌で調べてみると、1遺伝子あたりのエネルギーは普通の最近と変わっていなくて、中心部は不活性。


内部共生して遺伝子を失うと、ATPを節約できる。
ミトコンドリアは、大半の遺伝子を失い核へ移動させた。しかし、呼吸系たんぱく質をコードしている遺伝子はミトコンドリアに残っている。化学浸透共役をコントロールするため。
膜の近くに遺伝子が配置される必要がある。(巨大細菌も膜の近くに遺伝子を配置)

6 有性生殖と、死の起源

真核生物のゲノムは、イントロンがはさまっており配列が「バラバラ」
イントロンは寄生性の遺伝子
典型的な細菌ゲノムに、可動性イントロンは30個ほどしかないが、真核生物には何万個もある。
イントロンの位置は、全く異なる真核生物のあいだで保存されている。
共通祖先で起きた共生の際にもぐりこんだ寄生性のイントロンが、そのまま残ったのではないか。


イントロンを切り出すためのハサミ=スプライソソームの速度は、リボソームによるタンパク質合成速度よりも遅い
→核膜によって、リボソームを妨げ、その間にスプライソソームで切り出す


有性生殖の理由
遺伝子をバラバラにして、それぞれが自然選択の「目にとまる」ようにする
組み替えられない配列に並んでいると、選択されずに残ってしまう。
有性生殖には様々なデメリットもあるにもかかわらず、はるかに普及している。
有性生殖のメリットが最大になるのは、変異率が高く、選択圧が強く、集団内のバリエーションが多い場合」
イントロンの侵入とミトコンドリアの獲得が、変異率を高くする
(ゲノムサイズが大きいと水平移動が難しくなる)
選択圧の強さもイントロンがかかわっていた。
何故、「ふたつの性」なのか
(性が3つや4つあれば、配偶者の相手は、2分の1から3分の2、4分の3に増えるのに)
一方の性だけがミトコンドリア遺伝子を伝え、もう片方の性はミトコンドリアの遺伝子を伝えないのが、共適応を向上させる手段だったのではないか。
ばらつきが多いと、自然選択の目にとまって、悪いものを排除できるが、生体組織が複数種類あると悪いミトコンドリアが集中してしまう可能性がある。
一つの生殖細胞にばらつきを集中させる=卵の誕生

第 IV 部 予言

7 力と栄光

最後の章は、ミトコンドリアによってもたらされる真核生物の有性生殖や死についての仕組みなどの話である。


プロトン汲み出しのための電子の移動は、トンネル効果によって行われる。還元反応中心間の距離はオングストローム単位で左右されるという、非常に些細なバランスの上に成り立つ。
さらに、ミトコンドリアの遺伝子と核の遺伝子がうまく相互作用しなければならない、という条件まで加わる。


核ゲノムとミトコンドリアゲノムのミスマッチは死をもたらす。
電子の速度が遅くなる→ATP濃度の低下とフリーラジカルのリーク→シトクロムcが解き放たれる→膜電位の消失→アポトーシス
1990年代の半ば、アポトーシスの引き投げとして、フリーラジカルのリークがシグナルとなるということが発見された。
ミトコンドリアアポトーシスのスイッチとなっていたのである。
雑種崩壊という現象があり、雑種を交雑させると死滅してしまう現象で、ミトコンドリア遺伝子と核遺伝子の不適合に起因
これが、真核生物における種分化をもたらす


代謝率と性決定
代謝率が高い組織は、ミトコンドリアのエネルギー需要が高く、この需要を満たせなくなると崩壊する(崩壊しやすい)。不適合が生じやすい。


ミトコンドリアを介して、有酸素能、適応性、生殖能力、死とが関わりあっている。
鳥は、高い有酸素能を必要とする→ミトコンドリアDNAのバリエーションが少ない=ミトコンドリアゲノムと核ゲノムの高い適合が必要とされる→適合度合が低い個体は自然選択の中で排除される=生殖能力が低い。鳥は適応性が低いので、季節変化に耐えられず移動する。
ラットであれば、フリーラジカルのリークが多くてもアポトーシスしないように閾値を引き下げる。鳥と比べて、多少適合度が低くても生き残る→生殖能力が増すが有酸素能は低くなる。
ミトコンドリアのバリエーションが多いと、病気というコストがかかる
フリーラジカルのリークに対する閾値が低いと、有酸素能が高くなり、病気のリスクは低下するが、生殖不能となる率が高く、環境への適応性が落ちる。
閾値が高いと、有酸素能が低下して、病気のリスクが高くなる一方で、生殖能力と環境への適応性が向上する。


フリーラジカル老化説
フリーラジカルが老化の原因で抗酸化物質が寿命を延ばすという説は誤り。抗酸化物質はむしろ逆に働く。
フリーラジカルが多くなると、ミトコンドリアが増加し、ATPは増える。
有酸素能が高まると寿命は延びる。
代謝率が低い動物(象)が高い動物(ネズミ)より長生きするというのは、哺乳類や鳥類といったグループ内では当てはまるが、グループ間では成り立たない。それゆえ、今はこの考えは無視されているらしい。
進化によって、最適の寿命がすでに決まっており、それ以上伸ばすことはできないと筆者は考えている。

*1:関係ないついでに、以前twitterでスター経営者にも流行があるようでなんでもゲイツだったのが最近はマスクになっている旨の発言を誰かがしているのを見たことがあり、確かになあと思った

*2:ところで、注釈においてアルコール発酵においてアルコール濃度が一定よりあがらないのは老廃物によって反応が止まってしまうからだと述べられている。蒸留することによって濃度をあげることができる