土屋健『ザ・パーフェクト』

むかわ町ほべつから発見された恐竜化石の発掘を追ったルポルタージュ
新種と思われる恐竜そのものももちろん興味深いが、この本ではむしろ、それを巡る人々の物語に興味が向く。それは、単純に研究者個人の物語というわけではなくて、地方自治体や博物館などそれを巡る諸制度というか、周囲のものごとにも及ぶ。
この本では、第一発見者となった地元の化石愛好者、地元博物館の学芸員、古生物学者、大学院生、むかわ町長といった関係者視点による記述も多く含まれている。
また、筆者はサイエンスライターであるが、古生物学で修士課程を出ており、院生時代の経験も交えて書かれているため、古生物学の研究がどのように行われているものなのかというのが分かる。

第1部 むかわ町穂別
 第1章 ワニの化石だと思っていた――堀田良幸(第一発見者の化石収集家)
 第2章 北海道フィールド
 第3章 アンモナイト研究の聖地
 第4章 アンモナイトに惹かれて穂別でクラス――西村智弘その1(穂別博物館学芸員(当時:普及員))
 第5章 はじめに「地質」ありき
 第6章 穂別。白亜紀生物の化石産地)
第2部 恐竜化石
 第1章 恐竜とは何か
 第2章 日本の恐竜たち
 第3章 恐竜化石であってほしい――櫻井和彦その1(穂別博物館学芸員)
 第4章 クビナガ竜ではなかった――佐藤たまき東京学芸大学准教授(クビナガ竜専門の古生物学者))
 第5章 恐竜化石が出ると思っていた――小林快次(北海道大学総合博物館准教授)
 第6章 考えながら、骨を出していく――下山正美(穂別博物館クリーニング作業員)
第3部 発掘
 第1章 化石を発掘するとは
 第2章 北海道として例がない――櫻井和彦その2
 第3章 全身があるか?――小林快次その2
 第4章 作業が想像できない――西村智弘その2
 第5章 「ザ・パーフェクト」全身があった!――小林快次その3
 第6章 悪夢にうなされた――高崎竜司(大学院生)
 第7章 小林さんが効率よく作業するには――田中公教(大学院生)
 第8章 復元画誕生――服部雅人(CGイラストレーター)
第4部 ハドロサウルス類
 第1章 白亜紀後期という時代
 第2章 穂別の恐竜の正体
 第3章 世界のハドロサウルス類
第5部 これから
 第1章 むかわ町のこれから――竹中喜之(むかわ町町長)
 第2章 恐竜化石のこれから――小林快次その4
 第3章 おわりに――執筆 小林快次
コラム 恐竜学入門
 地質時代の中の恐竜時代
 北海道の博物館
 特別インタビュー/フィリップ・カリー、穂別の恐竜を語る
 学名が決まるまで
 世界の恐竜化石著名産地

人名横の括弧内、肩書等はこちらで付け足したもので、実際の目次には入っていない。



詳しい内容についても触れたいが、年末に読み終わった本で、ちょっと時間があいてしまったのでパス


生物学者の仕事って、発掘作業のマネジメントとか考えると、単なる研究者ってだけでない素質も必要そうだなと思ったりした。
恐竜だってわかると、地域の町おこしとかにも影響してくるから、情報の出し方も即座に考えないといけない、とか。


ここで登場する博物館学芸員や大学院生の章を読んでいると、自分のありえたかもしれない別の人生を垣間見ているような気分にもなる。
自分は幼い頃に恐竜少年で、一時期は「将来の夢は古生物学者」と言っていたこともある。しかし、成長するにつれて興味関心は別のところへと移っていった。あのまま、恐竜への関心を持ち続けていた人が大学で古生物学研究室へ進学したりするんだろうなと思っていた。
ところが、ここで登場する大学院生などは、幼い頃恐竜少年ではあったが、その興味関心がずっと続いていたわけではなくて、そこから一度離れて、大学入る頃に再び戻ってきた、という感じらしい。
なんか自分と似てると思った。もっとも、彼らは理系だったからこそ大学で古生物学と再会しているのであって、文系になった自分とはそこが違うが。