結城充考『躯体上の翼』

BLAME!』と『ガルム・ウォーズ』と『ナウシカ』、そりゃ俺好きだわみたいな奴!!
読み始めてすぐに世界観に引き込まれていった。
出た当初からちょっと気になっていたのだけど、あとでいいかなと思っていたら、文庫化してた。単行本出たのがもう3年前でちょっとびっくりした。
世界が炭素繊維躯体に飲み込まれて幾星霜、地上では、文明レベルの落ちた民が細々と集落を作って暮らしており、共和国と巨大企業佐久間種苗は、航空船団を使い、緑化政策と称して、自分たち以外の文化・文明を徹底的に駆逐しようとしていた。
互聯網(ネット)とか下載(ダウンロード)とか機毒(ウイルス)とか、中国語だったり中国語っぽい漢語だったりを使って、人名も漢字一文字で、世界観を出してる。必ずしも中華風ではないのだけど、漢語世界圏サイバーパンクになってる。

躯体上の翼 (創元SF文庫)

躯体上の翼 (創元SF文庫)


主人公の員(エン)は、100年に1度、人狗との戦闘のために狩り出される遺伝子改造を施された人間兵器、対狗衛仕*1の1人。
資源の枯渇により、映像・音声情報はなくなり文字情報だけとなった互聯網(ネット)の中を見て回っている時に、佐久間種苗のIDからパスワードへと変換するハッシュ関数を見つけた員は、そこから様々な文書を見て回っているうちに、他にも同じように互聯網を見て回っている者がいることに気付く。
cyと名乗るその者と、文書の記録容量が変わって当局に気付かれてしまわないように、たった7文字の余白に書いたり消したりして、お互いに会話をするようになる。
しかし、次の緑化政策が行われる場所が、cyのいる東景だと分かり、員は決断する。
航空船団211隻全てを墜とし、cyを守る、と。
本書の大半は、員が1人で航空船団を敵に回し戦い続ける、アクションシーンからなっている。


人狗との戦闘には機動力が必要ということで、内燃機関は使われなくなり、航空機は全て回転翼機になっている!
文明レベルが落ちて、狩猟と栽培で暮らす民が、員のことを〈鴉女〉と呼んで神聖視していて、炭素繊維躯体の柱をひたすら登攀して探しに行くシーンとかの、BLAME!感というか何というかが本当にすごくいい! アセンブラアと呼ばれる機械を見るシーンは、まさに建築者と電基漁師という感じだし、ならば員はサナカンか何か。


船団側では、道仕が指揮して、員に対抗する。道仕は普段は国務院の記録庫にデータとして保存されていて、人狗戦などの際に、船団の旗艦に冷凍保存されている死体に下載(ダウンロード)されてくる国務院直属の軍師。前回、下載されたのは100年前。100年間と比較して、技術レベルが上がっていないこと、むしろ人員や運用のレベルは落ちていることに苛立っている。
しかし、この道仕にしたところで、軍師としての能力は高いわけだが、権力をもって居丈高に振る舞う奴で、共和国の一極集中型な権力体制を象徴しているような存在。
もう一方で、共和国の腐敗ないし落日ぶりを象徴しているのが、高等師団長で、彼は家柄のみで出世している。家柄とはいっても、わずか3世代前くらいに他の家門を陰謀で蹴落としてきた家系で、彼自身はそのことを自覚しており、軍務よりも詩の方を好んでいる。

回転翼が機体の中に格納されている大型戦艦ってどんなんだろうなあ
蝙蝠への変身シーン、朽ちた星間船の残骸の中でのドッグファイト、船体上部からの輸送船への侵入、次々墜とされていく船団、船内での白兵戦、地上への落下シーン、巨大な人狗との空中戦、戦闘攻撃機上での最後の抵抗
映像化したところを見てみたいなあというところが色々とあった。
基本的にずっと空の上で、見下ろせば雲と海か、森のような黒い躯体の構造が広がっているばかりという光景も。


そういう絵が見せたいんだ、というその一点で成り立っている作品であり、ラストはちょっとあっけなさすぎではないかといえば、その通りなんだけど。

*1:衛の字は旧字