オキシタケヒコ『筺底のエルピス4―廃棄未来―』

本来は3巻だったのだけどあまりにも長くなりすぎて4巻になってしまった「廃棄未来」
2冊に分かれた上に分厚い
分厚いのだけど、1冊でここまでやるのかーっていうくらい展開していく。
そして、見事に一区切りつく。
2巻から始まった門部とジ・アイとの抗争にはひとまずの決着がつく。
しかし、その決着までの過程は過酷というか容赦ないというか、読んでいて本当に体力を使った。最後のページで、次巻へ続く旨の記述を見て「つ、続くのか……」と思ってしまった程(この巻で決着がついたのは、あくまでもジ・アイとの抗争であって、鬼との戦いはまだ続くのだから当然といえば当然だが)


オキシタケヒコ『筺底のエルピス 絶滅前線』 - logical cypher scape
オキシタケヒコ『筺底のエルピス 絶滅前線』 - logical cypher scape
オキシタケヒコ『筺底のエルピス3―狩人のサーカス―』 - logical cypher scape


人に取り憑き殺人鬼へと変えてしまう「殺戮因果憑依体」(通称「鬼」)、その討伐を担う3つのゲート組織が日本の「門部」、バチカンに本部を置く「ゲオルギウス会」、そして世界の3分の2で活動する「ジ・アイ」である。
門部に所属する封伐員、叶(かなえ)の親友である結(ゆい)に白鬼が取り憑く。この白鬼は白鬼のままでは無害だが、結が死ぬと黒鬼へと姿を変える。黒鬼は、人類史上でも数回しか出現したことがなく、前回出現した際には、第二次世界大戦の原因になるなど、人類規模の災厄を生む。
ジ・アイは門部に白鬼の引渡を要求する。
だが、ジ・アイは、鬼を倒し人類を守るためには、鬼を兵器として利用し、時に人間を殺すことも厭わない(鬼の活動を抑制するためには、憑依される人間そのものの数を減らすのが効率がよい)組織であり、門部は引渡を拒否。
不死者として改造されたジ・アイの戦闘員が、門部制圧に乗り出してくる。
門部の本部は瞬く間に制圧され、ごく僅かの人員が生き残るのみとなる。
と、ここまでが2巻
生き残った7人の門部メンバーと民間人2名が、ジ・アイから逃亡し、間白田の考えた「負けない策」の上で展開されていくのが3、4巻となる。


逃亡者を追うのは、かつて門部の封伐員であり、そしてジ・アイのエンブリオに殺されたはずの奥菜正惟
そして、ジ・アイの中でも最恐・最悪の不死者、エンブリオ
また、泣き虫の狙撃手ヒル*1
ジ・アイのメンバーは不老不死を施されており、その中でもスリープレスと呼ばれる上級メンバーは、能力も人格もおかしい奴が多く、鬼よりもよっぽど手強い
その中でもエンブリオは、ジ・アイの中でも嫌悪の対象となる程のヤバい奴筆頭である。
一方、ヒルデは、ジ・アイの中ではどちらかといえば下の方に位置する。むろん、ジ・アイのメンバーであるから、能力は優れたものがあるのだが、「柩」の特殊能力よりは狙撃手としての能力によるところが大きく、性格もかなり普通。
というか、ジ・アイは確かに組織やトップメンバーはいかれてるように思えるのだけれど、普通のメンバーについていえば門部とそう変わらないのだ。
ジ・アイから逃走する叶や圭が間白田の考えた策、そのレールの上を走らざるをえないように、ヒルダもまた上から定められたレールを走るしかないのである。


4巻は、エンブリオとゲオルギウス会との戦闘で幕が上がる。
叶らは、逃亡先として貴治崎花の実家へと向かう。
捨環戦という言葉の意味が明らかになる。ここで、時間SFとしての面が大きく物語に絡んでくるとともに、間白田が画策し阿黍が承認した起死回生の「負けない策」が人類社会に対するテロ行為同然であったことも明らかになる。
絶望的な状況の中、希望は一筋の光というよりも、重い枷へと変わっていく。


表紙が3巻と対になってるんだけど、最後に意味が分かるとやばい
今回、派手な異能バトルは冒頭のゲオルギウス会vsエンブリオのところくらいで、エンブリオがチートすぎるので駆け引きもクソもないのだけど、勝てないまでも負けない、負けないまでも情報は引き出すと戦い続ける。
ミケーラの中の3人目がいよいよでてきた。叶との再戦はないのかなー。
貴治崎の実家すごい
朱鷺川と貴治崎とか
時々、作中の設定が不意に現実世界の話とリンクしたりする際のやり方がなかなかすごくて、面白い。黒鬼が実は第二次大戦の引き金だったみたいな話とか、今回もそれに似た大ネタがぽんと放り込まれる。でも、そういうのはあくまでも彩りだったりするのがすごい。
姥山さんがその存在感を残しているところが度々泣ける。眼帯。
マーシアンタクシーズの正体(?)があんなんだったとは。
ジ・アイは話通じない奴ばかりではないというあたりがまた。最後の方になってくると、むしろ門部が悪いのではっていう気にすらなるし。実際、門部のところの異性知性体は何故「裏切り」「ひきこも」ったのか?
蝉丸の変化がつらい
ヒルデは最後に自分で自分の道を選んだんだなー
女子高生3人に看病されているのに全然羨ましくない百刈さん。彼、結局主人公というわけでもなくなってしまったし。


っていうかほんと、次の巻から一体どうなってしまうの


*1:不老不死化しているので、戦中の生まれだが21世紀現在も少女の姿をしている