『別冊日経サイエンス アートする科学』

過去、日経サイエンスに掲載された記事の中で、「アート」に関わる記事を再録した別冊
別冊が、過去の日経サイエンス掲載記事の再録で構成されているのは知ってたけど、初出が70年代80年代の記事も入ってて、そんなところからも引っ張ってくるのかとちょっとびっくりした。
話題としては、結構多岐にわたっており、美術、音楽、建築、小説に加えて、自然美に関わる記事も収録されている。

脈動する磁性流体アート  児玉幸子
ポロックの抽象画にひそむフラクタル  R. P. テイラー
コンピューターが明かす名画の謎  L. シュワルツ
ルネサンス絵画 リアリズムの謎  D. G. ストーク
自然楽器とコンピューターの融合 「レポン」はこうして誕生した P. ブーレーズ/A. ゲルソー
トゥバの喉歌フーメイ   T. C. レビン/ M. E. エドガートン
歌声の科学   I. R. ティッツェ
生物の色彩マジック  P. ボール
微の美  K. ウォン
世界の砂  W. N. マック/E. A. レイスティコフ
太陽系 驚異の八景  E. ベル
建築家ライトの傑作「落水荘」を守る  R. スィルマン
水晶宮  F. T. キールステット
ジュール・ベルヌの意外な素顔  A. B. エバンス/R. ミラー
ジオットが描いたハレー彗星  R. J. M. オルソン
時を旅した生物画家  R. ミルナー

脈動する磁性流体アート  児玉幸子

磁性流体彫刻の作者による解説
あのトゲトゲは、液体の波が助長されたもの
磁性流体はもともとアポロ計画の時に開発され、後、防塵シールやスピーカなどに使われているが、芸術との接点はほとんどなかった

ポロックの抽象画にひそむフラクタル  R. P. テイラー

ポロックの作品をコンピュータで解析したら、フラクタルになっていたという研究
フラクタルの研究自体は1970年代から行われたものなので、ポロックはそれに先駆けている
フラクタル図形の複雑さを示すDの値は、1.3〜1.5の範囲にあると好まれる。雲の形などは1.3
ポロックは作成年代を追うごとに、このDが大きくなっていき、1952年には1.7にまでなっている。また、1950年には1.9の作品があるが、これは破棄されている。
また、ドリップペインティングなら必ずフラクタルになるというわけではない。筆者は、フラクタルになっているかどうか解析することで、ポロックの作品かどうかを判定した。
ところで、『ART TRACE PRESS 01』 - logical cypher scapeでも、ポロックフラクタルの話がでてきているのだけど、こちらでは、フラクタルで真贋鑑定する話はうまくいかなかったとも書かれていて、わりとさらっと流されている感じ。
ちなみに、この日経サイエンスの記事は2003年のもの

コンピューターが明かす名画の謎  L. シュワルツ

「最後の晩餐」を鑑賞する位置はどこだったのかとか、シェイクスピア肖像画エリザベス女王肖像画を元に創られたのではないか、とか。

ルネサンス絵画 リアリズムの謎  D. G. ストーク

ヤン・ファン・アイクの作品について、ホイックニーは、レンズで投影して描いたのではないかという説を唱えたが、その説に対する疑問点を述べたもの
当時の鏡を創る技術では難しいとか、消失点がないとか

歌声の科学   I. R. ティッツェ

ちょっとだけ読んだ
声帯の構造の話など
柔らかくなったり硬くなったりすることで、普通の楽器よりもコンパクトに音を調整できる的な

生物の色彩マジック  P. ボール

鳥や昆虫などの構造色の話
難しくて仕組み的なことはよく分からなかったが、ウロコムシの構造を応用して今より優れた光ファイバーを作ったり、イカのタンパク質を応用して電圧に応じて透明から不透明に変わるポリマーフィルムを開発したりできるという話
2012年の記事で、このムックに掲載されてる中で2番目に新しい記事

太陽系 驚異の八景  E. ベル

これはイラスト集

建築家ライトの傑作「落水荘」を守る  R. スィルマン

川の上に張り出している部分が、構造的に脆くてこのままだと危ないということで、補強を依頼された設計事務所の所長による記事
基本的には、どんな構造をしているか調査して、こんな構造しててここが危なくて、こういう補強をしたという話
どうも、ライトが色々と間違っていたらしい。例えば、コンクリートに鉄筋入れるとむしろ弱くなると考えていて、構造事務所の人間がライトに無断で鉄筋を増やしたときに激怒したらしい(が、結果的に鉄筋を増やしたことの方が正しかった)

水晶宮  F. T. キールステット

水晶宮が作られた経緯、どのような工法や構造が用いられたか、20世紀建築への影響など

ジュール・ベルヌの意外な素顔  A. B. エバンス/R. ミラー

元々、ベルヌは科学文明に対して批判的な考え方の持ち主だったが、編集者エッツェルが彼を厳しく指導し、科学冒険小説を書かせてヒットさせた、という話
当時のフランスは、科学や工学への関心が高まり、一方で学校がカトリック支配下にあって科学教育が遅れており、教育的小説への需要があった。
エッツェルの死後、悪の科学者が出てきたり、環境破壊をモチーフにしたりした科学批判的な小説を書くようになるが、売れなかったらしい。
アレクサンドル・デュマに励まされ作家の道へ。天文学者アラゴーの弟で冒険家であるアラゴーらが友人で、彼らとの交流で科学や技術の知識を得て、また元々科学や歴史のライターみたいなことをしてたみたい。
月世界旅行』というと、大砲で打ち上げるところ以外は、現代で見てもほとんど間違いがないもので、その大砲で打ち上げるところも、作中で「とても信じられない」と書いていて、実はベルヌはロケットで打ち上げるのが正しいと分かっていたものの、当時だとまだロケットを人々が知らなかったから、あえて大砲にしたのではないか、という推測が、面白かった。
オーベルトもツィオルコフスキーガガーリンもアームストロングもベルヌを読んでいた。
元は1997年の記事。真理が其理になっていたり、青年が背年になっていたりする誤植が

ジオットが描いたハレー彗星  R. J. M. オルソン

ジオット「東方の三博士の礼拝」に描かれているベツヘレムの星が、1301年に現れたハレー彗星をモデルにしているという話
これ以外にも、ハレー彗星が描かれていると思われる絵画などを紹介している。
1979年の記事で、このムックに載っている記事の中で最も古い記事だと思われる。

時を旅した生物画家  R. ミルナー

古生物の絵を多く手がけたチャールズ・ナイトについて。