宮内悠介『アメリカ最後の実験』

グレッグ音楽院の入学試験を受験するためアメリカ西海岸を訪れた脩が、音楽と実験国家アメリカを巡る事件に巻き込まれながら、失踪した父親の謎と自分にとって音楽とは何かを探求する物語


yom yom誌上で連載された作品で、狭義のSFではないが、読んでいて受ける感触は、宮内作品の中では『盤上の夜』に近いところもある。
『盤上の夜』は卓上ゲーム、本作はジャズをモチーフにしながら、遊戯や音楽を通して、人類としての彼岸へと向かおうとするというテーマがあるからだ。
しかし、そのテーマがかなり直接的にごろっと転がっていた『盤上の夜』に対して、本作は、様々なモチーフやプロットが折り重なっている。
エンタメ的な要素が強くて、次々と起こる事件、登場人物達の過去、ピアノ対決の面白さだけでなく、マフィアや警察からの逃避行なんてものもまで入ってくる。


主人公の脩は、父親の俊一を捜すためにグレッグ音楽院を受験している。
というのも、ピアニストだった俊一もまたグレッグ音楽院を受験し、その後、家族をおいて失踪してしまっているからだ。
グレッグ音楽院の敷地内には、生徒しか入ることができないため、グレッグ音楽院の中に探しにいくには入学するしかないのである。
そして、このグレッグ音楽院の入学試験というのが変わっており、学校が試験と興行を両立させるために、街を舞台にしたショーとなっている。
一次試験では、お祭りの日に、街中でピアノを演奏しどれだけ群衆を湧かしたか
二次試験では、2人で4小節ごとにピアノを演奏し、どちらか片方だけが合格する。お互いに相手の演奏を妨害する勝負となるが、曲として成り立っていなければならないという条件があるため、ある程度の協力も必要となる。
三次試験では、ラスベガスで試験官と観客達を前でピアノを演奏する。
脩は、一次試験で、ガザリーという少年とマッシモという青年と出会う。ガザリーは、マフィアのボスの息子で、父親から音楽院の試験に反対され隠れて受験している。マッシモは、もともとはクラシックをやっており、また音楽仲間とバンドを結成しベースを担当していたこともあるが、ジャズピアニストになるという目標を捨てきれず、音楽院を受験している。
脩は、2人から、父親の俊一がかつてこの街でピアニストとして名を成したこと、しかし、「パンドラ」というシンセサイザーを使い始め、また先住民の少女と暮らし始めた頃から様子がおかしくなり、行方不明となったことを教えられる。
二次試験のさなか、アーネストという音楽院の学生証をもった男が殺され、現場には「アメリカ第一の実験」という文字が残される。


とまあ、前半のあらすじを書き出すだけでも、結構大変。
俊一、アーネスト、そしてガザリーのボディーガードであるアルノは、かつて一緒に音楽院を目指す仲間だったのだが、音楽のない町の存在を知って、彼らの運命は変わっていく。そこには、アーネストの父親であり、失音楽症となっているシュリンク財団のヨハン・シュリンクも関係してくる。
「パンドラ」とは、純正律へと音を変換するシンセサイザーのことだった。


4月に読み終わってたので、メモが途中までしか書けなかった。


アメリカ最後の実験

アメリカ最後の実験