宮内悠介「半地下」(『文學界』2016年2月号)

すごく久しぶりに文芸誌を読んだ。
っていうか、自分のブログをざっとチェックしたら、本当に久しぶりで、2011年ぶりっぽいんですけど、まじっすか
文芸誌自体は、まあ時々目次見たり、さらっと眺めたりはしているのだけれど、誌面で小説作品を読むのは本当に久しぶりだったみたい。
なんか、冒頭だけちらっと読んで、とかはしてたりするんだけど*1


宮内悠介の名前をSF以外のところで目にしたので、思わず手に取った
初の非SFかーと思ったんだけど、最近、『アメリカ最後の実験』ってのが出てた。連載してたのをまとめた単行本のようだけど、ノーチェックだった……


主人公の裕也*2は、子どもの頃、ニューヨークで暮らしていた。
その子ども時代の話
5歳の時、父親が失踪し、姉弟だけとなってしまい、姉がプロレスラーとなって生計を支え始める(正確には、プロレスの興行師が姉のことを気に入って二人を養育する。ただし、それは姉が成長したとき、プロレスラーとしてデビューさせて、彼女の生涯ごとショーとするためでもある)。
裕也の、アメリカでの主に小学校時代の話
レーガン政権の頃の話で、ドラッグにノーをというキャンペーンが行われていたのだけど、そこで「ノー」と言ってしまったがために刺されて死んでしまったクラスメイトの少年のことや、親しくなった(が虐待を受けていたことに何も気付けていなかった)少女のことなど
あらすじとしてまとめるのは難しいのだけど
ドラッグも普通にやっていて、暴力もあり、なかなか重苦しい雰囲気の話なんだけど、「暴力!」というのを押し出してくる話ではなくて、子どもたちの大人びた(?)感覚をすくいあげるような話で
低学年の時にやけに写実的な絵を描いていたとか、日本語と英語の話もちょいちょい出てくるし、あと、死ぬ時に一人でいたいか誰かに看ていてもらいたいかという話もある
サマースクールに行って、他の学校の子とも交流があって、そこでは日本人の少年もいて、聖闘士星矢の話で親しくなったりする。また、その時に出会った、ペンシルバニアの田舎のいいところに通っている子が、時々家出してくるとか、そういう話もあった。
姉が死んで、日本に戻ることになる。姉が死んだ際の試合の映像はいまだにネットに残っている。
英語はもう使えなくなった。だけど、まだ夢の中で英語が出てくる。


とりあえず、思い出せる断片をちょいちょい書き出してみたのだけど、なんだかうまく説明することができない。しかし、印象に残る作品だった。
SFではなく、文学になっていた。


SFじゃない、というだけでなく、文章の雰囲気が違っている感じがあった。彼の作品、わりとルポライターが語り手になって、状況とかがわりと正確に書かれていることが多いと思うのだが、今回は、ちょっと錯綜した語りになっていたように思う(時系列が入れ替わっていたり)。
語り手である主人公が回想するような形ですすむのだけど、彼自身、結構ドラッグもやっていたりするので。
基本的に、セリフとかも全部日本語で書かれてはいるけど、時々、ふっと英語のセリフがまぎれこんだりもする。

文學界2016年2月号

文學界2016年2月号