土屋健『デボン紀の生物』

生物ミステリーPROシリーズ第3弾
土屋健『エディアカラ紀・カンブリア紀の生物』 - logical cypher scape
土屋健『オルドビス紀・シルル紀の生物』 - logical cypher scape
今までは、2つの紀で1冊だったが、デボン紀は1つで1冊
何しろデボン紀は、魚類の繁栄と両生類の上陸という二大イベントがある時代だからである。
そして、表紙を飾るは、甲冑魚「ダンクレオステウス」
上野の科学博物館に所蔵されている標本で、今夏開催される「生命大躍進」展のカプセルフィギュアにもなっている。
それから、度々ピーター・D・ウォード『恐竜はなぜ鳥に進化したのか』 - logical cypher scapeにも言及されている*1


デボン紀、面白い!

1 デボン紀の窓「フンスリュック」
2 陸の“最初の窓"が開く
3 大魚類時代の確立
4 大魚類時代の舞台
5 デボン紀後期の大量絶滅
6 脊椎動物の上陸作戦
エピローグ

1 デボン紀の窓「フンスリュック」

デボン紀:4億1900万年前から始まる、約6000万年間
2つの革命的な出来事
魚類(脊椎動物)が生態系のトップへ
両生類の地上進出

  • ドイツ、ラインスレート山地 フンスリュック

軟組織が黄鉄鉱に置換されて残っている
アノマロカリス類、マレロモルフ類など、カンブリア紀の生き残りも
棘皮動物
直径50cmを越える史上最大級のヒトデ、ヘリアンサスター
保存状態のよいウミユリ
五回対称の構造をもつ海果類、レノキスティス
甲冑魚も色々。ドレバナスピスやゲムエンディナ
カブトガニ類のウェインベルギナ
ウミグモ類のパレオイソプス
このパレオイソプスの化石は、なんか木の根っこみたいであんまり動物っぽく見えないけど、復元イラストは、ちゃんと動物だけど。8本の脚がある点は確かにクモだけどなかなか独特の姿してる。腹部が退化しており、本文では「もやは紐にしか見えない」と。40cmくらいの大きさらしい。

2 陸の“最初の窓"が開く

スコットランド、ライニーの「ライニーチャート」
維管束や乾燥を防ぐクチクラ層をもつなど、本格的な陸上植物
リニア:代表的な種
アステロキシロン:40cmとライニーチャートの植物の中では大きい。茎に鱗状の突起があり、葉と見られる
バーナーの曲線:デボン紀初期は、現代よりも酸素が濃くなるほど酸素濃度が増大していた=植物の繁栄と符号、しかし、デボン紀後期に半分まで低下し、二酸化炭素濃度が上昇してる
最古のダニと最古のトビムシ
トビムシは跳躍器という器官をもつ。六脚類という広義の昆虫類(内顎類)となる。
また、2004年に、リニオグサが外顎類という狭義の昆虫類に属することが分かる。
この時代に既に、内顎類と外顎類がいたということは、その共通祖先がさらに古い時代にいたということになる。
ワレイタムシ類:見かけはクモによく似ているけれど、糸をだす器官がないなどの違いがある。ライニーチャートから発見されたワレイタムシ類は、書肺があり陸上種だったことがわかる

3 大魚類時代の確立

  • 魚類史

カンブリア紀:最古の魚類、2〜3cm程度、無顎類
オルドビス紀中期:鱗をもつようになる。20cm程度。無顎類のなかに翼甲類、翼甲類のなかに異甲類
シルル紀:異甲類のほかに歯鱗類、翼甲類のほかに頭甲類、欠甲類があらわれる。さらに、有顎類が誕生。現在主流となった条鰭類も現れるも、この当時はまだ少数派


デボン紀前期は無顎類、特に頭甲類が全盛期
ケファラスピスは、その仲間が214種、60属と繁栄。脳構造がわかる化石が産出。CTスキャンがなかった時代に、標本を薄く研磨するという方法で研究
異甲類では、ノコギリのような吻と「骨の翼」をもつドリアピスのような種が登場
しかし、無顎類はデボン紀中期から次第に数をけし、デボン紀末にはほぼ絶滅。現在は、ヌタウナギ類とヤツメウナギ類が残るのみ

板皮類:無顎類と入れ替わりに台頭
ボスリオレピスが繁栄
ところで、この中で、ボスリオレビス・カナデンシスという種が出てくる。カナデンシスというと、アノマロカリスカナデンシスというのもいた。ググってみると、現在でもカナデンシスという種小名のついた花がいくつか出てくる。カナダ産の生き物につけられやすい名前なんだろうか
ボスリオレピスは、板皮類のなかの胴甲類の代表種。胴甲類は、骨の装甲に覆われ、関節をもった1対の付属肢があるのが特徴
また、ボスリオレピスは、トサカのある種とない種にわかれる。カナデンシスはトサカのない種の代表
肺をもっていた可能性も議論されている。肺らしき軟組織の化石が発見されている。
2014年には、カナダのベッシャーらによって、CTスキャンによって得られたデータに基づく3Dモデルが作られた。形状や大きさ、付属肢の可動域などが細かくわかるようになった。この研究によれば、付属肢は上下方向を調整する舵だったのではないか、とされる、
筆者は、CTスキャンと3Dモデルによる復元は、今後の古生物学を変える可能性があるのではないかと指摘している。
板皮類の「マテルピスキス」からは、へその緒が発見された。
魚類は基本的に卵生だが、例外的に胎生の種(一部のサメ)もいる。マテルピスキスの発見により、胎生の最古の記録が2億年遡ったと指摘されている
表紙になっているダンクレオステウスもまた板皮類である
かつてディニクチスという名前で呼ばれていた
力を入れずとも大きく口が開く
噛む力が4400N以上、口の奥では5300N以上で全動物の中でも最強クラス
(人間:1000N未満、狼:1500N、アリゲーター:4000N、ホホジロザメ:3100N)
共食いもしていたらしい
2013年、オーストラリアで「腹筋」の化石。腹筋は陸上動物しか持っていないが、上陸前に腹筋が進化していた可能性が
2014年、中国で報告されたエンテログナトゥス。朱敏らは、このエンテログナトゥスの特徴から、板皮類が陸上脊椎動物の直系の祖先に位置するとした。もっとも、エンテログナトゥス自体が特殊な種で、まだよく分かっていない。


板皮類は、デボン紀末から石炭紀にかけて姿を消す
板皮類に勝ったグループが軟骨魚類=サメのグループ
最古のサメは、デボン紀のドリオダス
初期のサメの代表:クラドセラケ、2m程度、現生のサメと似て、機動力に優れていたとみられ、これが板皮類に勝った理由


最初の有顎類である棘魚類のほか、板皮類、軟骨魚類、条鰭類、肉鰭類がどのような系統関係にあるのか、まだよくわかっていない

現在、シーラカンスと呼ばれているのは、シーラカンス類のなかのラティメリアという種
シーラカンス類は、肉鰭類のなかのグループ
最古の化石は、2012年に中国で報告された、デボン紀前期のユーポロステウス
しかし、シーラカンス類自体はさらに古く遡ると考えられる(これより後の時代に、より原始的な種が発見されており、共通祖先がいると考えられるから)


現生の魚のなかで、水中生活をするにもかかわらず肺をもつ肺魚類がいるが、これの化石もデボン紀からは発見されている
現生の魚の主流である条鰭類(2万7000種で、現生の脊椎動物の半数を占める)も、デボン紀にいるが、まだ種の数は少ない


魚類は、歯の多様性がある
哺乳類も「歯の形」は多様で、種の特定に使われる
しかし、魚類は、歯の構造がそもそも多様。象牙質について3つの構造がある
体の表面にある甲皮という突起が歯になったとも言われている
また、板皮類は歯をもたつ、顎の骨が歯のようになっていた。歯のような骨は、骨の中に歯板という構造が埋まっていた。

4 大魚類時代の舞台

腕足動物:1枚の殻は左右対称で、対となる殻が対称でない/二枚貝は1枚の殻が左右非対称で対となる殻が対称
2009年、椎野の研究:腕足動物・パラスピリファーの構造をシミュレーション、殻に隙間があいていて、そこから水が流れ込むようになっている→口をあけてるだけで食事ができる
ウミサソリ類はまだ健在だが、デボン紀にサソリ類は陸上進出を始め、そのまま現在まで生き残るのに対して、ウミサソリ類はいずれ絶滅する
ウミユリ類の中から珍しい種類としてアンモニクリヌス
普通のウミユリと違い、海底に横たわり、丸まっている。捕食者である腹足類(巻貝)からの防衛策とみられる

デボン紀にかけて、急速に殻が丸まっていく。少し弓なりになった種、先端が巻き込んでいる種、螺旋状の巻きになった種、さらに殻が密接している種と、進化していくさまを見ることができる
2004年の3Dモデルを使った研究によると、巻きが締まるほど遊泳性が増すらしい

どちらも頭足類
どちらも殻の内部に気室があるが、アンモナイトは渦巻きの中心に「初期室」があり、オウムガイにはない

この本でも、再び多様な三葉虫の化石写真が見れるが、デボン紀三葉虫は姿形が本当に多彩ですごい
複眼のレンズが大きくなったファコプス類、その中には、筒状に上に積み重なった眼をもつ種も
フォークのような角をカブト虫のように伸ばしているワリセロプス類。長さの違う種がいるが、種の違いではなく性別の違いかもしれない
ディクラヌルスやケラトヌルスの細長い角が何本も伸びたり、丸まったりしてるものもすごい。標本によっては、抽象彫刻のようにも見える
捕食者に対して威嚇の目的で武装化がすすんだという説もある。
デボン紀末までに大部分が絶滅する

5 デボン紀後期の大量絶滅

デボン紀後期にビッグ・ファイブのうちの一つが起こる
F/F境界絶滅事変、とも
海中のみに影響を与えている。低緯度地域での絶滅が著しいことから、寒冷化が起こったと考えられている。
隕石衝突説が、白亜紀末の絶滅についての隕石衝突説よりも早い時期(1970年代)から議論されているが、決定的な証拠はみつかっておらず、謎のまま
期間についても、50万年から1500万年までと研究者によって開きがある。


この章では『絶滅古生物学』という本が参考文献として言及されているが、度々言及されている印象がある

6 脊椎動物の上陸作戦

いよいよ陸上進出だが、これについて最初にピーター・D・ウォード『恐竜はなぜ鳥に進化したのか』 - logical cypher scapeが紹介されている。曰く、動物の陸上進出が2回あったことについて、酸素濃度との関係を述べている点である。
ここについて、ちょっと『恐竜はなぜ鳥に進化したのか』を見てみる。
書肺は昆虫の呼吸システムより効率がよかったかもしれないとか、最初の陸上動物はサソリ類だったかもしれないとか書いてある。シルル紀の終わりから酸素濃度が上昇していた、と。
ライニーチャートはデボン紀の最も酸素の多い時期のもの
しかし、その後低酸素の時代がやってきて、化石記録も乏しくなる。
陸上進出は、4億3000万年前の第1波と3億7000万年前の第2波に分かれる、と。


最古の四足動物の化石は、F/F境界絶滅のあとから見つかっているが、最古の足跡はデボン紀中期の地層から見つかっている。体化石はないのに足跡化石がみつかっている、時間的なズレ、また場所的なズレもあるが、この頃、多くの場所で陸上進出のトライ&エラーが行われていたのかもしれない

  • 肉鰭類サウリプテルス

上腕骨、橈骨、尺骨が見られる。つまり腕があった。しかし、のちの四足動物と系統的つながりはないとされる

  • 魚雷型肉鰭類「ユーステノプテロン」とローマーの仮説

やはり、橈骨、尺骨が見られる魚類
ルフレッド・ローマーは、四肢の発達は「水中に戻るため」に進化したという仮説をたてたが、現在では否定されている

パンデリクチス:ひれをCTスキャンで調べて、原始の指が確認された

  • ティクターリク

『ヒトのなかの魚、魚のなかのヒト』の著者であり、ティターリクの発見者であるシュービンは、息子の保育園でこの復元をみせると、園児が「ワニか魚か」で論争をはじめた。そういう姿をしている
首がある
腕立て伏せができる骨の構造
さらに、2014年には骨盤と後ろ足の橈骨も発見されている

  • アカントステガ

史上初の両生類
1952年にグリーンランドで発見されたが不完全で、1987年に再調査された
明らかに四肢をもち、前足には指が8本ある
鰓やひれがあり、水中種であったとされる
四肢は水中で獲得された→ローマーの仮説の否定
→二次的に水中に戻ったのではないか→橈骨と尺骨が陸上種には類似していないが、ユーステノプテロンと類似している(最初から水中種)

  • イクチオステガ

アカントステガとほぼ同時代、ほぼ同じ場所
後ろ足に7本の指
肋骨が密接に重なっており、水中生活者のように体をくねらせることができない。また頑丈な肋骨によって陸上生活で内臓を守る役割があったかもしれない。
陸上生活が可能だったが、四六時中陸上にいたかは定かではない


アカントステガとイクチオステガは似ていない。どちらが進化の主流だったのか
ヴェンタステガ
アカトンステガとティクターリクの中間に位置し、アカトンステガと共通する特徴はもつが、イクチオステガとはもたない

エピローグ

脊椎動物の上陸は「革命」であるが、ユーステノプテロンからアカトンステガ・イクチオステガの登場まで1000万年もなく、非常に短い間で起きた
6章で登場した脊椎動物はみなローレンシア大陸
2013年、ゴンドワナ大陸でも陸上動物としてサソリ類の化石が発見された。非常に高緯度に住んでいた

Appendix

デボン紀前後の植物
デボン紀前期のライニー植物群は、1mに満たないが、中期以降には、前裸子植物という木質植物があらわれ、10m以上となった。さらに30m級のシダ植物も。


デボン紀の生物 (生物ミステリー (生物ミステリープロ))

デボン紀の生物 (生物ミステリー (生物ミステリープロ))

*1:というか、元々土屋さんがブログでこのシリーズの参考文献として紹介していたのが、直接的な読むきっかけとなった。恐竜本? いえいえ、これは「大気の本」です。 | 化石の日々