浅田稔『ロボットという思想』

認知発達ロボティクスについての本。
CB2という、赤ちゃんを模したヒューマノイドは、一時期よく写真を目にしたが、それを開発したプロジェクトに関わるものが主。
この本、出た当初から気になってはいたのけど、結局読まないままでいて、谷口忠大『記号創発ロボティクス』 - logical cypher scapeを読んだのをきっかけに、そういえばと思い出して、読んだ。
2010年の本なので、もう5年も経っていたか……。
CB2は、写真とかはよく目にしていたから、何となく知っている気でいたけど、実際読んでみて、こんなことやってたのかー知らなかったー、というのが多かった。


浅田稔および認知発達ロボティクスというと、瀬名秀明と共著があって、けいはんなで社会的知能発生学研究会というのをかつてやっていた。阪大の浅田、石黒、東大の國吉、はこだて未来大の中島、茂木健一郎、瀬名などなどのメンバーの研究会。今、改めてこの研究会についてググってみたら、メンバーは入れ替わってるみたいだけど、『記号創発ロボティクス』の谷口、JAISTの橋本敬(複雑系の人)、I.Gの脚本家櫻井といったメンバーがいるようだった。
この研究会とどれくらいの関係があるのかどうかはよく分からないけれど、JSTのERATO浅田プロジェクトというのがあって、これに、浅田、石黒、國吉が参加している。2005年から2011年の時限プロジェクトで、この本は主にこのプロジェクトで行われた研究が紹介されている。


ちなみに、浅田はロボカップ創始者でもある。

第一章 ロボットとは何だろう
第二章 脳と学習の基本を知る
第三章 身体を内側から探る
第四章 身体が脳をつくる
第五章 成長するロボットをつくる
第六章 ココロが生まれる条件を探る
第七章 知能を生みだす困難とは
第八章 人間とロボットがともに生きる
終章 人間学としてのロボティクス


本書の中で紹介されていた研究例を、順を追って。

  • 起き上がりロボット

人間が起き上がる時のツボを、ロボットにも覚えさせたもの
起き上がり方、状況にはばらつきがあるけれど、必ず通過するポイントがある。
あと、人間に、起き上がり動作のビデオを見せると、それが成功するか失敗するか判断するポイントがある、と。

  • 触覚センサー

お母さんと赤ちゃんに、触覚センサースーツをつけて、赤ちゃんを抱っこしてもらう。抱っこ経験の少ない女性にも抱っこしてもらう。どのあたりを使って抱っこしているかというのを、主成分分析すると、お母さんかそうでないか、どの赤ちゃんかを示す成分が出てくる、とか。
CB2も、触覚センサーをつけている

  • 関節

普通、ロボットの関節はモーターとギアだけれど、人間は筋肉
なので、空気圧の人工筋肉を使ったロボットを作った

  • 柔らかいロボットハンド
  • CB2の起き上がり
  • 胎児シミュレーション

これは、実際にロボットを作ったわけではなく、シミュレーション
環境からの情報によって運動感覚がどのように生じるか
身体を動かすと、その時の情報がフィードバックして、段々、脳のこのあたりが腕だとか、脚だとかが分かってくる、と
で、このシミュレートされた胎児を、胎内から出してみると、ハイハイとかした、とか

  • 新生児模倣について

赤ちゃんは、大人の顔の動きの真似をする
そもそも真似をするためは、自分の顔の部位について把握していなければならない。自分の顔は、自分の視覚では捉えられない。顔の触覚センサーを手で触れていくうちに、顔のセンサーの配置を自己組織化するロボット。
また、認知心理学側から、新生児の顔の視覚図式獲得のモデルのシミュレーション
顔、とくに口唇部の運動について、生得的な部分があるという知見もある。認知発達ロボティクスでは、生得的な面と学習との協調として捉える。

  • 音声模倣ロボット

これは、声道を模したチューブでできているので、見た目はロボットっぽくないが
このロボットは、ランダムに母音を発生する。それを養育者役の人間が聞いて、「あ」に聞こえたら「あ」といって返す。ロボットは、それを聞いて学習していく。そうすると、ランダムだった発声が、段々「あいうえお」になっていく
すでに母音を習得しているものは、ランダムな音も「あいうえお」っぽく発声する、マグネットバイアス

  • 共同注意ロボット
  • CB2による共同注意と語彙獲得の実験
  • 共感ロボット

表情を模倣する。何か刺激を与えると、内部状態が「快」か「不快」になって、その内部状態に応じて何らかの表情をあらわす。養育者役の人間が同じような表情をする。それを、自らの内部状態と関連づけて記憶していく。
その後、表情を見てどういう感情が判断できるようになり、内部状態も細分化した。

  • 赤ちゃんの認知発達

自分の身体を動かして、何か物が動いたりする。赤ちゃんは最初の頃、自分の身体に興味を示す。4〜5ヶ月になると、今度は物体の方に注意を向けるようになる。
運動指令から手がどのように動くかという順モデルと、手を動かすのにどのような運動指令を出せばいいかという逆モデル、これが同時に学習される。こうした学習の結果、物体の永続性や身体運動のイメージ化が獲得される。

  • 道具と身体の関係

サルに道具を持たせて、道具を自分の身体として感覚している
同じような実験を、CB2にも行っている

  • 環境情報構造化プラットフォーム

ユニバーサル・シティウォーク大阪で行った実験
施設の内外にセンサーをつけて、その情報を使ってコミュニケーションロボットを動かす

  • ロボシティ・コア構想

梅田北地区再開発でつくられるナレッジ・キャピタルの中に、ロボット開発拠点をつくる構想
人間とロボットが共生するまちづくり

  • 日米ロボットの違い

ほんの1ページ程度だが、アメリカのロボットについて
アイロボットのロドニー・ブルックスと、ボストンダイナミクスのマーク・レイバートの名前が言及されている。
ボストンダイナミクスの人のこと、前ちょっと調べようとしたのだけど、ググってもよく分からなかった。MITにいた人というくらいしか。「1970年というかなり初期の段階に、最初にポンピングロボットをつくったロボット学者」らしい。

その後、ググったこと

この本が書かれたのは2010年なので、ロボシティ・コア構想ってどうなったのだろうか、と思ってググってみたのだが、現状どうなっているのかはよく分からなかった。
「ナレッジ・キャピタル」自体はは2013年に竣工したらしい。
浅田研のページ見ても、特に記述なし。
研究テーマ – Asada Laboratory
それはそれとして、「子どもアンドロイドの開発」(CB2と比べて顔が子どもっぽくなってる!怖くない!w)とか「ロボットに感じる心の計測」とかは面白そう
ERATO浅田プロジェクトの後継なのかどうかは分からないけど、阪大の機構の中に「認知脳システム学研究部門」というのがあるらしい。
http://www.cnr.osaka-u.ac.jp/
國吉さんの名前は入っていないが(というか阪大の組織なので当然か)、浅田さんと石黒さんはいる。それ以外に、認知科学脳科学系の人たちが入ってるみたい・
と、メンバー一覧を見ていったら、笠木雅史さんと小山虎さんの名前が!
それで思い出したのだけど、そういえばこのお二方は石黒研の所属だった。
ロボット工学と哲学の共同研究というと、金沢大の柴田正良さんがいるが、石黒研には哲学者が3名ほど入っている。


さて、これとは別件で、research mapを見ていたら、小山さんの名前を見かけたのでページを見にいってみたら、2013年の発表で、こんなのを見つけて、面白かった。
心を持つロボットと安心されるロボット(原稿)
心を持つロボットと安心されるロボット(発表スライド)
とりあえず、解釈主義的な立場にたってみる(心的状態の内容が第三者の解釈によって規定される)
その上で、ロボットに帰属されやすい心的状態とそうでない心的状態がある、という指摘がなされているらしい(社会心理学的手法を導入した哲学の研究、らしい!)
で、心を持っているロボットと、「安心」という概念が関係しているのではないか。そして、「安心」という概念について考えるためには、「トラスト」という概念を検討するのがよいのではないか、と。
トラストには、認知的トラストと感情的トラストがあって、「安心」は感情的トラスト
トラストについては倫理学で多く議論されていて、義務の帰属が必要と考えられている。安心できるロボットとは、ロボットに義務を帰属させてる状態なのか。


ロボットという思想 脳と知能の謎に挑む (NHKブックス)

ロボットという思想 脳と知能の謎に挑む (NHKブックス)