大津由紀雄・波多野誼余夫編著『認知科学への招待』

optical_frogさんが、語用論についての解説としておすすめしていたので
flip out circuits: 文献メモ:西山 (2004)「語用論と認知科学」
これだけ読むつもりだったけど、他にも面白そうなのがあったのでいくつかの章を読んだ。
あとは斜め読み。
章ごとに書いている人が違う、アンソロジー的なガイドブック
各章は基本的に、前半がその分野全体の話、後半が筆者の研究の具体例の話となっている

第1章 認知発達 旦直子
第2章 学習科学 三宅なほみ
第3章 記憶 梅田聡
第4章 創発的認知から見た問題解決 鈴木宏
第5章 創造性 堀浩一
第6章 言語 大津由紀雄・今西典子
第7章 語用論と認知科学 西山佑司
第8章 他者理解 板倉昭二
第9章 比較認知科学 藤田和生
第10章 動物のコミュニケーション行動とことばの起源 岡ノ谷一夫
第11章 心の進化 長谷川寿一
第12章 文化と認知:心の理論をめぐって 波多野誼余夫*1高橋恵子
第13章 計算理論・脳機能計測・実験心理学の融合 今水寛
第14章 脳機能画像 田中茂樹
第15章 神経心理学 山鳥
第16章 神経生理学 入來篤史
第17章 心の哲学 信原幸弘
対談 認知科学をめぐって 大津由紀雄・波多野誼余夫


ちゃんと読んだ章と、斜め読みの章、あるいはほとんど読まなかった章など、章ごとに読んだ度合いが違うので、以下、掲載順ではなく、ちゃんと読んだ順に並べる。

第7章 語用論と認知科学 西山佑司

そもそもこれが目当てだったので。

  • 1-1.語用論とは

語用論について
発話の言語的意味としては両立可能な解釈が複数あるが、聞き手が話し手の意図している意味を理解できるのは何故か、を問うのが語用論

  • 1-2.コードモデル

伝えたい意味があって、それを記号にエンコードし、受けてがそれをデコードする、という「コードモデル」に対して
実際のコミュニケーションでは、話し手の意図が言語的な意味とは離れていることも多く、それへのアプローチが「推論モデル」
推論モデルを提唱したのはグライス

  • 1-3.グライスの語用論

協調の原理と、話し手が遵守すべき4つの格率
グライスの問題点
語用論が意味論の補助装置でしかなく、心的モデルであるという視点の欠如
推意だけでなく表意にも働くことを看過

  • 1-4.関連性理論

スペルベルとウィルソンが、グライスを批判的に発展させた「関連性理論」を提唱
関連性の伝達原理は、グライスの格率と違って、遵守したり違反したりするものではなく、事実の陳述

  • 1-5.語用論とモジュラリティ

スペルベルとウィルソンは当初、語用論能力はモジュールではないとしていたが、モジュール観が変わり、モジュールであると考えられるようになった
モジュール観の変化=情報の遮蔽性よりも特定の目的を有した自立性を重視

  • 2-1.コミュニケーションと情報伝達

ただの情報伝達はコミュニケーションと呼ばない
意図明示的情報伝達をコミュニケーションとする

  • 2-2.コミュニケーション能力と言語能力

非言語的コミュニケーションもある
言語能力とコミュニケーション能力はもちろんお互いに関係しあっているが、別の能力
言語獲得前の幼児でも母親とコミュニケーションできる

  • 2-3.コミュニケーション能力と心を読む能力

いわゆる「心の理論」としての心を読む能力と、コミュニケーションで使われる発話解釈能力の関係
人間の行為は、パターンが限られる一方で、発話は、パターンが無限
コミュニケーションには、「情報を伝えようとする意図(情報意図)」だけでなく、「情報を伝えようという意図を聞き手に伝えようとする意図(伝達意図)」という高次のメタ表象が必要
心の理論を身に付けてない2歳児もコミュニケーションができる
以上より、別の能力

  • 2-4.関連性の伝達原理

認知環境(ある人の頭の中で表示できる想定範囲)を改善すること=認知効果
入力情報が認知効果を持つこと=関連性
関連性の認知原理:人間の認知は、関連性を最大にするようにデザインされている
関連性の伝達原理:発話など意図明示的伝達行為は、それ自体の最適な関連性の見込みを伝達する

太郎:今夜、コンサート一緒にいきませんか
花子:来週、論理学の試験なの
花子のセリフを文字通りにとるなら、それは太郎にとって、なんら認知環境を改善しない、太郎への応答になっていないように見える
しかし、意図明示的伝達行為なので、関連性は保証されており、それに従って解釈するなら、試験のために準備をしなければならないからコンサートには行けないということを導くことができて、ちゃんと認知効果がある、太郎への応答になっている。

第10章 動物のコミュニケーション行動とことばの起源 岡ノ谷一夫

言語がどのように生じたかについての3つの立場
1)漸進説(ピンカー):様々な機能が自然淘汰で少しずつ言語となっていった
2)断続説(チョムスキー):自然淘汰によってできた様々な機能とは別に、自然淘汰にはよらない機能(再帰的認知操作)が組み合わさって言語に
3)統合説(岡ノ谷):様々な機能が影響し合うことで、新たな性質として言語が現れた


言語の機能として、「シンボル性」と「文法性」をあげ、言語の特徴として、「恣意性」「生産性」「超越性」をあげる
小鳥の地鳴き、マーモセットの喃語、ジュウシマツの歌、オウムの発話、ニホンザルのコールなど、動物の「言葉」っぽいものについて、これらの機能や特徴を持っているかをチェックしている
シンボル性と文法性、両方持っているものはない
シンボル性を持っていると、恣意性を持っていることもある
文法性があると、生産性がなくはないけれど、シンボル性がないと新しい意味を作れないの真の生産性ではない
で、超越性を持っているものはなさそう


超越性というのは、いま・ここにはないもの、実在しないものについても伝えることができるという特徴
鳥の地鳴きでは、欺しがあるので、少し超越性の萌芽っぽいものはある。


第11章 心の進化 長谷川寿一

協力行動の進化についての研究史

トリヴァース:互恵的利他行動
そのモデルとして利用されるのが反復型囚人のジレンマゲーム
アクセルロッドが、しっぺ返し戦略が高い利得を得られることをシミュレーションで見つける
この二つの研究に影響を受けたコスミデス
→互恵的利他行動が進化するためには、裏切り者検知のメカニズムが実装されているという仮説をたてる
→「4枚カード問題」を応用して検証
→主題文脈効果があることは知られていたが、特に裏切り者検知についてそれが働くことを示した
(ギゲレンツァの「週末に働いた者は平日に休みを取る」という4枚カード問題、雇用者の立場で答えさせると、裏切り者検知の推論バイアスがかかる)
協力者と協力しようという行動バイアスもあるはず
→山岸俊夫「社会的交換ヒューリスティック」:囚人のジレンマゲームを、実際にお金を動かす「現実条件」でやると、「協力」を選択する割合が高くなる
脳はエネルギーコストが高い
(というのは知っていたけれど、具体的には、細胞膜内外の電位差を維持する必要があるためっていうところまでは知らなかった)
ダンバー:霊長類について、脳サイズ(新皮質の割合)と集団サイズに相関関係があることを示す研究
バーンとホワイトゥンの「マキャベリ的知性仮説」:大きな脳を持つのは、政治的行動(意図的なごまかしなど)をするから


第12章 文化と認知:心の理論をめぐって 波多野誼余夫・高橋恵子

文化心理学:進化の産物である心が、文化によって異なる仕方で具現化するという見方
心の理論に文化差はあるか、ということで色々実験がされていて、色々な差異は見つかっている。
心の理論の研究が進んだのは、誤信念課題という標準課題が提案されたから
しかし、これでは文化心理学のための理解はなかなか得られない。よりよい課題の提案が必要


第15章 神経心理学 山鳥

神経心理学にも色々なアプローチがあるが、ここでは筆者の拠って立つ臨床神経心理学における症例研究のアプローチで、失読失書症について書かれている。
一言で失読失書といっても患者によって色々なパターンがある。
で、色々な例を見ていくと、読めないんだけど意味は分かっているとか、書けるんだけど読めないとかがある。あと、漢字は読めるんだけど、仮名は読めないとか。
そこから筆者は、音読と意味読という二つの認知がそれぞれあって、それらがまず大雑把に文字を捉えて、お互いに影響し合いながらより精緻に読んでいくのではないか、というモデルをたてて、失読失書症について説明している。

第17章 心の哲学 信原幸弘

心の哲学における自然化の流れ
行為を説明する理由説と因果説をあげ、筆者は因果説をとらなくても説明できると論じる

対談 認知科学をめぐって 大津由紀雄・波多野誼余夫

大学の研究環境や教育環境についての話が多い感じ
日米の違いとか
学際研究でどうやったらできるのか的な話かなあ
色々だべれる場があった方がいいとか。デパートメントよりも緩いプログラムとかいったのがアメリカにはあると、とか
MITは単位とか自由だったけれど、自分の所属だけははっきりさせろ、と言われたとか。本拠地がしっかり定まっている人が集まらないといい共同研究はできないとか。
自分が認知科学者なのか心理学者(言語学者)なのかは研究している時は気にしていない。ドン・ノーマン曰く「お前が認知科学だと思えばそれが認知科学だ」
認知科学とそうでない心理学とか言語学の違いとして、「記述」「分類」にとどまらず「説明」までしようとする、そのために大きな理論・モデルを持ってくるのが、認知科学なのではないか
研究の位置付けを定めるために「So What?」と聞いていく。

第3章 記憶 梅田聡

  • 虚記憶の研究

なかったのにあったと誤って思い出してしまう
意味的に近いと虚再認しやすい
アスペルガー症候群などは、文脈の抽出が苦手なので、虚再認しにくい

  • 展望的記憶の研究

「このあと、何々しよう」というような記憶
何かしなければならないことがあるということについての再認と、その内容についての再認が独立している

第5章 創造性 堀浩一

接客
客が服の丈が短いので悩んでいるときに、長い丈の服を提案しても買って貰えない、他にあわせる服とのバランスを提案すると買って貰える
別の属性に移動させる=創造的
そのためには戦略的知識(知識を使うための知識)が必要
そのための支援ツールを作れないか
日本酒検索ツール
普通のリスト式の表現と、二次元平面での表現では、後者の方が、別の属性に移動するような現象が見られた
リストがダメということではなく、表現を変えるだけで、戦略的知識を使うような効果が得られるということ


第14章 脳機能画像 田中茂樹

冒頭から、MRIの仕組みは難しくて、医学生時代も臨床で使ってた時も、装置の仕組みは分からなかったとか書いてあったw
実験デザインするためには、装置の仕組みを知る必要がある、と。
実際にやった実験の紹介
模倣動作をしているとき、脳のどこかが働いているか
指の動作の模倣と、腕の動作の模倣で比べる
指の動作の模倣の時ではブローカ領域が活動上昇し、腕の動作の模倣の時はしていない
ブローカ領域は、ミラーニューロンが見つかった領域でもある
指の動作は、目で見て動かす
腕の動作は、目で見ないで感じて動かす
視覚の関与とミラーニューロンが関係しているのではないか

第8章 他者理解 板倉昭二

乳幼児が心の理論を獲得していく過程
誤信念帰属を、ヒトだけでなくロボットに対してもするのか
ロボットに対して、「行動を予測する」ことについては人間に対してと同じだけど、「思う」という心理動詞を使って質問すると、人間に対してとは違う反応

第16章 神経生理学 入來篤史

猿に、自分の手が見えない状態で、モニター上のカーソルを動かせたりさせることで、道具に対しても自分の身体のイメージを持っているかどうか計測する

第1章 認知発達 旦直子

ピアジェの認知発達理論
乳児が獲得している素朴物理学、素朴生物学、素朴心理学

第2章 学習科学 三宅なほみ

生徒の理解度をあげる授業

第4章 創発的認知から見た問題解決 鈴木宏

Tパズルをやらせる実験

第6章 言語 大津由紀雄・今西典子

チョムスキー生成文法
再帰代名詞

第9章 比較認知科学 藤田和生

ヒト以外の動物との比較

第13章 計算理論・脳機能計測・実験心理学の融合 今水寛

道具使用に関連する研究について


*1:誼余夫ってすごい名前だなあと思ったら、Wikipediaによると、両親ともに心理学者で、「誼余夫の名はフランスの心理学者ポール・ギョーム(Paul Guillaume)にちなんでつけられた」らしい。波多野誼余夫 - Wikipedia