仁木稔『ミカイールの階梯』

仁木稔『グアルディア』 - logical cypher scape仁木稔『ラ・イストリア』 - logical cypher scapeに続く、HISTORIAシリーズの第3作
『グアルディア』が27世紀の中南米、『ラ・イストリア』が23世紀のメキシコを舞台にしていたのに対して、こちらは25世紀の中央アジアが舞台。
21世紀末くらい(?)に人類文明は空前の繁栄の時を迎えて、遺伝子管理局と衛星軌道上の知性機械による統治が行われていた。それが23世紀の頭くらいにウイルス禍によって一気に衰退する。遺伝子管理局が、航空機などによる移動を封鎖することで、人類世界は地域ごとに分断されてしまう。人類の文明レベルはどこも衰退しているのだけれど、一部に過去の知識や技術を維持している人々がいて、それを巡ってあれやこれやある、というのが、大体この3作に通底している歴史。


本作は、中央アジア、現代の新疆ウイグル自治区あたりが舞台となっている。ここには、ソ連を模倣した中央アジア共和国とイスラム系のマフディ教団が二大勢力として存在している。さらに、科学技術を代々守り続けるミカイリー一族というのがいて、彼らはマフディ教団と共存していた。
ところが、内部の勢力争いなどにより、教団とミカイリー一族とのあいだに緊張が走り、ミカイリー一族の次期当主候補であるミルザ、守
護者(ハーフェズ)のマルヤム、フェレシュテの母娘が共和国へと亡命する。
彼らが亡命した先は、共和国の西の辺境イリ州。共和国は基本的に、ルース人(ロシア人)が政治的な実権を握り、地方のアジア人が支配されているという図式になっている。イリ州においても、人口の多くはアジア系だが、ユスフ・マナスキーという軍管区司令官がトップにたっている。しかし、このユスフという男は、アジア系の名前も持っており、中央から距離をおいた形でイリに君臨している、かなり怪しげな男である。
つまり、表向きとしては、共和国vs教団という勢力図があり、そこのあいだでミカイリー一族が動いているという形なのだが、その実、イリ州が共和国中央とはまた違った思惑で動いており、共和国、教団、イリ、ミカイリー一族という四大勢力があることになる。
これに加えて、物語の中盤くらいになってくると、共和国の西に広がるステップから、カザークという集団も現れることになる。


イリのユスフが、カザークのリーダーであるゼキを王として擁立し、共和国からの独立を図るという情勢下で、ミカイリー一族の少女であるフェレシュテと、イリ州で国境防衛にあたるルース人兵士=グワルディツァの少女リュドミラ(リューダ)が、運命に翻弄されながらも云々という物語である、といえるかもしれない。
フェレシュテとリューダが主人公だろうなあとは思うけれど、群像劇的に描かれてて、誰がメインかというのは一概には言えない。
例えば、イリに派遣されている政治将校(コミッサール)であるセルゲイとか、ミカイリー一族のもう1人の次期当主候補でありXXYをもつレズヴァーンとかの物語としても読むことができる。
また、この物語が「英雄譚」であるというのであれば、その英雄とはゼキのことだろう。


中央アジア共和国はソ連を模倣しており、ミカイリーの技術によって1980年代の武器・兵器が開発されている。そのため、25世紀が舞台なのだが、AKとかT-72戦車とかが出てくる。
また、マフディ教団は、いわゆる「イスラム原理主義」的な雰囲気をしており、物語の後半では、女性の自爆テロまででてくる。


独立戦争シーン、面白かった
あと、音楽と舞踊で人をコントロールできる神秘主義の技を使って格闘、とか


以下、続きはまたあとで書きます
(→書こうと思ってたけど、断念。設定とかは、筆者のブログに結構詳しく載っているのでそれを参照するといい)


新ルイセンコ主義


ルース、タジク、キタン


物語であるということ


登場人物

  • フェレシュテ

ミカイリー一族の少女。守護者(ハーフェズ)。階梯、つまり知性機械にアクセスできる遺伝子を持っている。
ミルザに連れられて、イリ州に亡命するが、共和国と教団の裏取引によって、ミカイール一族のもとへと連れ戻される。その後、レズヴァーンのもとに軟禁される。

フェレシュテの母で、守護者。

  • ミルザ
  • リューダ

イリ州で辺境警備を行っているルース人の精鋭部隊(グワルディア)に属する少女。
中央アジア共和国は、かつてのソ連にあったイデオロギーであるルイセンコ主義を復活させた。この物語が始まる時点では、既に中央でも新ルイセンコ主義は失墜したが、精鋭達はまだ新ルイセンコ主義を信奉している。新ルイセンコ主義によれば、遺伝子というのはなくて、意志の力で進化していくということになっている。グワルディアは、実際には、改造遺伝子をもった一族なのだが。
中央アジア共和国とマフディ教団は、表向きは対立しているが、裏側ではつながりがあったりする。グワルディアがイリ州にいるのは、辺境に追いやられているだけなのだが、マフディ教団の脅威から国を守るためという建前がある。そうした建前が建前に過ぎないことを、グワルディアの大人達は分かっているが、リューダのような子どもは純粋に信じている。
同じくらいの年齢で女ということから、フェレシュテの護衛役を任される。当初は、その役を嫌がってはいたが、フェレシュテのことを嫌っているわけではなく、彼女がレズヴァーンの元へ連れ去られて以降は、彼女を助けることを目的に行動する。

  • ユスフ

同胞殺しの異名をとる軍人であったが、イリ州に来て以降、神秘主義教団に帰依し、さらにそこのトップの座へと就く。
ゼキを英雄として押し立て、ゼキの英雄譚という物語の登場人物になることで、かつての罪を雪ごうとしている

  • セルゲイ

イリに派遣された政治将校
元々、共和国の実験施設で育てられたが、その施設の崩壊後、反ルイセンコ主義の学者のもとで育てられる。イリに派遣されたのも、とばされてきたという感じ。イリはイリで、ユスフの王国なのであり、セルゲイは基本的には何もできないポジション
一時期、マルヤムといい関係になる。が、マルヤムからすれば打算からくる関係であり、またユスフ的にも、セルゲイがマルヤムかフェレシュテのどちらかと親しくなることを見越して、利用していた。
その後、なんとなくユスフの副官的なポジションに

  • レズヴァーン

父親が、ミカイール一族から出奔したときにできた子。ミカイール一族のやり方に反発して一族から離れたものの、その後の困窮した生活に耐えられず一族に戻ってきて、あまつさえ一族の管理から離れた子どもをつくってきたことで、レズヴァーンの父親の評判はよくなく、レズヴァーンの一族の中での立ち位置にも影響している。
XXY染色体をもつ両性具有。やや膨らんだ乳房を持つが、身長は高いため、女性と見誤られることはない。
元々、厭世的であったが、パリーサを使ってアリアンを屈服させた後は、ミカイール一族とマフディ教団を率いて共和国との対立路線を歩むようになる。その際には、女装をしている。

  • パリーサ

殺戮機械。改造遺伝子により作られた戦士。人間的な意識などを有しているかは不明。コントローラーを持った者の命令ににみ従う。
最終的に、リューダとの見世物的一騎打ちを行う

  • アリアン

レズヴァーンの母方のいとこ。ミカイール一族へ憎しみを抱き、クーデターを起こす。レズヴァーンを妻とするが、そのレズヴァーンによって廃人同然にさせられる。
しかし、実際には廃人の振りをして脱出する機会を窺っていた

  • ライラ
  • ハーテマとジャファル

レズヴァーンのもとに捉えられたフェレシュテの世話役となっていた少女と、彼女の夫
が、ハーテマは自爆テロの実行犯に仕立て上げられる。ジャファルはその後も自爆テロ実働部隊として働き、レズヴァーンのもとで頭角をあらわす

  • ゼキ

ステップを統一したカザークの若きリーダー
貿易を望んで共和国へやってきて、イリ州と同盟を結ぶ。
彼の血には、疫病への抵抗力があると共に、疫病の感染源でもある。この力を使って、ユスフは共和国に対する独立戦争を始める。
彼は、彼自身に野心があるというよりは、他の人の望みをうつす鏡的存在
リューダのことを気に入っている

  • ベルケル

ゼキの弟
元々カザークで医者的な役割を担っていたが、ミルザと共に、ミカイール一族の元へいって、知識の刷り込み(インプランティング)を受ける。

  • カジミール

精鋭部隊の長
自爆テロをさせられようとしていた少女を救う。