「アート/エンタメ」あるいは「サブカル/オタク」という軸を取っ払って、現代(視覚)文化について取りかかる切り口を講義する本。
このあたりは、n11books.com -でも、以下のように紹介されていて、読んでいてその通りだなと思った。
長々と歴史が語れられている本ではないんです。むしろ、文化に詳しい人にとっても、文化に疎い人にとっても、不思議なことにこの両極の人々に等しく、おそらく本書の案内は「物足りない」ものになります。
(...)
大学の先生が開陳する薀蓄の数々。そのひとつひとつが先生が学んできた膨大な知識のうちの氷山の一角に過ぎないことはわかりつつ、先生が何を言いたいのかまではわからない。何を言いたいのかはわからないけれど、こぼれ話が面白いし、どうやら先生が紹介したい作品も面白そうだなあ…という、つまみ食いの楽しさみたいなものを味わえる授業がたまにありました。本書の魅力はそういうタイプのものです。
基礎知識を一から説明していく「入門書」ではないし、膨大な情報を羅列するような「カタログ」でもないし、あるいは1つのないし少数の作品について深く論じていく「評論本」というわけでもない。
現代の文化に対する切り口・見方を提示する、まさに「講義」なのだと思う。
その見方というのは、目次にあらわれる以下の5つと、あと、「アート/エンターテイメント」「サブカル/オタク」といった対立軸をなくして見る、ということ。こういう対立って、今やあまり有効ではないというか、少なくともどっちが優位だとかいえないのが現状だけれども、なおそこに壁というか亀裂というか対立というか、そういうものだけ温存されているわけで、そういうのを取っ払いたいというのがある。
Lecture.1 カルチャー/情報過多
Lecture.2 ノスタルジア/消費
Lecture.3 ナラティブ/ヴィジュアル
Lecture.4 ホビー/遊戯性
Lecture.5 メディエーション/ファンコミュニティ
特別対談 國分幸一郎・石岡良治
個人的には、PVの話に出てくるような視覚刺激の話、「ホビー」というカテゴリの話、3DCGアニメの話が面白かった。イメージ人類学もちょい気になる
Lecture.3 ナラティブ/ヴィジュアル
視覚文化の2つの側面、物語性と視覚性について
まず、物語性についてはメロドラマという観点から
50年代ハリウッドのダグラス・サーク作品、それを再評価・再解釈しているトッド・ヘインズやファスビンダー作品などを紹介していく。
視覚性については、PV、特にミュージックビデオをあげる
シュールレアリスム→レコードジャケットからの流れと
ミュージカル→マイケルジャクソンへの流れ
Lecture.4 ホビー/遊戯性
アートでもエンターテイメントでもない領域として、芸術学や美学で論じられていない領域として、「ホビー」をあげる。
こういう芸術ではないけれど芸術と隣接しているような気がする領域のカテゴリー問題は、佐々木健一『美学への招待』 - logical cypher scape2を思い出す。
さらに、具体的には(デジタル)ゲーム*1と、ロボットアニメ・ガンプラをあげている。ミリタリー趣味なんかと絡めつつ。
Lecture.5 メディエーション/ファンコミュニティ
ニューメディア論(新しいメディアに対する過剰な期待と懐疑、メディアの変遷の早さ)
イメージ人類学と認知科学
動画サイト
日本における3DCGアニメの普及*2
日本アニメにおける背景と人物のレイヤー構造について、西洋絵画やCG以前のハリウッド映画と比較してみたり
あと、CGアニメが日本で受け入れられるようになったものとしてのゲームとか
セルと3Dの美学の対比を、連続写真のマイブリッジとマレーの対比と重ねてみたりとか
ファンコミュニティと歴史の話
新陳代謝が早くなっていることとか、古いものと新しいものとを並列に見れるようになっていることとか
このあとの対談で特に強調されているが、「加速」か「減速」か、ではなくて、複数の時間を切り替える「変速」が必要だ、と。