山岸真編『SFマガジン700【海外編】』

SFマガジン700号を記念したアンソロジー
SFマガジンに掲載されたが、単行本未収録の短編を集めたもの*1
12作中5作既読だった
とはいえ、そのうち1作は既読だということに全く気付いてなかった。あと、既読5作中3作は『SFマガジン2010年1月号』 - logical cypher scape掲載


選りすぐりの作品なのでどれも面白いけど、その中でも特に面白かったのをあえて挙げるなら
クラーク「遭難者」、マーティン「夜明けとともに霧は沈み」、ティプトリー「いっしょに生きよう」、ル・グィン「孤独」、チャン「息吹」か

アーサー・C・クラーク「遭難者」

太陽に住んでいる生命体が、太陽から吹き飛ばされてしまって、地球まで漂ってきてしまう話
太陽に住んでるから、太陽から出ると光とか感知できなくなったりする。
人類側は気付かない。というか、イオンの塊としてしか観測できない。そして消えていってしまう。
人類には感知できない領域の存在を、淡々と描写していて、初っぱなからSF的な意味で(?)テンションあがる作品
初出1947年、SFマガジン1983年掲載

ロバート・シェクリイ「危険の報酬」

SFマガジン創刊号に掲載された作品。SFガジェットは出てこないが、小松左京が衝撃を受けたという作品
リアリティ番組みたいな話
多額の報酬と引換に、殺し屋に追われるという命の危険に挑戦するテレビ番組に出演する男の話。
ごく普通の、どちらかといえばあまりパッとしない一般大衆の1人が危険をかいくぐるという趣旨の番組であり、またそれを視聴者が直接助けることができることもでき、一方でヤラセの要素も組み込まれている
初出1958年、SFマガジン1960年掲載

ジョージ・R・R・マーティン「夜明けとともに霧は沈み」

とある霧深い惑星
霧魑魅(すだま)という未知の存在がいて、それが惑星に訪れた人を殺しているという伝説がある。その伝説のために、植民は進んでいないが、探検を求める客が多く訪れている。
ある科学者がその謎を解き明かすべくやってくる。
主人公は、その惑星唯一ホテルのオーナー。彼はいわゆるロマンティストで、伝説を伝説のままにしておきたいので、その科学者のことをあまりよく思っていない。
科学によって謎が解明される、そのことにより「ロマン」が消えることを惜しむセンチメンタルさが描かれている。
自分としては「この世には科学では説明できない謎がある」的な価値観はあまり好きではなく、このオーナーみたいな奴がいたら「何言ってやがる、こいつ」と思うことは間違いないがw
にもかかわらず、この作品自体はわりと好き
初出1973年、SFマガジン1992年掲載。

ラリイ・ニーヴン「ホール・マン

火星で、異星人の残した重力波通信装置を発見した探査隊の話
船長と、隊の物理学者は、性格が真反対でいつも対立しており、さらに物理学者が、重力波通信装置の中には量子ブラックホールがあると言い出したので、(頭にブラック・ホールのあいている)「ホール・マン」と言われるようになる。
で、船長が不慮の死を遂げてしまうのだけど、それはその装置からブラックホールが落ちてしまったからで、立証する術はない(もしかして物理学者がわざとやったのかということが匂わされるけど、そこも定かではない)。
初出1974年、SFマガジン1976年掲載

ブルース・スターリング「江戸の花」

江戸から東京になったばかりの頃、元々武士だった男が、売れっ子の噺家と連れだって火事見物とかする話。
で、その火事の背景にとある絵師と魔物が
1986年SFマガジンでの掲載が初出

ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア「いっしょに生きよう」

とある惑星の植物に寄生している知的生命体と、人類の調査隊が遭遇する話
1988年(著者の没後)初出、SFマガジン1997年掲載

イアン・マグドナルド「耳を澄まして」

イノセンス修道士のもとに、ある少年が連れてこられる。
その少年は、実は進化した人類の候補
1989年初出、SFマガジン1996年掲載

グレッグ・イーガン「対称」

軌道上の加速器施設で事故が起こり、3人が行方不明になる。それをうけて救助隊が向かう。
宇宙の始まりでは4つの力が1つだった(対称性をもっていた)とされるが、さらに4つの次元も対称的だった、つまり時間と空間が同じようなものだったのではないかというのを検証するための施設。
で、なんだかよく分からないが、その時間と空間が対称な、四次元等価次元空間が施設にできてしまっていたという話
1992年初出、SFマガジン2012年掲載

アーシュラ・K・ル・グィン「孤独」

ある文化人類学者が、とある惑星の文化を調べるために、自らの息子と娘をその星で育てた話
娘の方の報告書という体裁をとっている。
そこの星では、成人同士はできるだけ会話をせず、子どもにしかものごとを教えないため、フィールドワークしようとしても、大人である文化人類学者はほとんど何も教えてもらえない。そこで自らの子どもたちを使って、フィールドワークした。
しかし、やはりその人類学者からみれば、そこは未開の文化で、子どもたちがそこの文化に染まっていくのに耐えられなくなっていって、戻ろうとする。息子の方はまだ母を理解できるのだが、娘の方は本当に幼い頃に連れてこられたので、母に反発する。一応、一度母と帰るのだが、再び星へと戻っていく。
1994年初出、SFマガジン1996年掲載

コニー・ウィリス「ポータルズ・ノンストップ」

ポータルズという何もない町を訪れて、退屈していたら、そこに不思議な観光ツアーが訪れる。
彼らは、ポータルズのSF作家ジャック・ウィリアムスンゆかりの地を訪れていた。
これは、ウィリアムスンへのトリビュートとして書かれた作品。
主人公もポータルズの住人の多くもウィリアムスンのことを知らないのだけど、未来においてウィリアムスンがSFで書いたことが色々と実現していて、件の観光ツアーその未来から訪れていた(のではないだろうか)という話。
1996年初出、SFマガジン2010年掲載

パオロ・バチガルピ「小さき供物」

環境ホルモンとかで汚染された未来。子どもを出産するためにはその前に予備分娩ということをして、胎児に母体の有毒物質を吸収させるということをしなければならないという話
とても救いのない感じの短編*2
2007年初出、SFマガジン2013年掲載

テッド・チャン「息吹」

どこか別世界の話
編者が「わずかなページ数にSFのエッセンスが詰め込まれた作品」と書いているけれど、本当に色々な要素が詰め込まれている。
この作品に出てくる人間は、どうも機械仕掛けで出来ていて、空気(アルゴン)の気圧差で動作している。
語り手は解剖学者で、脳がどういう仕組みで動いているのか調べていて、脳の中の活動パターンが記憶とかを成り立たせているんだということに気付く。
彼らは破壊とかされない限りは不死なんだけれど、いずれ気圧差がなくなったら全員死んでしまうことに気付く(エントロピー増大による熱的死みたいな?)。
でも、記録を残しておけばいずれ別の知性が自分たちのことを知ってくれるだろう、みたいなことで終わる。
2008年初出、SFマガジン2013年掲載

*1:いくつか、既にアンソロジーに収録された作品もあるが、そこらへんの収録基準については編者のあとがきを参照

*2:と書いたけど、そもそもこのアンソロジーに収録された作品は、バチガルピ以外も、決して前向きハッピーエンドではないような作品の方が多いかもしれない。完全にポジティブな終わり方してるの「いっしょに生きよう」と「ポータルズ・ノンストップ」くらいなのでは。もっとも、その逆に完膚無きまでにネガティブなのも「小さき供物」くらいかもしれないが。あと「ホール・マン」とかかなり不穏な終わり方か