六冬和生『みずは無間』

主人公は、太陽系外を飛ぶ探査機に搭載されたAI。そのAIには、「雨野透」という青年の人格が転写されている。
宇宙の旅と、雨野の恋人みずはについての回想が交互に進行する。
みずはは過食症で、雨野に依存気味であり、回想されるエピソードもあまりろくなものではない。雨野も雨野で、みずはを疎ましく思いつつも、その関係をずるずると続けていた奴であり、その回想というのも決していい思い出ではないのだが、何とも言えない生々しさがある。
宇宙を1人で飛び続けるAI雨野は、退屈しのぎに人工生命を作ってみたり、自分の分身を作ってばらまいてみたりしている。
ところが、そうした行為が、雨野の記憶の中にいるみずは、そしてみずはが持っている飢餓感を宇宙へとばらまいてしまうことになる。
みずはの回想から逃げようとする主人公が、めぐりめぐって宇宙的な規模になったみずはの飢餓に襲われる、というホラー小説的な展開。