佐藤友哉『ベッドサイド・マーダーケース』

久しぶりにユヤタン読んだ
どうも「デンデラ」以来ぶりっぽい
何か『新潮』で短編1つ読んだ気もするのだけど、あまり覚えていない


今も変わらぬユヤタン節とユヤタンワールドだった


主人公が目を覚めると、隣で眠っていた妻が包丁が首に刺さった状態で死んでいる。思わず家の外へと逃げ出す主人公は、浮浪者に声をかけられて、この町では何年も前から「連続妊婦殺人事件」が起きていることを知らされる。
個々の事件は報道されているが、それらをつなぎ合わせて1つの事件として報じられたことはない。その事件を、かつてやはり妻を殺されたその浮浪者は調べていた。
『ワスレルナ』と書き残されたメモが唯一の手がかり。


という感じで始まる。
主人公が、父親になるかならないかくらいの年齢の男性になっているあたりで、作者であるユヤタンも、読者である自分も年をとったというか、月日が流れたよねという感じがしないでもない。
ユヤタンtwitterでこの本を宣伝するときに、「キャリアを重ねたら「あえて若者に向けてのみ書き続ける」か「ファンといっしょに年を重ねていく」以外に選択肢はありません。いや。ほんとうにそうか。」*1「若さに逃げず、老成に憧れず、この中途半端な状態にもきっとあるはずの強烈な力を、物語にできないだろうか?」*2
というようなことを書いていて、だからこそ主人公がそういう年齢に設定されているのだと思う。
まあその点において、それなりに面白く読めたかなあとは思う。
主人公らの、自分は実は情に薄いんじゃないかというか、実に自己中心的なんじゃないかという感じで悩んだりするところとか


しかし一方で、そんなことユヤタンに求めても仕方ないし、この作品にとって別に欠点となっているわけではないということは分かりつつも、個人的には設定とか話の展開とかで白けてしまったのも否めない。
「連続妊婦殺人事件」の犯人は、とある産科医なのだが、放射線障害を持った子どもを妊娠していたからという理由で殺していたことが分かる*3
さらに、この小説の舞台となっているのは、大規模な自然災害であちこちの原子力施設から放射性物質が漏洩しまくるという大事件が起きた千年後の未来、しかも、科学技術とプライバシーをコントロールしている社会ということが分かってくる。
で、「え、放射能の話なの」「え、千年後の未来なの」ってところが気になってしまった
あと、最後の真相が明らかになるシーンも、いきなりぱたぱたと「実はこうでした」「実はああでした」と明らかになっていく展開
まあそこは、まさにユヤタンっぽいところではあるのだけど、何というかそういうまさにユヤタンっぽいところで、なんか引いてしまって、自分の方が変わってしまったのかなあと思ったりした。
別にユヤタン、SFの人でもないのに、放射能とか千年後の未来とか、「なんでそんな世界設定にしたし」とか思ってしまったけれど、考えてみれば、もともと唐突にクローンとか出してくるし、こういう感じ、まさにユヤタンっぽいところに、そこらへんでひっかかってしまって、作品を十分に面白がれなかった


そういう世界観の部分でひかかってしまったけど、話は必ずしも悪くないし、文章自体は好きだ
中途半端に自己中心的な感覚みたいなのって「あーわかる」ってなるし
ユヤタン的な言葉の繰り返しとか、殺意殺意殺意殺意とかw
あと、各部末にある「くらやみがあける気配」の繰り返しとか、いいよねw


話は三部構成になっていて、
第1部 ベッドサイド・マーダーケース
主人公が産科医の船津にその目的とかを尋ねるところまで
第2部 ベッドタウン・マーダーケース
第1部の10年後、六条(第1部で主人公と行動を共にした浮浪者)が視点人物になっていて、第1部の主人公は姿を消している。六条は『被害者の会』を結成し、10年前に姿を消した船津を探す話。
第2部が分量的には一番長い。
船津の孫娘と六条の息子が登場する。第一部の主人公も終盤で再登場する。
だんだん、世界規模の話になっていく。
一応、真相とか明かされて、文字通りの解決ではないけれど、
第3部 ベッドルーム・マーダーケース
船津の孫娘が視点人物。
何故か『虐殺器官


ユヤタンが言ってた小口の仕掛けというのは、タイトルの英字が書いてあって、奇数ページは「BEDTOWN」、偶数ページは「BEDSIDE」になってるというものだった。


罪悪感というのがキーワードになっていたり、世界は強者のためにあって弱者はなかなか生きていけないようにできてるとか、ユヤタンの世界観は変わっていない


ベッドサイド・マーダーケース

ベッドサイド・マーダーケース