籘真千歳『スワロウテイル/初夜の果実を接ぐもの』

シリーズ最終作
これまで
藤真千歳『スワロウテイル人工少女販売処』 - logical cypher scape
籘真千歳『スワロウテイル/幼形成熟の終わり』 - logical cypher scape
籘真千歳『スワロウテイル序章/人工処女受胎』 - logical cypher scape


うまく終わらせたんじゃないですか、という感じ。
普通に面白かったのは確かなんだけど、例えば1作目を読んだ時に匹敵するほどの興奮は残念ながらなかった。
「人類に恋した」っていうのは、なかなか感動的ではあったと思う。


500ページちょっとあるんだけど、本格的に色々と動き始めるのが300ページも近くなったあたりから、というのがちょっとつらい。
鏡子のニーチェ論とか、水淵先生の哲学論とか、もう少し短くなりません?
プロローグの百人の町含め、そこらへんの語りは、一種の厨二として楽しむといえば楽しめないこともないのかもしれないけど、やっぱり何というか、ちょっと相容れないところもあって。
まあ、登場人物の見解と自分の考えが一致しないということと、作品の良し悪しとか面白さ、読書経験としての面白さはまたそれぞれ別物ではあるが。


あと、驚いたのが、スワロウテイルシリーズが『BadApple!!』の影響で作られたということかな。ある意味で、東方の三次創作なのか(違う)w BadAppleの歌詞が、各章末で引用されてる。歌詞は覚えていなかったけど、読み終わったあとにBadApple聞き直してみたら、おーってなったw


日本という国がいよいよ国家として崩壊寸前で、その隙をぬって、東京自治区が国家としての独立のタイミングを計っている、という状況の中、そうした総督府の目論見をよく思わぬ勢力が、麝香という人工妖精を放つ。麝香は、揚羽と全く同じ顔をしており、総督直下の「十指」をも簡単に屠る腕を持つ。
構成としては、Aパート、Bパート、Cパートの3つのパートが並行して進んでいく。
どのパートも「揚羽」が主役だが、名前が同じだけでそれぞれ別人
Aパートの揚羽は、いわゆる本物の揚羽で、麝香を倒すために女性自治区から男性自治区へと再び戻る。
Bパートの揚羽は、揚羽の双子の妹である真白で、赤色機関と行動を共にすることになる。
Cパートの揚羽が何者で、このパートの時間軸がいつなのかは、最後に明らかになる。田舎に引っ込んだ鏡子のもとに陽平が訪れるというところから始まる。そして、雪柳が出てくる! 雪柳マジ有能ww


以下、ネタバレ
揚羽と真白は実は双子じゃなくて、麝香も含めた三つ子だった? という感じで進むのだけど、実は麝香は三つ子ではなくて、覚醒前の揚羽と真白によって作られた人工妖精
揚羽は、麝香よりも圧倒的に強く、最終戦で勝つのだけど、麝香をかばって自分が麝香の罪を全て引き受ける。
Bパートでは、総督の椛子が麝香に暗殺されていて、真白のもとに自警団と赤色機関がやってくる。真白は、マクロファージからの助言もあって、赤色機関についていく。赤色機関は既に本国によって制圧されていて、本国に裏切られたと感じた者たちが、真白を次期総督にするべく行動する。真白を総督府に届けるのと引き替えに赤色機関は全滅。そして総督府に辿り着いた真白の前にいたのは、殺されたはずの椛子。殺されたのは影武者で、タイミングを見計らっていただけの椛子。真白の行動は全て無意味だったし、揚羽は自ら麝香の身代わりになると述べ、真白と椛子がバトルする。
Cパートの揚羽は、本物の揚羽が水淵先生のところで作った人工妖精、いわば揚羽の娘。Cパート自体が、AパートやBパートよりもさらに未来の出来事。
また、Bパートの陰では、鏡子が峨東、西晒湖、水淵とのあいだで駆け引きなどをしている。そこで言われるのは、揚羽たちは、別の因果世界からの「斥候」なのではないかという可能性。さらには人類自体ももしかしたらということもほのめかされている。
揚羽というのは、人間に造られた人工妖精なのだけど、それと同時に人類とは全く別の因果世界の存在でもあるようで、彼女が最終的に「人類に恋した」というのは、人類に奉仕する存在としての人工妖精というものから脱して、人類とは異種の存在からのコンタクトでもあった、ということ。