瀬名秀明『希望』飛浩隆『ラギッド・ガール』(再読)

部分的に再読してた。
どちらも初読時のエントリがテキトーだったので、改めてあらすじまとめとく

『希望』

静かな恋の物語

冒頭で質料の話してたり、宇宙のエレガントさの話をしして、「希望」と同じモチーフ使ってた。
宇宙物理学をやってる真弓と生命科学をやってる一紀が、恋をして結婚して、そして夫が白血病になって死んでいくという話だけど、お互いに科学者だけど分野が違うので、世界観もちょっと違う。
恋によって人と人が惹かれあうといのと、重力・質量とを絡めている。

ロボ

ケンイチくんシリーズ
元ロボットジャーナリスト(?)で、カナダ・ウィニペグにわたった自然史家。
動物やロボットを記述するとはどうすればよいのか。
ウィニペグの牧場では、牛たちの健康管理システムとしてインフルエンザウイルスを改良したマイクロマシンを使っているのだが、それによって牛たちに社会ネットワークができている。
狼のロボたちも感染している。
そして、自然史家はケンイチにプログラムを走らせる。
ケンイチくんとレナの関係も少し変わっているような感じがする。

For a breath I tarry

主人公の「ぼく」は、恋人の琉美と共に、友人である海の個展に訪れる。そこで謎の爆弾テロが起こり、琉美はあとかたもなく消えてしまう。
12年後、ロボット研究者からより数理的な生命科学研究者になった「ぼく」は、海と共に、VRサービス「BREATH」を使ったアート展を共にやることになる。
さらに12年後、喫茶店で再び爆弾テロが起きる。
生命らしさとは何かと生命進化の不可逆性についてを巡る話。
2枚の絵のどちらを選ぶかといって2人の腕が指す方向が交錯するというシーンから始まって、交錯しないというシーンで終わる。作中繰り返される関所が開くのイメージ。
爆弾テロによる琉美の消失も、進化の関所を越えることと重ね合わされている(この爆弾テロはどうも人間の仕業ではない?)
BREATHを通じて、複数の世界が重ね合わされてまた離れる?

光の栞

声の出ない少女栞は、本と共に育ち、やがて科学者になる。そして、本の修復技術者であるエヴァンス氏に、細胞シートによる生きた本の制作を依頼する。十年以上かけた生きている本の制作。
科学による倫理観の変化、というものが背景にずっと流れている。

希望

少女・言美の回想と元科学ジャーナリストによるそのインタビュー(オーラル・ヒストリー)
修道院から引き取られた言美は、ダミー人形と加速度と衝撃をシンクロナイズする
幼い頃、養父に連れられていったキャンプでよくしてくれた「鈴木さん」。一度だけ出会ったその息子、「ゆうき」
ダミーの実験で、言美が自分でシミュレータ上でどこにでも行けるようになる→かつて鈴木さんと会ったキャンプ地を探すようになる
ダミーが販売される
重力によるコミュニケーションダイナミクス定量・定性化
各地への影響。兵士へのシンパサイズ、新たないじめ
鈴木さんの自殺
ゆうきと共に施設を逃げ出す言美
渋谷で若者の爆弾テロ
言美はゆうきに黙って修道院へと戻る
言美の養母、女性としての美しさと理論の美しさ
元ジャーナリストは、科学に対する希望を失っていた。鈴木さんの弟。
言美の自殺
孤児を引き取る元ジャーナリスト
歴史は繰り返す

『ラギッド・ガール』

ラギッド・ガール

数値海岸の開発者ドラホーシュ教授とその開発グループによる、開発初期の話。
現実を「右クリック」したいドラホーシュ教授は、仮想現実に人間が入るのは人間をシミュレートするのが大変すぎるので諦めて、情報的似姿に仮想現実を体験させることを提案する。それが数値海岸。
既に、視床カードを脳内にインプラントすることによるAR技術が普及している時代。
教授は、情報的似姿に官能素空間と呼ばれる仮想現実空間を感覚させる技術を開発するために、直観像的全身感覚を持つ、「全身犀のけつ」である阿形渓を招聘する。
渓は、12才のときに阿雅沙というプログラムをネット上でリリースしていた。それは、人の嗜虐性を刺激するような少女の姿をしたプログラム。
そして、開発グループの中には、阿雅沙そっくりの安奈・カスキという女性研究者がいた。
この短編の英語タイトルは、Unwaving the Humanbeing
渓の開発した、情報的似姿を編集するためのソフトウェアの名前がUnweave
安奈は、渓の手によってUnweaveされる=編まれる。
視点人物が、ある時を境に、情報的似姿としての安奈に変わっている。しかも、渓の直感的全身感覚の中に所有される。
仮想現実空間の中で情報的似姿なりAIなりが走ることと、読者が本を読むことで頭の中で登場人物達が生きることが重ね合わされている。
安奈のナルシスティックかつサディスティックなパーソナリティ。

クローゼット

数値海岸用のアプリケーション開発者である、インド人女性ガウリ
(ちなみに、舞台はどの短編も大体日本)
同居していたカイル(元、ドラホーシュ教授の開発グループメンバーで、安奈の元カレ)が、突然自らに50回もの「死」の体験を上書きして自殺する。
ガウリはその謎を解くために、カイルが残したカイルの情報的似姿を再生する。
カイルは、安奈の情報的似姿を密かにコピーしていた。しかし、このコピーが嗜虐性全開で、人の視床カードをハッキングして「自傷」してくる奴だったので、カイルは自らに「死」を重ね書きすることで、自らの視床カードを焼き切った。
ガウリは、強制終了させることで安奈から逃れたが、どうも別ルートで既に安奈のコピーが数値海岸へ行っているっぽいことに気づき、数値海岸の仕事を辞める

魔述師

英語タイトルは、LaternaMagica 数値海岸の運営会社もラテルナ・マギカ
二つのパートが交互に進み、数値海岸の大途絶の真相について語られる
数値海岸の区界を唯一行き来できる存在「鯨」を制作し、補修する区界に、見学生として訪れたレオーシュの情報的似姿。彼は、その区界の生活に馴染めず、怪しげな実験をしている老人とそこにいる少女に惹かれていく
もう一つは、現実世界で、とあるライターによる、ジョヴァンナ・ダークへのインタビューの模様。ダークは、数値海岸におけるAIの人権を主張して、残虐な行いがなされている区界を閉鎖に追い込んでいる活動家。
ダークは、実はコグニトーム不全という障害を抱えている。コグニトームとは、人間の認知についての構造のひとかたまりを、ゲノムにならって表す造語で、ARや数値海岸の基礎技術を開発していく基盤となった概念。彼女のコグニトームはもはやバラバラで、それを支えているのは視床カードの中で走っている彼女の情報的似姿。つまり、彼女は人間よりも情報的似姿やAIに近い存在。
彼女たちは、数値海岸のユーザの個人情報を手に入れることで、数値海岸のサーヴィスを追い込み、さらに彼女の仲間であるコグニトーム不全患者たちが、数値海岸への「情報的身投げ」を行うことで、閉鎖しつつ走らせ続けるという状況を達成させる。つまり、大途絶。


希望 (ハヤカワ文庫JA)

希望 (ハヤカワ文庫JA)

ラギッド・ガール―廃園の天使〈2〉 (ハヤカワ文庫JA)

ラギッド・ガール―廃園の天使〈2〉 (ハヤカワ文庫JA)