伊藤計劃×円城塔『屍者の帝国』

なかなかどう感想を言えばいいのか難しい、のは多分この作品があまりに注目を浴びているからだ。
面白かったのは間違いないのだが、じゃあこれが伊藤計劃円城塔のこれまでのテーマを昇華するような傑作なのかというとそこまで感じなかったのも正直なところなのだけど、一方で一読しただけではちゃんと掴めていないのではないかという疑念がぬぐえず、再読してから考えることにしたい。
とかく、色々なネタが詰め込まれているので、もう一度読み直したいなと思わせるのは確かである。


何やら堅苦しい始まり方になってしまったが、
既に何度か読んでいるプロローグを読み終わり、第一部を開くときの興奮といったら!
伊藤計劃円城塔という2人の作家が、一般的に似ていると思われているのか、似てないと思われているのかよく分からないけれど、やはりこの2人は似ているのだと思う。
一部で、伊藤と円城の文体が噛み合ってない、円城が色々と無理をしているという指摘があったのを見たりはしたのだけど、読んでいて、円城文体と伊藤文体は実は似ていたのかなどと思った。明らかな円城文体なんだけど、なんか伊藤がおかしくないんじゃないかと思う瞬間はあった。


以下、ざっとしたあらすじをネタバレありで。



まだ、医大生の若かりしワトソンが、スパイとしてスカウトされるところから始まる。
第一部の部隊はアフガニスタン
ワトソンは、フライデーという記述用の屍者を連れてアフガニスタンへと入る。以下、この本の記述は全てフライデーによる記録という体裁である。
早速、リットン副王からボンベイ城の地下に拘束される女性のクリーチャ(屍者)を見せられる。それは新型の屍者。
バーナビー大尉が噂を聞いたというアフガン奥地でロシア人が作っているという「屍者の王国」、その正体を突き止めるのがワトソンに課せられた任務である。
「屍者の王国」を作っていると考えられるのは、アレクセイ・カラマーゾフ。『カラマーゾフの兄弟』に出てくるアリョーシャその人である。ロシア側の協力者クラソートキンと、ワトソン、バーナビー、フライデーの4人はアフガニスタン奥地を目指す。
そして分かってくるのは、フランケンシュタイン博士が作ったとされる最初の屍者ザ・ワンがまだ生きているということ、アリョーシャがその研究記録である「ヴィクターの手記」を持って、新型の屍者と共にいるのではないかということ。
彼が手に入れていたのは、生者への霊素の書き込みを可能にした技術であった。
ワトソンたちは、アリョーシャの王国へと足を踏み込み、彼と一晩話し明かすが、アリョーシャは自らに霊素を書き込んで自殺してしまう。
「ヴィクターの手記」は日本にも流出しているという情報をもとに、第二部でワトソンたちは日本へと向かう。
明治維新からまだ10年ほどの日本。屍者の技術は既に日本でも使われているが、イギリスほどには普及していない。
パンツじゃないから恥ずかしくないもん。
そして、大里化学の施設へと進入し、やはり新型屍者と遭遇する。そして、ザ・ワンを名乗るライティング・ボール。ワトソンは、ヴィクターの手記と思しきパンチカードを入手する。
そして、アフガニスタンで出会った、PMCピンカートンのレット・バトラーと彼と行動を共にする謎の女性、ハダリーとの再会を果たす。
ピンカートンのグラントは、世界中で屍者を暴走させている「スペクター」の動向に注目していた。彼らをあぶりだすために、自らに対してわざとテロを起こさせている。
グラントとハダリーのそれぞれの思惑が入り交じった計画に、ワトソンたちはのることになる。
ニュー・イスラエル、アララト。計算者であるハダリーのことなどが説明される。
第三部、舞台はアメリカへと移る。
ルナ協会の者たちがワトソンらを襲撃するもバーナビーが返り討ちにする。
そしてついにザ・ワンと会うことになるが、彼はルナ協会からチャールズ・ダーウィンと呼ばれる。
ザ・ワンとともにワトソンらはノーチラス号に乗せられる。その中で、彼らはザ・ワンからことの経緯と、生者の屍者化のメカニズムについて聞く。人間の意識というのは実は菌株の活動であり、屍者化とは人間の屍者化ではなく菌株の屍者化なのだという。
そして、ザ・ワンハダリーはその菌株の言葉を使うことができるのだという。
全人類の屍者化をもくろむ菌株の拡大派を押さえ込むべく、ロンドン塔の解析機関(チャールズ・バベッジ)へ向かわないかと、ザ・ワンはワトソンらに提案する。
そして、チャールズ・バベッジにおいて、ザ・ワンヴァン・ヘルシングが対決する。
ヘルシングは、菌株などというのはザ・ワンが言っているだけのことであり、そしてそれは菌ではなく「言葉」なのだという。
一方、ザ・ワンチャールズ・バベッジを使って、花嫁の復活を成し遂げる。
ロンドン塔の崩壊。
1年後、アイリーン・アドラーと名前を変えたハダリーと、ワトソンは再会する。
ワトソンは自らを上書きする。そして、フライデーはワトソンを探す。


最後の方のあらすじがかなりテキトー。
やはり再読せねばのー。
第三部の後半って、話の内容とは別に、描写がちょっと分かりにくくなかった?
第三部の結末は、「え、あれ、終わり?」みたいな感じだったのだけど、エピローグはよかった。
で、まあ確かに、第三部の後半からエピローグまで、伊藤計劃円城塔のそれぞれのテーマがちゃんと融合している感じはある。


屍者の帝国

屍者の帝国