渡辺零『超電磁砲×虐殺器官』Vol.2

渡辺零『超電磁砲×虐殺器官』vol.1 - logical cypher scapeの続編にして完結編
http://d.hatena.ne.jp/k_watanabe/20120809/p1
マッシュアップ二次創作小説ということで、vol.1では『虐殺器官』の世界観の上を、『超電磁砲』の登場人物(15年後)が動き回っているという感じだったのだが、vol.2では設定だけではなくストーリー自体が『虐殺器官』の物語をハッキングするかのように進んでいく。
虐殺の文法を発見した言語学者ジョン・ポールと、学園都市のマッドサイエンティスト木原幻生が、実は共同研究していたということが明かされる。vol.1で、黒子や美琴らの学園都市特殊検索戦部隊が追っていたテロリスト木原虚空というのが、虐殺の言語を使う能力者だったのである。
その木原虚空が、学園都市での虐殺を演出するために、学園都市の重要人物18人を拉致するのだが、何故かさらにもう1人、全く関係ない人物をも拉致する。そう、佐天涙子である。
というわけで、佐天さん登場!
残念ながら、というか、さすがにこの世界では、佐天さんの派手な立ち回りを見ることはできなかった。まあ何しろ、能力者と無能力者の違いよりも、一般人と特殊部隊員の違いがそこにはあるので、そこはおいそれと割ってはいることは出来ないだろう。しかし、佐天さんは15年経っても変わらず佐天さんであり、美琴に対して15年前と同様に大切なことを思い出させる役割を果たすのだー!
正直な話、もっと15年後の佐天さん見たかったなーというのはある。一体何の仕事してたんだろう、とか。
でも、佐天さんがおさえるべきポイントをちゃんとおさえていて、満足。


今回、すごいなーと思ったのは、後半から『虐殺器官』本編と絡み始めるところ。
前半で、情報軍はインドの件で忙しいみたいな話が出てくるんだけど、あとで、ジョン・ポールを捕まえたi分遣隊がユージン&クルップス社にやられたという話がちゃんと報告される。
そして、美琴たちは、先進諸国の平和の嘘と欺瞞を白日の下に曝すため、ジョン・ポールを捕らえるべくアフリカへと旅立つ。
それはもちろん、あのナイアガラ湖であって、ジョン・ポールを暗殺するために来ているi分遣隊と戦わなければいけないのだー。
ここでヴィクトリア湖へと入る方法が、クラヴィスたちとは違うあっと驚く方法なんだけど、そのさなかで、クラヴィスたちが何故ミサイル攻撃を食らったのかというその理由が書かれていたりする。
そうやって『虐殺器官』の物語へと介入して、『超電磁砲』的な物語へと書き換えてしまう、というふうになっていてすごかった。


あえて難点をあげるとすれば、設定説明が前半に偏ってるところかなー
虐殺器官』では後半に明かされる、虐殺を増やすことでテロを減らしてる話が前半で一気呵成に話される。
これを適度に散らすことができたら、と思うけど、まあ難しいと思うし、あと読み終わってから見直してみたら、別にそんなに長くなかった。
誤字・脱字は3カ所くらい見つけたけど、この分量で同人で3カ所で抑えてるってすごいなと思った(見つけてないだけでもっとあるかもだけど)。


虐殺器官』的だけど、『虐殺器官』には出てこなかったオリジナル設定として、リビアの緑色経済というのが出てくるんだけど、これも面白かった。
園都市がサハラ砂漠を緑化するプラントを持ち込んで、それを中心に経済が活性化したリビアの首都トリポリ。で、周辺諸国が軒並み危険地帯(レッドゾーン)なのに対して、安全地帯(グリーンゾーン)であるがためにPMFの拠点ともなって、軍事産業でも経済効果を得ている、という設定。


インデックスの方をちゃんと知ってたら、さらに楽しめたんだろうなーと思う。
絹旗最愛の能力がよく分かってないので、よく分からないところとかあったし。
あと、自分は15年後のヴィジュアルを想像するとか苦手なので、どうしても読んでいて思い浮かぶのが15年前の姿になってしまう。美琴はvol.1で髪を伸ばしているイラストがあったから、あれを想像してるんだけど、黒子も初春も佐天さんもどうしても中学生の姿しか思い浮かばないので、誰かイラスト描いてください!


(追記)
美琴のことを「煮えきれない」と表現してたり、美琴が兵士の「有用性」に言及するなど、『マルドゥック・スクランブル』っぽいところもちらほらあった