津原泰水『バレエ・メカニック』

まるで今敏の『パプリカ』のような幻視的な風景に満たされた東京を描く第一章から、近未来でARに囲まれながら生きるサイバーパンク的な東京を描く第三章まで、都市となった少女を探して彷徨い歩くトランスヴェスタイトの脳外科医の物語。
二人称で始まる第一章の文章に最初は戸惑うが、じわじわと面白くなっていく。一章が終わる頃にはすっかり引き込まれているはずだが、続く第二章は雰囲気ががらっと変わる。第三章にも同じことがいえ、1つの作品の中で異なる3つのジャンルを味わうことができる。ちなみに、巻末解説で柳下毅一郎は、「華麗なるシュルレアリスム小説としてはじまり、不遜なサイバーパンクSFとして終わる」と書いている。
評判に違わずとても面白かった。


以下、かなりテキトーなあらすじ。筋自体がちょっと錯綜しているのと、今、酒を飲んでぼんやりした頭で書いているので、あらすじの書きっぷりが中途半端。



第一章「バレエ・メカニック」は、君という二人称で呼びかけられる、造形家の木根原が、トランスヴェスタイトの脳外科医である龍神と共に、自分の娘である理沙の病室へ向かう。その時東京は、〈砂嵐〉(のちに理沙パニック)と呼ばれる現象に巻き込まれていた。内陸の高速道路に津波が現れ、巨大な蜘蛛が目撃され、他にも多くの幻影が現れる。先に述べたように、今敏の『パプリカ』のような感じだ。これは、実は事故で大脳のほとんどが機能しなくなった理沙が、東京という都市を自らの脳の代わりとして、夢を見ているのだ。

第二章「貝殻と僧侶」は、理沙パニックから三年後、すっかり引きこもり気味になった木根原のもとに、怪しげな話をもちかける者たちがいた。それは、てんかんの患者たちの中に既に死んだはずの理沙の声を聞いた者たちがいるという話だった。それを怪しんだ龍神が、木根原と共に理沙の声を聞いたという三人の患者のもとを巡る。この章では〈彼女〉という三人称で龍神視点の話になっている。龍神の、子どもの頃に死んだ姉の話が出てくる。

第三章「午前の幽霊」では、さらに数十年後の未来。ARと思しき〈現実〉が非常に広まっているのだが、それはかつての理沙パニックが遠因となっていて、かつてはパニックと称されていた風景が、技術によって当たり前になっているような状況。かつて木根原が客になっていた、少年男娼のトキオが視点人物。彼らの世代は、チルドレンと称され、ネットワークで繋がった一人称複数形で行動し、〈現実〉の拡充を仕事としていた。彼(ら)は、都市の認証システムから弾かれたところで生きる、龍神から、理沙を探して欲しいという依頼を受ける。〈現実〉を作り、不死を売り物にした企業コレグトロの会長、古暮蓮花の娘と接触する。蓮花は、第二章で出てきた龍神の元恋人。

バレエ・メカニック (ハヤカワ文庫JA)

バレエ・メカニック (ハヤカワ文庫JA)