月村了衛『機龍警察』

月村了衛『機龍警察 自爆条項』 - logical cypher scapeの1作目。
これはやっぱり1作目から読んだ方がいいと思うよww
2作目から読んでも問題ないといえば問題ないけど
しかし、あえて言うならば、キャラクターの雰囲気が1作目と2作目で異なって感じられるものがいて、どちらから読むかで印象が変わることはあるかもしれない。
例えば、ライザ。彼女は、2作目の『自爆条項』で主人公となって詳しく描かれることもあってか、1作目のこちらでは謎めいたキャラクターとして描かれる。自分は2作目読んでから読んでるから、ライザが『G線上のアリア』の夢を見るところとか、「ああっ」ってなるけれどもw それはそれとして、1作目だけだと、本当にただの死にたがりで病んでるようにしか見えない。もちろん、「まだ書かれてないけど過去になんかあったんだろうな」とかそういうことは分かるんだけれども、シリーズ前提ではなく、この1冊「だけ」しか読まないとしたら、ライザって一体なんだったんだってなってしまうと思う。ああでも、バイクアクション(?)シーンがあるのはいいな。
あと、宮近理事官なんかは、2作目だと特捜部としての仕事とキャリアとしての仕事とのあいだで悩むキャラクターになっているけれど、1作目だとキャリア組の嫌な奴であるw


龍機兵についての描写も1作目の方が多いかな。全長は3メートルらしい。
最初の方に搭乗シーンがあって、ワクワクしたw アニメだったらバンクになって、毎回と言わずとも何度も見せて欲しいシーンだが、小説だとそうもいかない。こういう感じの乗り物なのねーと。


機甲兵装3機が、有楽町新線の地下鉄駅で車両・乗客を人質に立てこもるという事案が発生。
特捜部も出動するが、同じく出動したSATからはよく思われず、後方支援として下げられる。
突発的な犯行と見たSATは突入作戦を決行するが、姿は違和感をぬぐえない。そして、実際にそれは周到な罠であることが判明した。姿の咄嗟の警告によってユーリは一命を取り留めるものの、SATは新型の機甲兵装と多くの警官を失う。
特捜部は、SAT壊滅を目的とした重大なテロとして捜査を開始するものの、他の警察からは、「SATを盾にした」などと誹謗されるようになる。
立てこもりの実行犯は、かつて姿が東ティモールで共に戦った傭兵の王富国であることが判明。
また、同じく東ティモールで、姿、王の上官だったネヴィルもまた来日していたことが分かる。
傭兵から雇われの犯罪者となった王とネヴィル。兵士と人殺しの違いはプロ意識の有無でしかないという姿。
東ティモールで共に戦った彼らの道はどこで分かれていったのか。
そして、特捜部は第二のテロを防ぐことはできるのか。


前回は、あらすじをやけに細かく書いてしまったので、今回はこれくらいでw
1作目は、姿とユーリのシーンが多い。夏川と由起谷が同じ警察から嫌がらせを受けるシーンなんかは相変わらず。ライザと緑は、次作への伏線って感じで入っている程度。沖津とキャリア組2人のシーンがわりと少ない。沖津と上層部や他部署とのやりとりみたいなのはあまりない。
戦闘シーンでは、開発途中で放棄されたショッピング・モールを舞台に、ライザがバイク乗って「狩り」をするのが面白かった。
冒頭の立てこもりからSAT突入までの流れもよかったけど(これは2時間もの映像作品の冒頭って感じ。次々と事件が連鎖して起きて膨らんでいって、見ていて何だ何だと引き込まれる)。


姿の行動原理は、傭兵としての自らの商品価値を高めるということにあり、自分でもそう言ってるし、そういうように説明されているシーンも多い。とはいえ、姿がやけに過去を回想しているところを見ると、読者としてはもっとセンチメントなところがあるのではないのかと思わず勘ぐりたくもなる。無論、そんな勘ぐりは飄々とかわしてしまうのだろうが。
過去に伝説の傭兵部隊にいたらしい。民間軍事企業の話は全然出てこない。ここの世界の傭兵はわりと個人でやってるっぽい。その代わり、SNS(ソルジャー・ネットワーク・サービス)という仲介業者がいる。
ユーリもライザも、特捜部というのは過去のしがらみからいって特別な場所というところはある。ユーリは、元警官で再び捜査官になるのは叶わぬ身ながらもまだ後ろ髪ひかれるものがあり、そんな彼がかろうじて警察という立場でいられる職場が特捜部である。ライザは、自分で自分の犯した罪が裁かれることを欲しており、自分のことを倒すような敵が現れる職場として特捜部を捉えている。そこに、IRFのテロ被害者であり遺族である緑がいるというのもポイントである。
一方、姿にとっては、特捜部は数多くある契約先の1つでしかない。特捜部との契約期間が過ぎれば、また別のクライアントと契約を結ぶかもしれないことを述べているし、実際、フォン・コーポレーションは姿を欲しがっている。龍機兵という、最新技術(というか出所の知れない未知の技術)に触れられるというのは、傭兵としての自分の商品価値を高めるというメリットがあったからこそ、姿は特捜部と契約したのであり、そういう意味では特別ではあるが、ユーリやライザが特捜部にいる理由とはやはり性質が異なる。
そこらへんの今後も気になるところ。


『自爆条項』では主犯が一応逮捕されるけれど、こちらでは実行犯は射殺されるものの、というか射殺せざるをえなかったがために、彼らのクライアントについての手がかりは失われ、主犯については逮捕はおろか特定もされずに終わる。
警察内部にも入り込んでいる<敵>である。
つまり、「機龍警察」シリーズは、シリーズを通してこの<敵>の目的と正体を探る話となるのだろう。
その過程で、部付警部たちの過去――姿、ライザと来たので次はユーリだといいな――についてを描いていく、と。
あとは、龍機兵という出所不明の新兵器は一体何なのか、沖津は一体何でどうやって特捜部を作ったのか、か。


機龍警察(ハヤカワ文庫JA)

機龍警察(ハヤカワ文庫JA)