P・W・シンガー『ロボット兵士の戦争』

現代においてシンガーは必読書に数えられると思うが、今まで読んでいなかったのをようやく読めた。残り2冊もなるべく早いうちに読む*1


とりあえず、タイトルを見て通り、ロボットで戦争である。このどちらかに興味ある人は、あるいは興味がなくても読むべき一冊。
著者のシンガーは、『戦争請負会社』や『子ども兵の戦争』で知られる政治学の研究者だが、この本ではそうした政治学者としての面と、ロボットものや戦争ものでワクワクした子どもの頃の面が混じり合っているように思う。それがよいバランス感覚になっていると共に、読み物としても魅力的にしている。
解説の森山和道によれば、まあロボットか軍事かに興味持っている人にとっては特に目新しいことは書いてないよとのことだが、自分はアメリカのロボットはあまり知らないのでその点でも面白かったし、またエピソードやトリビア的なネタも豊富で楽しみながら読み進められる。
それから、米軍やロボット技術者への取材は当然として、イラク武装勢力の若者への取材までしているのがなかなかすごい。登場人物がたくさんでてくるので、それに追いつくのが大変かもしれないが、具体的なエピソードとして読めるので面白いともいえる。


日本において、ロボットをはじめとする科学技術開発は軍事とは一応無縁*2だが、アメリカは当然そうではない。
ロボット技術そのものよりも、そうした軍事とロボット技術との関係を見ていく本書は、しかし日本のロボット技術開発においても役に立つことだと思う。
この本は、ロボット技術が米軍や戦争に与える影響について特に重点が置かれているわけだが、そうした影響や問題点は何も軍に特有というものではないだろう。


もともと米軍はほとんどこうした技術には見向きもしていなかったらしい。それの風向きが変わるのは911以降なわけだが、この本の端々から伝わってくるのは、実際に戦場に投入されるロボットの数は飛躍的に増えたけれども、そうした状況はほとんど知られていないということである。
さて、こうしたロボットの投入は、兵士の犠牲を減らすという利点がある。また、ロボットというとヒューマノイドのイメージが強いが、ロボットが人間ではないということが重要なポイントともなっている。とはいうものの、一方でロボットに対して時に人間と同様の思い入れを抱く兵士が現れたり、あるいは無人システムの導入が逆に戦争をしやすくしたり、残虐にさせたりしてしまうのではないかという懸念もある。

  • 第1部私たちが生みだしている変化
    • 第1章はじめに

アメリカの二大ロボット企業、アイ・ロボット社とフォスター・ミラー社の紹介など

    • 第2章ロボット略史
    • 第3章ロボット入門

プレステのコントローラをモデルに、コントローラを作っているらしい。本書では何度も、ゲームの重要性が書かれている。戦争は今や、マッチョの軍人によるものから、ゲームオタクによるものに変わりつつある?!
映画『マイノリティ・リポート』っぽいインターフェイスとか、触覚や味覚(?)を利用したインターフェイスとか開発されているらしい

    • 第4章無限を越えて

シンギュラリティの話

    • 第5章戦場に忍び寄る影

無人車両、無人水上艇、無人飛行機など
下で紹介するyoutubeも参照

    • 第6章いつも輪の中に?

無人システムは人間を戦場の危険から遠ざけるためのものだが、一方で米軍は、人間は輪の中にとどまるともしている。

    • 第7章ロボットの神

DARPAなどの資金と技術者の関係。軍事技術だからといって、開発が機密として扱われているわけでは全然ないという話。

    • 第8章SFが戦争の未来を左右する

ロボットと戦争だなんてまるでSFだなという感想を持つだろうが、アメリカではSFやSF作家の軍への影響力というのも実際あるらしい

    • 第9章ノーというロボット工学者たち
  • 第2部変化がもたらすもの
    • 第10章軍事における革命(RMA

RMAというのは、技術革新によって軍事において大きな変化が起こることをさす。
RMAについて論じていた軍人たちは、しかしロボットには全然注目していなかったとか。

    • 第11章「進歩的」戦争

ロボット技術は、アフガン・イラク以降すっかり戦場に浸透したようだが、米軍という組織の中に根付いたとまではいえない。ロボットを使った戦略・方針がまだたっていない。
また、武装勢力もロボットに馴れ始めている。米軍のロボットを捕まえて再利用したりもしている。

アジア(日・韓・中)のロボット技術の話
また、アメリカの教育における理系離れや米軍において新技術が浸透しない理由など

ヒズボラアルカイダが、無人システムを使っているという話。
アルカイダでは、ネット上からイラクで爆弾を爆発させるというシステムを使っていたりするらしい。
新技術のジレンマ(テロ集団に使われる→それを防ぐための監視技術→市民の権利を侵害)

    • 第14章敗者とハイテク嫌い

情報格差などと呼ばれるが、情報化やグローバル化によって情報格差がなくなるほどに、経済的格差が浮き彫りになる。

    • 第15章ウォーボットの心理学

ロボットが与える心理的影響について
米軍側は、武装勢力などがロボットを怖れ、また戦うことを無意味だと思ってくれると考えている
一方イラク人などは、アメリカを卑怯で臆病者だと考え、逆に戦うモチベーションを生じさせている。

    • 第16章ユーチューブ戦争

国民にとって戦争が遠くなり、開戦の敷居が低くなるのではないか

    • 第17章戦争体験も戦士も変わる

無人偵察機プレデターパイロットの話。ネバダ州からアフガンやイラクの戦場に出向く。
チャットルームでメッセージが飛び交い作戦が遂行される→情報のフラット化による指揮系統の混乱
一方で、実際の戦場ではロボットとの絆が生まれている。
爆弾処理ロボットに勲章を与えていたり

    • 第18章指揮統制

内地で戦闘に従事することは命の危険はないが、新たな心理的ストレスが生じている
階級の高い将官などが、現地の映像が細かく見れるばかりに細かいことまで口出しするようになっている。
情報処理の高速化・増大に伴い、人間では処理しきれなくなっている

    • 第19章誰を参戦させるか

テレビゲーム世代の若者が優秀な兵士に
一方で、平均年齢は上昇
人工パーツによる肉体の増強などは今後どのように考えればよいのか

法的・倫理的議論は全く追いついていない。
赤十字などは多忙でロボットまで手が回っていない。ロボット開発者側はそうしたことをほとんど知らない(あるいは見ないふりをしている?)
無人システムは、怒りに駆られた突発的な戦争犯罪を減らせると考えられている一方で、人を殺すことをより容易にするとも考えられている。*3
自律ロボットに関する責任は一体誰が負うのか。

    • 第21章ロボットの反乱?
    • 第22章結論

防衛省無人飛行機など

今日、このブログを書こうとしたらこんな2chまとめブログの記事が目に入った。
【動画あり】防衛省が開発した兵器が凄い : 暇人\(^o^)/速報 - ライブドアブログ
球形の無人偵察機で、これが飛んでいる様はまるでSF映画のようなのでぜひ見て欲しい。
さて、このスレでは他にも無人機の動画が色々貼られていたが、以下の動画は、本書にも登場したものも含めて色々な無人機が紹介されている。

本書では、1,2行しか言及がなかったけれど、こいつも有名ですねw


ロボット兵士の戦争

ロボット兵士の戦争

*1:ところで、もう一人のピーター・シンガー(オーストラリアの倫理学者の方)もやはり現代必読作者の一人だと思うが、まだ読めてません、すみません。そんなんばっかだ

*2:ということになっている。まあ実際かなり縁遠いだろうとは思うが、米軍からコンタクトうけている研究者はいるし、もちろん防衛省というのもある

*3:グロスマンが参照されていた。デーヴ・グロスマン『戦争における「人殺し」の心理学』 - logical cypher scape