『冷たい熱帯魚』

初めての園子温
「人生は痛いんだ−!」
実際にあったバラバラ殺人事件をモデルにしており、R-18指定もついているので、結構スプラッタなシーンも多いけれど、何よりも怖いのは気付いたら訳分からんところまで連れて行かれてるハイテンションさじゃないかという映画。
冒頭、神楽坂恵演じる妙子が、スーパーで冷凍食品を買いあさりその日の夕飯を作っていくシークエンスが、パーカッション主体のBGMと時折挿入される手書きの文字とで、テンポよく進んでいってかっこいいのだが、どこかコミカルな感じもして、それでいて既にどこか不穏な空気を漂わせている。
作中、何度か挿入されるこのパーカッションが、とにかくやばいと思う。
でんでん演じる村田のテンションとあわさって、どこ連れてかれるんだという感じになる。
スプラッタな暴力シーンとか躊躇なく行われる遺体解体とかもおっそろしいのであるが、村田がかなり強烈なキャラで、社本を洗脳・自己啓発していくという過程が本当におっそろしいところかもしれない。


以下、ネタバレ満載のあらすじ
吹越満演じる社本は熱帯魚店を経営しており、娘と若い後妻がいるが、娘と後妻との仲は険悪、後妻との蜜月も既に過ぎ去っている。ある日、娘がスーパーで万引きして店員に呼び出されるが、それを見ていたでんでん演じる村田という男が何故か社本を助けてくれる。彼もまた熱帯魚店を経営しているといい*1、あれよあれよという間に娘を村田のもとで住み込みで働かせることになる。
この村田という男は、ザ・ワンマン社長という感じで異常にテンションが高く、人の脇にすっと入ってきてしまう、一見人当たりのよいおっさんのようにも見えるが、その人当たりのよさも含めて、天然で洗脳術を身につけているような男なのである。優しい言葉をかけたかと思ったら、突然豹変して暴力をふるい、そしてまた何事もなかったかのように話しかけてくる。優しいときも暴力的な時も、常に大声でテンポよく畳みかけてくる。完全に相手の思考力を奪ってくる話し方。
一方の社本というのは、気弱な感じでプラネタリウムが好きなロマンチストで、まあとても村田に逆らえるようなタイプではない。
そして、村田は社本の目の前で一人毒殺。そのまま社本の車を使って遺体を山奥の小屋へと運び、妻とともに瞬く間に解体してしまう。社本は終始怯えっぱなしなのだが、村田に脅されすかされついてきてしまう。それにしても、村田夫妻の手際のよさが半端ない。
その後、社本はなんとか娘を村田のもとから連れだそうとするが、もともと娘からは嫌われてしまっており、また娘は村田のことを気に入っているため、うまくいかない。
殺した男の舎弟が村田のもとにくるというので、社本もアリバイ工作のためにセリフを覚えさせられるのだが、ここらへんも自己啓発セミナーっぽい感じ
渡辺哲演じる弁護士*2と村田は、表向きはうまくやっているように見えるが、実際にはお互い思うところがあるらしい。
弁護士と村田の妻の不倫現場らしきところを目撃して混乱する社本。そこに刑事が近づいてくる。さすがに村田とのことを言うことはできないが、こっそりと刑事から名刺を渡される。
再び、村田に振り回されるように連れ出される社本。向かった先の弁護士の家では、村田の妻が弁護士とその運転手を殺している最中であった。再び遺体運び、手慣れた解体。弁護士のペニスをもてあそぶ村田夫妻。村田は社本に対して、解体の仕方を教えてやるという。
細切れになった肉を川へ捨てにいくと、今回はお前がやれと命令される。
そして、村田から妻や娘との関係についてずばずばと指摘され、さらに社本の妻とやったことをほのめかされる*3。で、殴り合いになるのだが、ここも村田が社本に向かって「俺のことを殴れー」とか言ってて、完全に自己啓発セミナー
さらに村田妻と無理矢理セックスさせられる。のだが、ここで社本がついに覚醒。村田夫妻に反撃し、村田を瀕死の状態へ追いやり、再び山奥の死体解体小屋へ向かう。村田妻に村田へのとどめをささせる。
村田妻が一番頭おかしい人で、今度は一気に社本に傾倒するようになる。
社本は、娘を連れ帰り妻に夕飯を作らせ、二人に家庭内暴力をふるいまくり、妻から結婚生活への後悔の言葉を引き出させる。
刑事に電話を入れ、再び死体解体小屋へ行くと、村田を解体しているまっさいちゅうの村田妻を殺す。
そこに刑事が登場。刑事の車には社本の妻子が同乗。血に染まったワイシャツをまとった社本に駆け寄る社本妻だったが、あっさり刺殺される。最後に残った娘の方に向い、「人生は痛いんだー!」という謎の説教をかますと、首切って自殺。
死んだ社本を眺める娘。「やっと死んだ、このクソオヤジー!」大喜びで父親の遺体を蹴りまくる娘。
完!


ところで、これは実在の殺人事件をもとにしているらしいのだが、ググってみたところ、静岡ではなく埼玉、熱帯魚店ではなくて犬屋で起きた事件らしい。
94年頃に起きていて、当時メディアでも結構騒がれたらしいが、その後オウムが起こるので急速に忘れ去られた事件のようだ。
殺し方(毒殺)や、バラバラにする手法、あるいはバラバラにすることを「ボディを透明にする」と表現していることなどは確かに実際におきた事件そのままのようだが、むろん本作はフィクションであり、結末や人間関係、実際におきた殺人の件数なども含めて、事実とはかなり異なる。
また、映画では妻はかなりいかれた人物として描かれているが、妻の冤罪を主張しているグループもいるみたい。


あと全編にわたって、社本妻(神楽坂恵)がおっぱい要員

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*1:なんでこんな田舎に熱帯魚店がいくつもあるのよと思ったがw

*2:と名乗っているが正体は不明。ただのやくざ屋さんにも見えるし、本当に弁護士だとしてもそういうの専門でしょう

*3:かなり最初の方で社本の妻は村田にやられている。このときは、村田は社本の妻と単にやり目で接近したのかなあと思ったのだが、こうなってくると徹底的に社本をコントロールするためだったのかなあとも思えてくる。実際のところは何も考えてなさそうで、それはそれで怖い