広沢サカキ『アイドライジング!』

新刊のラノベ買うのとかすげー久しぶり!
ラノベを読むこと自体久しぶり。
まあそんな人間が何故この本を手に取ることが出来たのかというと

アイドライジング!』文章はテンポ良くてすっきりしてるし、マジかエンタメかというアイドル批評的な視点もある平成ライダー風な味付けのバトルも楽しい。なにより、なんとなく始めることになったアイドル業にヒロインが本気になっていく王道のアイドルものになっているのが良い。続刊が出る事を期待
http://twitter.com/kiridance/status/36964416738037761

というのを見かけたから。
まあ、アイドルなのだけど、設定としてはいわゆる普通のアイドルではなくて、「アイドライジング」という格闘技的なもので戦うアイドルの話。
バトルスーツというものを着て戦うのだけど、そのスーツはそれぞれ様々な企業の技術による必殺技が使えるようになっている*1。なので、格闘技として、というよりは、各企業の技術ショー的な位置付けなのだと思うが、
とにかく、かわいい女の子たちがバトルスーツ着て必殺技とか繰り出して戦うよ、みんなそういうの好きでしょ、というのが「アイドライジング」なのである*2
アイドライジングのことなんて全然知らない女の子、アイザワ・モモがひょんなきっかけでアイドルを始め、トップアイドルとのバトルに勝利していくという物語。
アイマスのプロデューサー的な意味でのプロデューサーがいて、アイザワ・モモが181cmの長身であるのに対して、彼女のプロデューサーであるオウダ・サイは138cmのちびっ子で、その2人の百合もある。
さて、感想を書こうと思ってはたと困ってしまった。
小説としては普通
設定で色々つっこもうと思えば出来るけど、それも不毛だし(ラノベだから、というわけではなく、設定にツッコミどころがあることは直接的には作品の良し悪しと関わっていないと思えるから。設定が完璧でもつまらない作品もあるし、ツッコミどころ多くても面白い作品もある。また、この作品の場合、設定へのツッコミどころが重大な瑕疵にもなっていないし)。
で、まあ、一つあげるとすると、展開が早いってことか。
もちろん、現実のアイドルでもなんかの企画とタイアップしてデビューすれば、いきなりでかい仕事が来ることはあるだろうけど、アイザワ・モモはトントン拍子ってもんじゃねーぞw 
初心者の主人公が超強い奴にいきなり勝っちゃうっていうのは、まあ王道っちゃ王道ですけどねー。そこの説得力をどう持たせるか、という問題があって、一応ちゃんとその説明は用意されていて、それがエンディングになっているのだけれど、弱い気はしてしまう。*3
かといって、下積み時代とか書かれてしまってもそれは分量的に困難なのは目に見えているわけだが。あるいは、芸能業界的な要素を入れた方がリアルで面白いのか、興ざめしてつまらなくなってしまうのか*4
ただ、例えばPerfumeの人気の一端に彼女たちの下積みストーリーがあるだろうし、アイドルファンというのはマイナーなアイドルが次第に人気を獲得していくところを見ていくのが楽しいのではないだろうか*5
トップアイドルに登り詰めるにはちょっとあまりにも短すぎない? というと、アイマスもそうである。
アイマスは、1年間という限られた時間しかアイドルをプロデュースすることができない。
これは、一定のターン数で与えられた目標をクリアするというタイプのゲームだからで、ゲームとしては珍しくないシステムだと思う。
そして、その一定のターン数が1年間とされているのである。
死に舞さんがゲームを(比喩的に)統語論と意味論に区別しているけれど、一定のターン数という統語論的な言い方に対して、「1年間」という意味論な言い方がかぶせられている。これが1年間である必要は全くなくて、例えば5年間とかでもよかったはずで、デビューして1年たったらどんだけ売れていたとしても即解散というのも、デビュー1年で世界規模のトップアイドルになれてしまうのも意味不明である。
しかし、アイマスはゲームであるから、実際のプレイヤーというのは何度も何度もプレイすることで、ようやくトップアイドルに到達することができる。なので、プレイヤー視点からいけば、トップアイドルになるために十分な時間を費やしているのであり、決して意味不明でも説得力のない話でもない。
さらにいえば、幸か不幸か、1年経つと強制的にアイドルとプロデューサーは別れなければならないという設定は、色々な二次創作を生む刺激ともなった*6
だから、アイマスにおいて、1年間というのは、説得力のない非現実的なものではなくて、むしろ重要なものになっている。
『アイドライジング』はそういうものがないので、どうしても説得力が弱いなーと感じてしまう。
その点、注目に値するのは、ハセガワ・オリンで、彼女はオーディションを勝ち抜いてデビューするはずだったのだが、直前でその座をアイザワ・モモに奪われてしまい、その後、かろうじて弱小プロダクションに拾われたアイドルを志望する少女なのである。
まあ、彼女の方も、もし2巻が出たらいきなりトップアイドル級の活躍をしはじめそうな雰囲気があるけれど、しかし、彼女には是非下積みをやっていてもらいたい!w
それからオリンは、裏表にギャップのあってよい萌えポイントとなっているので、4人のアイドルの中では一番好きだなw


あと、イラストはよい。
目キラキラ、髪フワフワな感じで、アイドルという感じがする(特に、この『アイドライジング』という作品の世界の中のアイドルなんだろうなあという感じ*7)。表紙は制服っぽいのを着ているけれど、カラーイラストも作中でも基本的には制服着ていないのもいい*8。(ところで、本文中で毎回服装の描写が出てくるのだけれど、あれはあまりにも説明的すぎで微妙だった。服装というのは、キャラクターの雰囲気や性格をあらわすためのよい小道具ではあるけれど、登場時に3行で着ているものを説明されてもわからんし、あれで適切に想像できている読者はあまりいない気がする。小説で服っていうと嶽本野ばらを思い出す。彼の場合も、やっぱり説明的にしか服は描かれていないんだけど、ゴスロリブランドの背景があるから、ちゃんと各キャラクターを意味づけるものになってんだよね。そうでなければ、詳しく書く必要などないと思う。それこそラノベはイラストがあるのだから、イラストに丸投げしてしまった方がよくないか)
萌え絵の系統がよく分からないので、こういう言い方であってるかわからんけど、エロゲ系ではなくてエニックス・角川系の少女マンガから影響を受けた萌え系少年マンガ系のタッチなのも個人的な好みである。

アイドライジング! (電撃文庫)

アイドライジング! (電撃文庫)

*1:例えば、鉄道会社の作ったスーツはリニアモーターカーの技術を使った高速移動が可能になっている。まあ詳しい仕組みとかは気にすんな!

*2:ドームで行われていて、テレビやネットで中継されていて、運営しているのは何故か財団法人らしい

*3:一応言い添えておくと、それなりに楽しんだ。ただ、こういうのを読みたいなと思ったときは、むしろノベマスに言っちゃうね、自分は

*4:でも、ゴシップではなくて、裏方の人の色々な努力とかにフォーカスすればそれはそれで面白いと思う。そういう路線で考えると、段取り無視なこの展開はどうなの、とかなる

*5:僕はそこまで深くアイドルにコミットしたことないので分からないけれど

*6:ゲームシステムの都合で「意味論としては」わけが分からなくなってしまった設定が、しかし二次創作においてはうまく再解釈されているものとしては、他には双海真美がいると思う

*7:どういうことかというと、現代日本のアイドルというと水着グラビアアイドルかハロプロ・AKBがほとんどだから。これに出てくるアイドルは、むしろファッションモデル系に近い。実際、アイドライジング以外の仕事としてはモデルをやってるっぽい

*8:バトルスーツは個人的にはわりとどうでもいい。