福江翼『生命は、宇宙のどこで生まれたのか』

先日、NASA系外惑星候補を1200個以上も見つけたニュースがあった。
しかもその中には、ハビタブルゾーン(液体の水が存在する範囲)にあると見られる地球サイズの天体も5つ含まれているとか。
NASA Finds Earth-size Planet Candidates in the Habitable Zone | NASA
ケプラー (探査機) - Wikipedia
とまあ、そんな時事ネタにのって、読んでみたのがこの宇宙生物学の入門書。
「はじめに」で「カタカナ語や専門用語をなるべく使わずに(略)執筆しました」とあるように、かなり平易な日本語で書かれていて、読みやすいと思う人もいれば、物足りないと思う人もいる感じ。読みやすいことは決して悪いことではないのでそれはいいとして、一つだけ注文をつけるとしたら、今後さらに他の本も読み進めていくために、専門用語も横に添えてあればよかったなと思った。ブックガイドとか(参考文献はこの本の次に手に取るにはちょっと遠いものばかりで)。


宇宙生物学とは、総合的な科学であるということが「はじめに」と「あとがき」で書かれているけれど、実際に生物学、天文学、惑星科学、化学などが入り交じっている。ちなみに、著者は宇宙物理学専攻で、国立天文台ハワイ観測所研究員である。
序章と第一章は序論のような感じで、第2章では恒星*1、惑星、地球と月がどのように生まれてきたか、ということが説明され、最後にはやぶさに触れて、はやぶさのミッションがどのような研究とかかわっているのか書かれている。
第3章は、生命とは何かと題されて、最初はDNAや細胞の話で進むのだが、次いで水やタンパク質の化学的な構造について説明される。ここでは、さまざまな物質の性質を巧みに利用していることが論じられているわけだが、一方でそれが「水」である必要はなく、その「性質」が重要であるということも触れられたりしていて、宇宙生物学っぽい感じになっていく。
第4章は、より専門的な話題に入っていく。
何故地球の生命はすべて「左手型アミノ酸」でできているのか。アミノ酸には右手型と左手型があるのだが、何故か地球の生命は左手型のアミノ酸しか使っていない。
自然界において、右手型と左手型はほぼ同数存在していて、また、右手型アミノ酸による生命というのも理論的には考えることができる。ならば、何故地球の生命は左手型アミノ酸しか使っていないのか。
おそらく生命が誕生する環境において、左手型アミノ酸への偏りが見られたと考えられる。
では、どうしたら偏るのか。
円偏光というものがそのような効果をもたらす。普通の紫外線は右手型アミノ酸も左手型アミノ酸もどちらも破壊するが、円偏光の紫外線はそのどちらかだけを破壊するので、これを浴びるとどちらかに偏ることになる。
また、アミノ酸の前駆体もやはり円偏光によって偏る。
宇宙空間においては、アミノ酸よりもアミノ酸の前駆体の方がある可能性が高い。
また、円偏光による偏りはじつはそれほど大きなものではないが、前駆体が偏っていた場合、アミノ酸が自己増殖する際にその偏りが大きくなっていくことが知られていく。
また、円偏光は非常に珍しい現象だが、オリオン星雲で観測されている。若い星のいる星雲の塵によって円偏光が生じるのだ。
この章は、それこそ化学、生物学、物理学、天文学とジャンルを横断して話が進んでいくし、また筆者自身がオリオン星雲からの円偏光の観測に携わっていて、まさに現在進行中の研究についての話題でもあり、宇宙生物学ってこんな感じなのかということに触れられて、読んだ甲斐のある面白い章だった。
第5章では、いよいよ地球以外の天体に生命はいるのか、という話題へ移っていく。
水ってメーザーを放つことができるらしい。
まずは火星と月の話。
月で水(氷)が発見されたのって2009年だったのね。(エルクロス - Wikipedia)『第六大陸』に出てくるから、もっと前に発見されているものだと思っていたw
次に、土星の衛星タイタン。液体のメタンの話。-200℃の液体でできた生命はいるのだろうか。
続いて、木星の衛星エウロパ。こちらは地下の海の話。
そして、彗星のアミノ酸の話。彗星が生命のもとを地球へと運んできたのかもしれない。(スターダスト (探査機) - Wikipedia
系外惑星の話も載っているけれど、この本が書かれたときにはまだケプラーのニュースは出ていなかったから、ケプラーについての言及はなし。「スーパーアース」という言葉が最近使われるようになっていることの紹介。ただ、これは単に地球より大きいが木星なんかよりは小さい惑星、程度の意味で使われていて、詳しいことはよくわかっていない状況だとか。今回、ケプラーが見つけた惑星候補の中には288のスーパーアースサイズがあり、またハビタブルゾーン内のスパーアース候補は49個らしい。
系外惑星には、様々な環境のものがあるだろう、という話は、なかなかSFっぽくって楽しい。
例えば、地球の月は地球にはいつも同じ側を向けているが、系外惑星には恒星にいつも同じ側を向けている惑星があるかもしれない。また、恒星のサイズが太陽と違えば、太陽の色も異なるだろうし、あるいは連星であったらどうなるであろうか。ここらへんは、アシモフの「夜来たる」を想起させる。
今後の系外惑星探索として、すばる望遠鏡すばる望遠鏡の近くに新しい巨大望遠鏡を建造するTMT計画、ハッブルの後継機としてのJWSTが挙げられている。
第6章は、おまけ的な感じで大絶滅の話がされて、終わり。


ところで、地球外生命体の話は、長沼毅・藤崎慎吾『辺境生物探訪記』 - logical cypher scapeにも載っていた。こっちでは、太陽系の他の惑星や衛星についてもう少し詳しく載っている。ガニメデやエンケラドゥスの話が面白いかも。
こちらは、生命のいる星の条件として、水よりは熱源に注目して話しているのも面白い。
長沼さんがガニメデの磁場の話にくいつくのも、磁場と熱源が関係しているから。
また、一方で水はあればいいものというわけではなくて、多すぎると不都合が生じるかもしれないということも言われている。


生命は、宇宙のどこで生まれたのか(祥伝社新書229)

生命は、宇宙のどこで生まれたのか(祥伝社新書229)

*1:この本では単に「星」と書かれている