『プレステージ』

インソムニア』と『プレステージ』も近いうちにビデオで見ようと思う。
『インセプション』 - logical cypher scape

と言ったとおり、『プレステージ』を見た
やっぱ、ノーラン面白いなあ
インセプション』は何だかんだいってハッピーエンド的な終わり方だけれど、『メメント』といい『ダークナイト』といいこれといい、なかなかずしっとした終わり方をしてくれる
しかし、エンディングだけでなくエンディングにいたるまで、特に後半はぐいぐいと見入らせる展開が続くように出来ている。
最後のネタばらしも面白いことは面白いのだが、まああれは事前に分かってしまうので、「おお、そうだったのか」って感じはない。もう少ししたら、ネタバレをここに書くけれど、片方はミステリとしてはよくあるネタで、もう片方はSFなんで、ミステリとしてはあまり楽しめないかもしれないけれど、そこに至るまでの2人のマジシャンの確執が迫力ある。2人の執念みたいなものが、そういう最後に至ってしまう。
思えば、ノーランの作品というのはそういう、行き着くところまで行き着いちゃったよみたいな感じが結構あるかもしれない。そういう部分があるゆえに、結構マニアックなトリックやらネタやらを使いながらも、一般受けするようなエンターテイメントたりえているのかもしれない。


「偉大なダントン」ことアンジャーというマジシャンが、瞬間移動マジックの途中に死亡し、その犯人として、ライバルのマジシャンである「教授」ことボーデンが逮捕されるシーンから始まる。
そこから時を遡って、アンジャーとボーデンの確執、瞬間移動マジックのトリックなどが語られていくことになる。少し見てれば慣れるが、最初は時間軸がぽんぽんと飛ぶのでやや戸惑うかもしれない。
アンジャーとボーデンは、元々は健全なライバル同士だったわけだが、ボーデンのミス(というか、彼の過信?挑戦?)で、マジックのアシスタントをしていたアンジャーの妻が死んでしまうところから、2人の確執が深くなっていく。
互いに復讐しあう、不毛な泥仕合へと突入していくわけだが、そこには単なる復讐心を越えた、マジシャンの業のようなものがぐつぐつと煮込まれていく。
その中心に置かれるのが「瞬間移動マジック」である。
ボーデンの瞬間移動マジックのトリックを暴くことに、アンジャーを血道を上げていく。
その過程で、アンジャーはボーデンの、ボーデンはアンジャーの日誌をそれぞれ手に入れて、暗号を解きながら読み進めていくのだけれど、その両方が盗まれることを予期して書かれていることが途中で明らかになるところとか、たまらない。
時間軸がぽんぽん飛びながら展開していくというのは、つまり、語りとしては回想のかたちをとっているわけだが、その回想が日誌の中身だとするならば、その日誌自体が相手を騙すために書かれている以上、何がほんとうなのか分からなくなっていく。
まあ実際に映画を見る際には、そこまで複雑なことにはなっていないのだけれど、何も信じられなくて疑ってしまってうあーって話だし、実際時間軸いじられていることで、見ている方もアンジャーと同じミスリードをさせられているところがある。


あと、テスラが重要な役として出てくる。
テスラがかっこよく、怪しげで、彼もまあある意味で奇術師の一種なのかもしれない。
ただ、彼には「プレステージ」がないのかも。
ひっそりと隠れるのみ。
ダークナイト』や『インセプション』にある派手な爆発シーンとかはこの映画にはないけれど、テスラの発明した諸々は無駄に派手で楽しいw
っていうか、山肌を埋め尽くす電球とかは、アースアートみたい


さて、ここからネタバレ
前半の方で中国人奇術師が、トリックを見破られないために普段から脚の悪いふりをしているというシーンが出てくる。
マジシャンというのは、ステージの上でだけでも現実を忘れさせ仮初めの驚きを演出してみせる職業だといえるが、それを徹底させると、自分の現実の人生をも費やしてしまうことになる。
それを実際にやっているのはアンジャーのように最初は思える。彼はもともと貴族の出だが、それを隠してマジシャンをやっているからだ。
しかし、本当により徹底していたのは、ボーデンであることが最後には分かる。
彼の瞬間移動マジックを、替え玉を使ったトリックだとアンジャーのパートナーであるカッターは言うが、それが単なる替え玉ではなく、ボーデンの双子なのである。彼らは自らが双子であることを隠して生きている。
ボーデンの妻サラは、(自分のことを愛している)「本当の日」と「ウソの日」があるという。そしてボーデンは、アンジャーのスパイとして近付いてきたオリヴィアと逢瀬を重ねることとなるが、これは本当ならば浮気・不倫の類のではなく、ボーデンが実際には2人いるがために、たんにそれぞれが別の女性を愛している、というだけなのだ。
だが、ボーデンは瞬間移動マジックのトリックを隠すために、ステージ上の嘘を守るために、現実の人生において双子であることをひた隠す。
一方のアンジャーはどうか。
彼は、ボーデンの瞬間移動マジックが、テスラの作ったマシンであるとミスリードされて、イギリスからアメリカへと渡ってテスラへと会いに行く。彼はただひたすらに、ボーデンよりも見事なマジックを成し遂げたいと考えて、マジックではない領域へと足を踏み込んでしまう*1
そして、天才テスラはとんでもないマシンを完成させてしまう。
それは瞬間移動マシンにして、複製マシンである。別の場所に全く同じものをコピーしてしまうマシンなのである。
これには文字通り種も仕掛けもない。アンジャーは見事な瞬間移動をステージ上で見せることになるが、それはもはやマジックではない。
彼は、瞬間移動を行うたびに、もう片方を脱出不可能な水槽へと落下させることで殺し、隠す*2
これまた、ボーデンなみに現実の人生をステージへと費やしてしまった男ではあるが、彼はもはやマジシャンですらなくなってしまっている。それゆえ、彼には敗北が待っている。

ミステリでよく使われる双子のトリック
そしてこれまたSFやら心の哲学の思考実験でよく見掛ける、コピー人間の話
というそれ単体で結構ワクワクするネタを、あくまでも物語の仕掛けの一つとして利用して、マジシャンの生の業の深さが描かれている。
お前らほんと、一体どこでそんな人生を生きる覚悟決めちゃったの


俺はブルーレイで見てないけど

*1:もともとアンジャーはボーデンへの復讐心からボーデンへの妨害を始めているが、事ここに至ってくると、もはや単なる復讐心というよりもマジシャンの業のようなものを感じる

*2:当初、ボーデンによって殺されたかに見えたアンジャーの死の真相とはこれであった