『インセプション』

ノーラン見るのは『メメント』『ダークナイト』に続いて三作目。どれも超がつくほど面白く、『ダークナイト』と本作は、その年のベストに挙げれるくらい*1
ディカプリオ演じるコブは、人の夢の中に侵入してアイデアを盗み出す仕事をしているが、渡辺謙演じるサイトーに依頼されて、盗み出すのとは逆にアイデアを植え付ける=インセプションという難しい仕事に挑戦することになる。
人の夢の中へと入り込み、夢から覚めてもまた夢というのが繰り返されたり、あるいはその夢への侵入方法がサイバーパンク的(絵としてはかなりマトリックスに近い。首にコード刺すわけじゃないけど)だったりとするわけで、夢と現実が混沌としていってなんか壮大になったり難解になったり話なのかというと決してそういうわけではない。
夢と現実が分からなくなるという話ではあるけれど、どここからどこまでが夢かということは一応はっきり分かるようにされているし、きっちり分かりやすいエンターテインメントとなっている。
最後しっかり解決して終わりになるしね、一応w


この映画の何よりも面白いところは、とかく見ていてワクワクするところで、映像と音楽が非常にかっこいい。
何しろ夢の中の世界なので、世界が物理的にありえないような変容をとげるのも楽しいし、アクションシーンもそこかしこに散りばめられている。
雪山での撃ち合いとか! 俺もスキー滑りながら銃撃ってみたいww
最後に出てくる誰もいない街の海岸部分で崩れていくビルとかもきれい。
また、現実世界から夢、夢からさらに夢の中の夢へと深く潜っていくたびに、時間の進み方が変化していくという設定があり、それにあわせてスローモーションの映像が使われるのだが、このスローモーションがまたきれい。
水滴とか壁の欠片とかがパラパラと飛ぶんだけど、ああいうの見てるだけで楽しいw
寝ているときの姿勢によって、見ている夢の世界の重力が変わるというのは、「あるある」って感じで面白かった
それから、夢から醒ますために「キック」というのを行う。これは文字通り、蹴り飛ばすことで無理矢理起こすってことなんだけど、何故か夢の世界で「キック」するときは、車を落としたり建物ごと爆破したりするわけで、無駄に爆破シーンがわんさかでてくる。こういう無駄爆破シーンはそういえば『ダークナイト』にもあったなw
それからシナリオが、わかりやすいくらいにハリウッド的に出来ている。
つまり、主人公自体がある問題を抱えていて、事件そのものを解決すると共に、主人公自身の問題解決も同時に図られるというもの。
これがあるおかげで、主人公の動機がわかりやすく、かつ話が無駄に壮大になったり難解になったりしないようにできていて、収まりのよい規模の物語になっているのもよい。
主人公についてはまた後述する。
それから、チーム制になっているのもワクワクするポイント。
一人ずつ仲間を集めていったり、全員揃うと、誰もいない道で6人がバラバラと立っているところだったり、それだけで楽しくなりますねw
チーム紅一点のアリアドネ蒼井優に似ていてかわいい。
洋画のヒロインにあんまりかわいさを感じることないんだけど*2アリアドネはかわいかった*3
それから、コブの相棒のアーサーがかっこいい。というかアーサー萌えw
「あいつには想像力が足りない」なんて言われちゃう感じの生真面目な役なんだけども、なかなかアクションかましてくれます。


ここから先はネタバレありエリア


コブとモルってセカイ系だよねw
いや、もちろん『インセプション』自体は全くセカイ系ではないんだけれど。
映画というのは大抵2時間くらいであって、そういう場合物語の規模はそんなに大してでかくできない。そういう意味で、コブの個人的な物語に展開をナビゲートさせたのはよかったと思う。
夢の深部へと侵入していくのが、コブのカウンセリング的なものにもなっている。夢と精神分析
で、コブとモルで50年間夢の世界でふたりで暮らしたというところ、モルがコブに夢にとどまるよう望むあたりが、いわゆる「セカイ系」的な感じというか。永遠*4の2人の世界があって。ただここで面白いのは、その世界でも老化するという点で。「いっしょに年を取ろう」というのがコブのプロポーズの言葉なわけだけれど、夢の中で確かに「いっしょに年を取っ」た。だからこそ、最後にモルと夢の中に残るのではなくて、いわばモルを看取ることができる。看取るというか、コブの潜在意識の中の話なので、モルの死を受け入れる
あまり整理できてないなあ。ここらへんが結構見てて感極まるところだった。
もちろん、モルへの罪悪感の話でもあるわけだけれど、インセプションは広い影響を与えるからそれで失敗することもあるということで、インセプションは夢の深層に潜り込んで行うわけだから、もしかしてコブが何かインセプションされているというふうにも見れたりするのかなと思ったけれど、これは単なる思いつきであって、特に何の証拠もない。


スタッフロールを見ていたら、2人の子どもがもっと大きくなってからの役名も出てたんだけど、そんなの出てたっけ?


老化といえば、コブとサイトーの最後のシーンとかもちょっとよくわからないところがある。何であんな時間かかったの。


まあ、最後にコマが倒れない(あるいは倒れるまで映さない)のは、こういう話のお約束みたいなものだろうけど、むしろエンタメとして最後まで徹して、夢か現実かわけわかんねーみたいな部分をあれだけに抑えたのがすごいと思う。混沌とさせようと思えばいくらでも混沌とできそうなのにねえ。
しかし何より良かったのは、スタッフロールが流れ終わるときに、夢から覚ますときの合図に使うあの歌が流れるということ。映画という夢はもう終わりですよ、という洒落た演出とも言えるし、最後のコブ同様、むしろこの現実と思っていた世界を夢だと思わせるような演出だとも言える。
いやほんと、スタッフロールの途中で帰る奴ザマァwwww
劇場が明るくなるまでが映画です
で、あの歌のタイトル、Je ne regrette rien っていうのね。私は後悔しない。

*1:メメント』はビデオで見たので「その年の」かどうか分からないし、この2作と比べるとやや劣る。ただそれは比較対象がすごいんであって、十分その年のベスト級だと思う。『インソムニア』と『プレステージ』も近いうちにビデオで見ようと思う。考えてみれば、この2本にしても、結果的には見るのを逸したけれど公開当時気になっていた作品だった。『プレステージ』は原作の『奇術師』も気になるなあ

*2:「女の子」であればもちろん「かわいい」んだけど、大人の女優だと「美人」であっても「かわいい」ことはあんまりない。それこそエマ・ワトソンとか

*3:ところでパンフレットに全然彼女のいい写真がないんだが!

*4:厳密には永遠じゃないけど