コンラッド『闇の奧』

読んだけど、なんかぼんやりとした感じの小説だった。
それは訳者解説にも指摘があって、それゆえに今では批評理論の教科書でもっともよく扱われる作品の一つになっているらしいけど、そうした解説を読まないとなんかよく分からないかなあと思った。
いや、決して難解な作品というわけではないが、でもなんか焦点があわないというか。
19世紀、ベルギーの商社にもぐりこんだマーロウは、コンゴの奥地へと向かい、ジャングルの出張所にいるクルツという男へ会いに行く。象牙をかりあつめる商社なわけだが、このクルツという男はとても有能な男らしいのだが、どうも狂気にも取り憑かれているっぽい。
アフリカの奥地でも俗物がいたりして、それが面白いけど。
あとクルツに心酔しているロシア人青年の方がよっぽど変人、というか、どうやってサバイバルしてるんだって思えるような奴でなんか面白い。
でも、クルツとクルツ回りの人間関係だけがどうも掴みにくい。もちろん、そういう演出なんだろうけど。
この本、訳注がとても詳しい。ちょ、訳注でネタバレすんなって思う箇所が何度もあったが、それもネタバレというよりは、訳注で捕捉してくれないと分からない情報ではあった。あと、『闇の奧』研究史トリビアっぽいものも入れられてたし
訳者解説は、ポストコロニアル的な面から見た『闇の奧』という感じで、発表当時は主人公マーロウの成長物語ととられていたが、アフリカ人作家アチェベが差別的作品だと断じたところで読み方が変わってくる、と。で、訳者はアチェベより前のアレントの解釈を取り上げる。クルツは、白人のアフリカ化を示しており、白人のアフリカ化とナチスを繋げてみせるという解釈である。訳者はここで、しかし白人のアフリカ化にアフリカが本当に必要なのかどうかを問い、また、ユダヤ人のホロコーストは広く知られているのに対して、ベルギー王国によるコンゴ人虐殺がそれほど時期的には離れていないのにも拘わらず知られても研究されてもいないのは何故なのかを問うている。
まあ、『闇の奧』研究としてはそういう方向に行くのだろうなあ、と思うのだけど、だからといって『闇の奧』について何か分かったような気にはならない解説でもあると思った。

闇の奥

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