樺山三英『ハムレット・シンドローム』

まさかの、樺山三英の新作はガガガ文庫
『ジャン・ジャックの自意識の場合』*1よりはだいぶ難易度(?)が下がり、読みやすくなっているが、めくるめく樺山ワールドが繰り広げられている。
切り立つ崖に建つ怪しげな城の中で、ハムレットを演じ続ける男。彼は本当に気が狂ってしまったのか、それとも正気なのかを調べるために、その城へと送り込まれた男。その城では、誰もが『ハムレット』の役とならなければならない。
ハムレットは、復讐者であるが、それと同時に、あるいはそれ以上に演技者でもある。気が狂ったふりをしつづける。してみると、その城の中でハムレットを演じる男は、気が狂ったふりをしている男のふりをしていることとなる。
人は何かの役を演じているものである、とはよく言われることであるが、その城では演じること、ふりをすることが突き詰められていく。
登場人物たちの、いわば正体とでもいうべきものが、物語の中盤から少しずつ明かされていく、のだが、明かされれば明かされるほど謎が増えていく。というよりも、真相ともいうべきものがいくつもあるのである。そうした重ね合わせの果てに、再び城の中へと閉じこめられてしまうのである(そしてそれは、『ハムレット』という作品そのものに様々な異なるバージョンがあることや、シェイクスピアのそれも様々な解釈の中で一定しないこととも類比されている)。
芝居と現実、狂気と正気、嘘と本当、夢と現、生と死、人形、双子*2、二人一役、一人二役、復讐、影武者、執事、メイド、落下。
最後の方に謎の学校が出てきたが、『ジャン・ジャックの自意識の場合』に出てくる学園をなんか思い出した。
ところでこの作品、無論『ハムレット』もベースだが、久生十蘭の「刺客」「ハムレット」という短編の翻案らしい。というわけで、いつかそっちも読んでみたいと思う。

ハムレット・シンドローム (ガガガ文庫)

ハムレット・シンドローム (ガガガ文庫)

*1:樺山三英『ジャン=ジャックの自意識の場合』 - logical cypher scape

*2:死んだきょうだいというのは、アイデンティティに結構影響をもたらすものなのかもね。この前、『美の巨人たち』でゴッホとダリを取り上げて、共に死んだ同名の兄がいるということをやっていた